第76章 封石
封解の書には、読めない文字が書かれている。上空では、黒き鳥と驪龍との戦いが続く。ジン達が合流し、再度封解の書について話していると、ほとんどが何か書いてあるが読めないと言い、諦めかけていたとき
「私だと、読めるみたいだけど……」
エナはそう言って、ケンから封解の書を受けとり
「ここに書いてある文章は、”少年に封じられし驪龍が暴れる今、封石により鎮めることにより、再びその力を封じる。封石の首飾りにより、力を抑え、少年と共に剱使い達は、復活を遂げようとする龍を封じる旅へ出発する”って、書いてあるみたい……」
マグネはそれを聞いて、
「封石か……。グーヴ中尉に聞けば、何か分かるかもな……」
そう言って、すぐに携帯電話でグーヴ准尉に電話をかける。一方、ワイキはそれを聞いて、ノアシー達へ電話で報告する。
封石について情報が得られるまで、クロバーに加勢して、驪龍の体力を奪う。ただ、普通の攻撃は届かない。ヤイバとケンが回復すれば、技による遠距離攻撃が出来るだろう。他に、技を使えるのはジンとニンぐらいだ。驪龍の吐く火炎は、建物周辺を焼いている。
体力の回復に専念していたケンは、待機しているマグネに
「そもそも、何でマグネさんは、政府の役人に?」
「お前達に会う前から、元々役人だった。目的は、島々の伝説を調べるために。……で、髑髏島を探っている時に偶然、お前たちに会っただけだ」
マグネとケンの会話に、アキラが加わり
「じゃあ、出身はドンムール帝国ってことか?」
「いや、俺は髑髏島出身だ。だから、剱を使っている。政府の役人になったきっかけは、総帥さんらが現地調査をしているのとばったり鉢合わせしてしまった事があったからだ」
と、マグネは答えた。総帥というのは、現在ノアシーが就いている立場のことだろう。マグネが名前を出さなかったため、当時は誰だったのか分からないが。
2時間……いや、3時間以上は経っただろうか……。ノアシー達が駆けつけた時、クロバーは人間の姿で倒れており、ケンとアキラ達も怪我を負っている。だが、深い傷を負いながらも、封解の書の通りになることを信じ、驪龍を救いたいと強く思う彼らは、まだ諦めずに踏ん張っている。
驪龍も高く飛べず、地面に何度も体を撲つ。何度も飛ぼうとするが、その体力も減ってきているようだ。
「グーヴが博物館から、それらしき石を発見した!」
ノアシーが叫び、グーヴがマグネの方へ駆ける。
「おい……、遅いじゃねぇか……」
息が切れたマグネは、グーヴから封石と思われる石を受けとった。
「本当にそうなんだろうな……?」
「学者や有識者に確認しましたが、可能性は高いが、実際にやってみないことには、分からないと……」
それを聞いたマグネは鼻で笑った。答えになっていない、と感じたようだ。
「で、怪我人がどうして?」
マグネはノアシーの奥いる人物を見ている。頬にガーゼを貼っているヤジルト中将は、負傷したが現場へ復帰している。
そのヤジルト中将は、ノアシーと話をしており、
「総帥の”螢計画”ですが、現行の”燕計画”の根がかなり深そうです……。あれも、”燕計画”の氷山の一角に過ぎないのかと……」
そんな話をしていた。ただ、会話はマグネがいるところだと、聞こえないが。
ケンは汗が止まらず、治療に専念するエナから水を受けとって、一気に飲み干す。動ける人が、驪龍に立ち向かわなければ。バデポジット戦を含めれば、連続でかなり長い時間、緊迫した戦闘状態が続いている。
ケンのもとへ、封石を持ったマグネが近づき、
「グーヴ中尉が持ってきた”封石”だ。あと、あっちにいるのが、ノアシー・ガウラディ総帥とヤジルト・ロータリ中将だ。詳しい話は、この戦闘が終わった後だ。これで、驪龍を封じる。できるな?」
そう言って、ケンに封石を渡す。ケンが手をすぐに差し伸べなかったので、マグネは右手を持って、ケンの手のひらに封石を置き、有無を言わせず、握らせる。
「でも、どうすれば……」
「どうすればいいかは、ここにいる全員、誰ひとりとして分からないだろう。聞くだけ無駄だ」
アドバイスを求めたのに、マグネから否定された上に、突き飛ばされた。
「そこまで言わなくても……」
「さぁ、伝説の剱使いよ。さあさあ」
マグネはケンの背中を押して、驪龍の方へ押し込む。励ましの一言もない。ただ、一言だけ
「ケン。封石を驪龍に翳して、驪龍の心の縛りを解け」
ケンは封石を見て、一呼吸し、覚悟を決める。封石を前に突き出し、驪龍を見ると、驪龍もこちらを見ている。剱は鞘にしまい、さらに近づく。
それを見ながらアキラは、マグネのところに戻り
「心の縛りって何だよ?」
「分からん」
(なんだよそれ……)
と、アキラは聞いた自分が馬鹿だったと呆れ、マグネから離れる。
ケンが驪龍に触れると、驪龍はケンを乗せて空へと飛び上がる。予想していなかった展開に、アキラは再びマグネに近づき
「大丈夫なんだろうな……?」
「分からん」
驪龍は雲の中を泳ぐ。それを抜けると、目の前には雲海が広がっている。
「綺麗な景色だ」
ケンは驪龍の鱗を撫でながら、
「もう暴れる必要は無いよ……。十分、落ち着いたみたいだね」
ケンは封石を高く掲げる。光のせいなのか、驪龍の瞳から涙が溢れたように見えた。
次第に驪龍が輝き、封石へとその光が入っていく……。
「もう大丈夫だよ。お疲れ様」
驪龍は封石に入り、姿を消した。つまり……
雲海を突き抜けたケンは、封石を握りしめて落ちていく。地上から見て、一番に気付いたエナが
「ちょっと! ケンが落ちてる!」
「おい! 誰か受け止めろ!」
アキラもパニックだ。生身の人間が、上空から落ちてきた人を受け止められるはずがない。
ハクリョはクロバーのもとへ走り、
「クロバー中将。すでに、体力が少ないのは重々承知しているが、ケンを頼む」
クロバーは頷いて、黒き鳥の姿へ。翼を羽ばたき、落ちてくるケンを空中で拾う。
なんとか無事に地上へと帰還したケン。「空は綺麗な景色だったよ」と言いつつ、アキラに「お前、もう少しで死ぬところだぞ」と言われてしまった。
ただ、落下物はケンだけではなく……。ノアシーが気付き、
「もうひとり、落ちてくるぞ!」
それを聞いて、クロバーはすぐに動き、もうひとりの少年も救った。
To be continued…
12月分のストックが無く、分かっていた事ながら、5作品同時は厳しいですね。
さて、『黒雲の剱』は次の話次第では第六部が終わりそうです。
かなり政府側の人間の話をカットしたのに、第六部は思ったよりも長くなった気が。ただ、ブログ版と話が変わってきたけれど、大筋は変更してないので。
んー、『黒雲の剱』は、どのあたりが折り返しになるのか分からないなぁ。
追記。
驪龍の「龍」が一部異なっていたので、統一しました。




