第72章 叛逆の剱
DEGの本拠地、ドンムール帝国の政府の建物は、左右対称の造りになっており、左右は5階建てのようで、中央は塔のように高く聳えている。
「正式な手続きをするにあたり、時間を要したが、これでお主らを客人として招くことが出来る。このまま応接室まで案内する」
ハクリョ大将は、ケン達を1階の応接室まで先導して案内する。これからについて、話す場を設けたとのことだ。ただ、そういうのって、僕らではなく、もっとふさわしい人がいると思うのだが……。
ハクリョは、応接室から退室して、再度戻ってきたときは、政府の役人としての服装をしており、胸には階級を示すようなエンブレムがある。ハクリョは腕時計で時間を確認すると、
「少し時間があるようじゃな。先にベリーナのことに関して」
と、説明しようとしたとき、応接室の扉が開き
「この部屋か。……ん? ベリーナ? 違うだろ。ニルーナじゃないか」
そう言って入ってきたのは、
「マグネさん!?」
ケンは驚いて、アキラと顔を見合わせる。しかも、この前、覗き穴ごしに見た人物と同じだった。しかも、ハクリョと同じような服装をしており、
「ん? マグネさんって、役人か?」
アキラは確認不要だと思ったけれど、思わず声に出ていた。
「マグネ・ヨーピア・ディル。DEGの少将だ。以後、お見知りおきを」
なんと、アキラとケンの師匠(厳密には2人とも師匠とも先生とも言ったことはない)も、政府の役人だった。
「ケン、アキラ。久しぶりだな。大きくなったな」
「どこから言えばいいんだ……?」
アキラが返事せずに、マグネに対して何て言うか悩んでいると、マグネ少将は声のトーンを変えずに、
「で、ケンの姉のニルーナがどうしてここに? ノアシーが心配してたぞ」
場が硬直した。「今、何て言った?」誰もがそう思ったが、口に出ていない。唯一、アキラだけが冷静に
「出たよ……。マグネ節……。普段喋るのと同じように、さらっと驚愕の事実を話す、この感じ……。嘘だろ……?」
「え? 僕のお姉さん?」
ケンは、ベルーナことニルーナとマグネの方へ、何度も視線が往復する。理解が追いついていない。
マグネは、メンバーの顔を見て、また普通の会話ようなトーンで
「なんだ。長老の孫のディフェン・ドラグリンとヤイバ・ファルトも一緒なのか」
そうやって、フルネームも簡単に言う。ハガネがディフェンであることは、ハガネの偽物とケンの偽物が同士討ちしたときにポルラッツが話しており、ケンとハガネ本人は、合流したアキラから聞いており、既出の情報だ。フルネームは初めて知ったが。
「一個ずつ処理してたら、マグネ節に流されっぱなしだから気をつけろよ……」
アキラはマグネが言ったことには触れず、そう言った。一方、ケンは「えっと……」と言いつつ、整理する。
ただ、そのことに関して話す前に、応接室の外から慌ただしい足音が聞こえ、急いでノックして扉が開き、
「大変だ。バデポジットが暴走を始めた」
「バデポジットが? ワイキ准尉、本当か?」
扉に近かったマグネが返答し、ワイキは
「マグネ少将、いらっしゃたんですね……」
「ワイキ、状況は?」
ハクリョが現状について問うと、
「チルコルト代表の指示に叛いたバデポジットが、元帥に対して武力行使。同席していたヤジルト中将とガルドシア准将が庇い、元帥に怪我はないものの、2名が負傷しています……。場合によっては、他の個体も暴走するおそれがあり、ナット大佐とタリップ少佐が臨時で対策本部を設置。召集前に、市民への避難通告がまもなく……」
「コントロールできないものを、無理に扱おうとした結果じゃな……。確か、グーヴ中尉が調査していたが、アイラドが所持している”影”は……」
「グーヴ中尉のまとめだと、確か5体です。この前の報告だと。バデポジットをはじめとする実在する、または実在した人物をベースにしたクローンですね……」
”影”は、おそらくザザア軍のオンブルよりも、逢魔劔隊のゼルのほうが特性的に近いだろうか。オンブルは、人の形をしているだけで、人物ではない。対して、ゼルは同じ人の形をする。ただ、持続時間が短く、遠隔による操作を必要としていた。
