第84章 靉靆の牙 ~青空の下へ~
怪物は、ヤイバとアキラを見て躊躇無く襲いかかる。ヤイバとアキラは、襲いかかる爪を剱で弾き、真剣な眼差しで怪物から視線を外さない。
ケンとブレイヴは互いに顔を見合わせ、ブレイヴが状況を聞くがケンは首を横に振る。キバに関して、ヤイバとアキラが話をしたとき、ケンは7年後の世界におり、一切知らない。
ヤイバは、当時のことを思い出しながら
「キバがここにいる理由もそうだけど、メルやレイは?」
「ヤイバ。今のキバに聞いても、答えてくれないだろ」
アキラに言われたが、ヤイバ自身も分かっている。怪物となって暴れるキバは、自身のコントロールが出来ていない。ただ、当時はメルを救うために、動いた。あのときだけ、怪物ではなくキバだった。
怪物は、アキラとヤイバの方を攻撃してくるが、かなり大振りで、避けられるとそのまま壁に激突する。
「だいぶ疲弊してるみたいだな……」
暗いため分かりづらいが、鉄格子を壊し周囲の壁が一部崩れているのは、力の限り暴れたからだろうか。いつからここに監禁され、いつから暴れていたのか。
ヤイバとアキラが、怪物と戦う中、ブレイヴが鉄格子の隣に通路があることを見つけ、
「ケン。少しこの先を見てくる。2人は、ランタンの光を頼りにしている。君は、このまま彼らの灯火として、ここにいてくれ」
ケンは言われるがまま、頷いて待機。この部屋は、ケンの持つランタンと、ヤイバとアキラが地面に置いたランタンが照らしている。ただ、地面に置かれたランタンだと、傘の部分が影になり、結局はケンの持つランタンの光が頼りになっている。
ブレイヴは自分のランタンを片手に通路を先へ進む。通路は左に折れ、ブレイヴの姿が見えなくなった。
ヤイバとアキラは、体力的に余裕はあるが、傷付けることができないため、攻撃を渋っている。
「時間をかければ、苦しいのはキバの方だって分かってはいるんだけどな……」
「アキラ。キバを気絶させるために、力を貸してくれ」
「ヤイバ?」
アキラがヤイバの方を見ると、ライトニングソードに宝玉を填める。手加減なしで、短期決戦へ。ヤイバの持つライトニングソードが雷を纏う。
アキラは自分の持つ剱を見て、伝説の剱に選ばれない自分を悔い、少し表情が陰った。暗闇の中、ヤイバはそれに気付かず、光源となるランタンを持つケンは、その姿が見え、唇を噛みしめる。
伝説の剱は、アキラから誘われて集める旅に出た。だが、伝説の剱に選ばれたのは、ケンとヤイバ、ニン、そしてジン。アキラとハガネは選ばれていない。ここまで手に入れた剱に、悉く拒絶された。今後、全部で何本あるか分からない伝説の剱に、選ばれることがあるのか分からない。
アキラ自身、自分の力不足を感じていたようだ。伝説の剱によって、確実に強くなれるケンとヤイバ。窮地の場合、2人を頼ることになる。
ヤイバがライトニングソードの力を頼り、キバへ強襲攻撃。アキラは、ヤイバの隙を突かれないようにサポートに徹する。キバの攻撃はさらに大振りになり、徐々に動きが鈍くなる。
大きな爪を振るうと、壁に刺さり怪物のキバが動かなくなった。
「落ち着いたか……」
ヤイバはライトニングソードから宝玉を外す。その一瞬、目を離したときだった。離れていたケンが、キバの不穏な動きに気付く。アキラは、ヤイバの方を見ており、それに気付いていない。
ケンが咄嗟に叫ぼうとしたとき、一瞬既視感を覚える。同じようにヤイバが余所見をしたあと、何かが襲った。それを自分が見ていた。ただ、それがキバでは無いのは確かだ。ケンは既視感で自分の世界にいたが、首を横に振って我に返り、
「ヤイバ、まだだ!」
ケンの叫びに、ヤイバとアキラがこっちを見てからキバに気付くが、このままだと間に合わない。怪物の大きな口、鋭い牙がヤイバの方を襲う。ケンはシルバーソードを鞘から抜き、
「白雷斬」
先端から半月のような白い刃が、白い雷を纏って鋭い牙へと命中。白雷斬により、怪物の大きな牙がひとつ折れ、倒れる。折れた右の牙は、床に転がる。
しばらく、ヤイバとアキラは、ケンに対して何も言えず、ケンも何も言えなかった。緊急事態とはいえ、ケンは2人の戦いに水を差したことに、後ろめたさを感じていた。ヤイバとアキラは、自分達で解決すると言っておきながら、ケンの咄嗟の判断が無ければ、大怪我を負っていたか、最悪の場合……。沈黙が続くと、ケンがその空気に耐えられず
「ごめん……。手を出した」
「いや、俺が過信してた……。というよりも、自分がなんとかすべきだと思ったことが間違いだった……」
ヤイバは、ライトニングソードの力を出した影響で、体力を大きく削り、その場に座り込む。
アキラとヤイバは黙り込み、倒れた青年のキバを見る。いつの間にか、人間の姿に戻っている。アキラはキバの容体を確認し、少し安堵した。
場を離れていたブレイヴが戻ってくると、2人に気付かれないようにケンに近づく。ケンは首を傾げると、ブレイヴは小声で
「あちらには行かない方がいい……。特に、あの3人は……」
3人とは、ヤイバとアキラ、キバのことだろう。ケンは眉をひそめ
「それって、どういうこと……?」
「処置は国王様や護衛隊に任せる他ない……。誰ひとり、生存は確認できなかった」
ブレイヴはそう言って、視線を落とす。誰ひとりということは、かなりの人数が……。ケンは状況を理解して、口元をおさえた。
「遅かれ早かれ、知ることになるだろうが……」
ブレイヴは、ここでは話すべきではないと判断したようだ。怪物化したキバによるものか、扃鎖軍によるものか分からない。しかし、老若男女の多くの亡骸があったそうだ。考えたくはないが……もしかすると、その中に……。
意識を失ったキバは、ルトピア中央病院へ搬送された。アキラとヤイバは付き添いで。多くの亡骸については、ケンとブレイヴが国王へ報告し、キバやアキラ、ヤイバには伝えなかった。国王様も、亡骸について身元を確認するまで公表せず、秘密裡に調べるそうだ。
それから時が過ぎ、ザザアと扃鎖軍による被害から復興する各国だが、それは束の間の平和であった……
To be continued…
今回で第7部が終了です。怪物キバに対して、最初は攻撃を渋っていた2人ですが、攻撃を続けるに従い、渋るどころか、かなり攻撃力の高いものでないと通らないことに気づき、ヤイバが本気を出しました。
さて、ブログ版の本作ですが第8部から、ブログ版をベースに大きく物語を動かします。ここまで動きのなかった炎帝釖軍が関わってくるかと。
『転生の楔』が始まったので、こちらは可能な限り物語を手短に進めて、話数少なめで展開していきたいです。ブログ版の第7~10部まであるので、簡単なことではないですが……。




