第77章 疑似国家
「その子は?」
ケンがマグネに聞くと、
「驪龍伝説。グーヴ中尉のお土産話によると、グリン島に伝わる伝説だ。それによると、驪龍を封印するには、封石と器となるニンゲンが必要らしい。逆に、封印が解けると、器のニンゲンごと驪龍に飲み込まれるらしい」
「その子は、イオ。マグネの言う通り、器となったニンゲンだ」
と、ノアシーはグーヴの報告書を見ながら言った。
「ただ、これで終わりではないようです」
グーヴ中尉は、追加の報告書をノアシーに渡し、
「他の島でも、龍の復活を暗示するような動きがあり、島にある封石を使えば、危機を回避できるようです」
「それ、どのくらい本当なんだ?」
マグネが情報の信憑性を問う。
「驪龍について、当てた時点で」と、グーヴの説明にマグネは割り込み
「それとは話が別だろ。驪龍に関しては、遠からず命中したが、他の島でも同様の事象が起こりえるかどうか」
「起こってからでは、遅いんですよ」
「かもしれない事象に時間を割くような人手はないぞ。直近の最優先は、髑髏島の再建だろ?」
しばらくマグネが一方的に喋っていると、グーヴは表情を変えず反論もせず、そのままマグネが喋りきるのを待った。
マグネが喋っている中、ノアシーは手帳を出して大雑把にスケジュールを見積もって、マグネが黙ったあと、
「髑髏島に関しては、あまりにも損害が酷い。特に、壁を復旧せねば、多くの人が外の世界の存在を知るだろう。すでに、勘づいている者もいるが……。ただ、ザザアによる被害状況から、各国ともに国内の復興を優先し、海へ向かう者は少ないだろう。情報によれば、港や船も多くが損害を受け、しばらくは出港できない。主を経由して、各国に復興支援の物資を送る。残念ながら、人員は送れないが、物資なら予算が下りればできるはずだ。交渉次第だな……」
ノアシー総帥……いや、ノアシー疑似国管理大臣は”ドンムール帝国”の紋章を外し、ポケットから取り出した”ターネック共和国”の紋章を付けて、どこかへ歩き出す。ヤジルトやグーヴは紋章はそのままで同行。
ヤイバが誰に向かって言ったわけでも無く、独り言のように
「あの紋章……? どういうこと?」
「ドンムール帝国も神託の国と同じってことか?」
ハガネが当てずっぽうで言うと、マグネが「そういうことだな」と否定しなかった。話が読めないメンバーは、口を挟まず、ハガネは確認として
「ということは、ドンムール帝国は組織的なものか?」
「遠からず、だな。分かるように説明するとすれば……って、これ言っていいのか?」
マグネは、同じ立場のハクリョの方を向いたが、ハクリョは自分の髭を撫でながら
「お前さんに一言言うとすれば、今更遅いじゃろ。そこまで言っておいて……。全く……黙っておれば、お主から全部バラしおって」
ハクリョは、ケン達にも分かるような、マグネに対しての呆れた表情をし、
「ドンムール帝国は疑似国家。実際の国名は、ターネック共和国。疑似国家は、ターネック共和国の一部分に存在しておる。簡単に言えば、国と市町村のような関係といえば良いかの。言っておきながら、余計に混乱しそうじゃが……。先日、アイラド地方がターネック共和国の範囲外となったわけじゃが、まぁその話は関係ないから省くとして、ターネック共和国の官僚であるノアシー疑似国家管理大臣のもとに、ドンムール帝国の政府が存在しておる。つまり、マグネやグーヴ、私やワイキは、疑似国家省の職員。ヤジルトは、ノアシーの秘書を兼務しており、ターネック共和国の役員じゃ」
ハクリョの説明によれば、ターネック共和国の一部分に存在する、政令指定都市的な存在のドンムール帝国(実際は国ではない)。そのドンムール帝国が管轄する島々のうち、髑髏島と呼ばれる島で、ケン達の住む世界、国々がある。
国があって、地方があって、市町村があるようなイメージと言われても、どれも国だ。国だと思っていた。