ワイキ達が言う元帥とは、新政権のトップであるノアシーのことである。独立戦争の終結と独立を約束する会談のために、チルコルト代表とボディーガードのバデポジットが訪問していたが、思わぬ事態になった。ボディーガードとして、アイラド独自の技術で開発されたクローンの”影”は、自我を持っており、それが暴走している。
「あと、暴走の原因ですが……」
どうやら、ワイキの方で暴走に関する原因が分かっているようだ。ならば、それを元に対策すれば、鎮圧できるだろう。
「例の”島の伝説”が関与しているかと……」
ワイキがはっきりとは言わなかったので、マグネは
「”例の”って、どれだよ。ノンフィクションか? DEGのフィクションか?」
「島々に住みし、伝説の龍が関与しているかと……」
ワイキがかなり明確に言ったので、ハクリョはそれが気になり
「言い切れるのか?」
「はい……。まだ裏を取っている最中ですが、航空交通管制から連絡があり、未確認の飛行生物を目撃し、現場で混乱していると……。航空機との接触事故が発生しかねない状況だと……」
「それとこれが、どうして関連するかって話だが」
マグネがやや強い口調で言ったためか、ワイキはマグネに対してあからさまに嫌な顔をして、説明する。
「チルコルト代表が、直接そう言ったそうです。それ以上のことは、知りません」
これ以上、ここで会話するのも時間の無駄だと考えたマグネは、なぜか
「さて、事情が変わったわけだ。ニルーナのことは後にして、ケンとアキラ、あと戦闘に自信のあるヤツは、助っ人でちょっと来てくれ」
ここまで置いてきぼりだったのに、急に呼び出され、アキラは
「おい、俺とケンは強制かよ」
「教え子に、拒否権は無し。どこまで成長したか、見せてもらう良い機会だ。ただし、死ぬなよ」
そう言って、マグネは応接室を出る。アキラは一応、とはいえ返答は分かっているが、ケンに
「ケン、どうする?」
「僕らが手伝えるなら、手伝いたい」
「まぁ、そうだろうな。あとで、置いてきぼりにされた部分、全部説明してもらわないとな」
アキラとケンは席を立ち、ドアの方へ。ヤイバとハガネは黙って立ち上がる。ニンが立ち上がろうとしたので、ヤイバは黙ったまま、右手をニンの方に出して抑止した。ジンに目配せし、ジンには残ったメンバーと待機してもらうことに。ジンはヤイバに対して、頷き了承した。
ケン達が応接室から移動した後、ハクリョは残ったメンバーに、声をかけようとしたが、ニルーナが立ち上がり
「やっぱり、心配なんで、行きます……」
そう言って、あとを追いかけていった。エナがハクリョに対して
「ニルーナさんって、記憶は……?」
「そんなの嘘に決まっておるじゃろ。……夫が妻を巻き込みたく無かったから、ここ最近冷たくしておった。で、妻が軽く家出しただけじゃ。ケン達が会ったスーツの男達は、ノアシーの新政権を良く思っていない者達じゃろうな。妻を人質にでもする気じゃったが、それをケンとアキラに防がれたわけじゃな」
ノアシーが、何らかの事柄でニルーナを巻き込みたくなかったという理由から、離れることを選択をした。ニルーナは出た後、記憶喪失だと嘘をついて行動していたみたいだが、どうやら事情が変わったので、芝居を切り上げたようだ。
To be continued…
先週、あと1~2話かなって思っていたら、バデポジット戦ともう一戦あったので、第六部は延長です。この戦いは省かずにやります。この後の戦いが第七部だと思ってたら、第六部だったという勘違い。
マグネの名前は、第13章から何度か登場してましたが、本人が出るのは初めてですね。マグネからは、ケンとアキラは自分の教え子であり、2人も剱を教わった人として認識していますが、師匠や先生とは呼んでおらず、マグネも弟子という認識はないようです。
ニルーナがケンの姉という事実が、あっさりと流され、それ以上の情報は今のところないですね。
ハガネとヤイバのファミリーネームも第72章で初めて判明。ただ、ハガネは前の名前ですが。その、ディフェン・ドラグリンという名前ですが、クーリック村の元村長の名前はルティス・ジェージス。違うということは、ドラグリンは父方か母方どちらか別の祖父母のファミリーネームということでしょうか。ただ、ひとつ言えることとしては、作者の記憶の限り、ディフェンのファミリーネームはこのあと特に語られなかったので、こっちはあまり重要では無いかと。
次回、影との戦闘が始まります。