「ターネック共和国の国民は、そのほとんどが感情を表に出さない。当時のトップが考えた結果、こういったシステムが生まれたわけじゃ」
ハクリョは、ケン達がどんな反応をするか注視したが、ケンは
「疑似国家だとか、システムだとか……。突然、そんなことを聞いた僕らが、あれこれ言えないですけど……」
「言いたいことがあれば、今が言うチャンスだぞ」
マグネが本音を引き出そうとして、そう言ったのかどうか分からないが、ケンは頭を少し掻いて
「僕らの過ごしたあの島は、僕らにとって国であることは変わらないし……。かと言って、幽閉されていたことは、こうやって知らなければ気付かなかったと思う……。僕らにとって、壁の外に世界があるとは思いもしなかったから……」
「その外を知った以上、自ら檻には戻らないだろうな」
マグネが煽るように言うと、ケンは首を静かに横に振って
「まだ、あの場所でやらなきゃいけないことがある」
「他は?」
マグネは、ケン以外のメンバーを見て、意見を聞く。誰が先に発言するのかと、マグネがメンバーの顔を見ていると、アキラと目線が合い
「正直、俺らにとって壁の外は異国だ。……ニュアンスが微妙に違うかもしれないが、外国と大差ないと思ってる。神託の国を始めとする国々は、島内での交流があったけれど、外とは鎖国していた。……そんな感じで、ケンと同じように、深刻には思ってないさ……。少なくとも、今は」
「結局、トップがどうあれ、俺たちの活動には干渉しなかったし。ザザアのことは、微妙だけど……」
ヤイバも同じような意見だ。幽閉や実験といっても、個人を束縛していなかったし、これに関しては、みんなあっさりとしていた。
マグネはあからさまに、つまらなそうにして
「そうか……。分かった。あと、ひとつ言うが、ノアシー元帥は、壁を修復する気はない。ゲートにして、交流を考えている。いや、交易というべきか。万人が通れるわけじゃないけれど、なんらかするつもりだ」
先ほど、檻に戻るのかと言っておきながら、その檻がそもそも無くなるようだ。そう聞いて、ハガネが思ったことを一言、
「壁を直すのに費用がかかるから、いっその事ゲートにするって魂胆か」
「まぁ、そういうことだ」
マグナは否定せずに、ハガネの発言を認めた。とはいえ、容易に推測できることだが……。
「それで、だ。伝説の剱使い御一行に、それらの実施を条件に、頼み事がある」
マグネが言いたいことは、考えるまでもなく分かった。
「俺らが断ったら、復興支援しないってことかよ」
「不本意だが……、そうなるかもしれない」
マグネの言い方的に、おそらくどちらを選択しても復興支援はするつもりだろう。ただ、そういった条件を提示して体裁というか、雰囲気というか、そういったものを整える。
「帰り道に寄り道として、島々に存在する龍の封印。頼まれてくれないか?」
そう言われ、答えも分かっている。すでに出ている。封解の書には、”封石の首飾りにより、力を抑え、少年と共に剱使い達は、復活を遂げようとする龍を封じる旅へ出発する”っと、書いてあった。それに、封解の書に書いていようが無かろうが、ケンは断らないだろう。
復興を約束に、龍を封じる旅へ……
To be continued…
ちょっと予定とは異なる展開になったものの、第六部が終結です。なんとか、第七部の展開へ遷移できたかな。途中、政府側の話を全て省いたこともあり、話が脱線しないか若干危ういときもありましたが。それよりも、複数の作品が同時展開しているので、どこまで書いたかを思い出すのに苦労するね。
さて、次回は総集篇を行い、来年 第七部に突入です。
さて、ブログがサービス終了に伴い閉鎖されました。ブログには、『黒雲の剱』をはじめとする様々な作品を投稿していました。そのほとんどを引き続き、『小説家になろう』へ徐々に移行していきます。
今後ともよろしくお願いします。




