第70章 ドンムール帝国
ドンムール帝国へは夜間の移動だった。細心の注意を払い、幸いなことに、面倒事には巻き込まれること無く、政府があるルイジドという街にまでたどり着いた。ワイキさんの行きつけの店だという喫茶店兼バーの中に入ると、店主のカナディアが地下へと案内してくれた。しばらくは、ここの地下が拠点になるのだろう。
碧海の神殿で入手した伝説の剱は、合成するまで、シャークソードという呼び名になり、ケンが所持している。今後について、ケンとアキラ、ヤイバ、ハガネが相談するも、全体像が見えていない今、話すだけ無駄な気がしてきた。さっさと寝た方が良いかもしれない。そんなふうに思っていると、ワイキが下りてきた。店で酒やワインを飲んだみたいで、顔が赤い。ワイキが下りてきてから、話が長かった。「聞いてくれよ」と、あれこれ話し、真面目なケンは聞き、ハガネとヤイバは離席。アキラは、ケンがかわいそうになり、離席せずに残った。ワイキの話によると、その昔、店主のカナディアとは恋人同士だったらしい。ただ、現在カナディアの夫はワイキではなく、大手の会社社長のお坊ちゃんで、無理矢理結婚されたとか。饒舌に話を繰り広げるワイキに3時間ほど付き合うと、ワイキは喋りながら眠ってしまった。ケンとアキラは、ワイキの背中に薄い毛布をかぶせ、自分たちも寝ることに。すでに、外が少しずつ明るくなっていたが、地下なので知るよしもない。
翌日。ケンとアキラは昼前に起き、今後について話したけれど、ハクリョに言われるがままついてきているのが実情で、ザザア軍の襲撃被害と食い止めることと、復興に関して漠然と話せるぐらいで、曖昧なまま終わった。
その晩、ついに全く違う話になった。
「さて、話すことが無くなったから、一個気になることを言っても良いか?」
アキラは、座ったまま天井を見て、そう言った。この場には、ケンとアキラしかいない。ヤイバ達は、店の食糧や飲み物を運搬するためのメンバーとして駆り出され、ついでに周辺の調査に出ている。ケンとアキラは、居残りで荷物の見張り番みたいなものだ。
「多分、エナはハガネに想いを寄せてる気がするんだけど……」
アキラの唐突な話に、ケンは「ん?」と理解できていない。
「どうせ、エナのことだから、裏がありそうだけどな……」
「なんで?」
「俺の勘」
ケンが返答に困っていると、上の階でからんころんと扉が開く音がした。どうやら、バーにお客が来たようだ。アキラは、ケンと話す限り、この話は盛り上がりそうにないので
「お客さんが来たから、ちょっと偵察に行くか」
と、階段へ。ケンはモヤモヤしながら、同じく階段の方へ。
扉の覗き穴から店内を見ると、お客は1人だ。カウンター席に座っており、サングラスか眼鏡をかけている。よく見ると
「足元に剱がある」
アキラはそう言って、覗き穴をケンと交代する。
「あれ? あの人って……」
「ケンもそう思うか。まさか、こんなところで会うなんてな」
「マグネさんだよね……」
「おそらく、あのちょっとドジで剱の持ち方に癖がある、マグネさんだな」
ケンとアキラが昔、剱を教わったという人である。アキラの言い方は妙に毒があったけど。
「ただ、本当にそうなのかな? 一応、僕らの師匠ポジションだけど……」
「頼り無いというか、間抜けというか……。まぁ、俺らもマグネさんの事、一度も師匠どころか先生とさえも呼んだ事ないし」
本人に確認すれば良いが、今自分達は身を隠している。どうするか決めかねていると、一杯だけ飲んで外へ出てしまった。
夜が明けたが、地下のためよく分からない。今日は、ケンとアキラが身につけている剱を隠せるような大きなものを羽織って、外を歩いていた。おおよそ2時間ぐらいで、そろそろ戻ろうと考えていたが、思わぬ事に巻き込まれる。
年上の女性が、必死にこちらへ走ってくる。なにかあったのかと思うと、次の瞬間
「誰か、助けて!」
と、叫び、女性の後方には、4~5人の黒いスーツの男達が追いかけており、当然放ってはおけないケンは、剱の構えようとし、
「アキラ、ちょっと騒動になると思うけど……」
「すでに、この状況が騒動だけどな……」
女性が自分達より後ろへ走っていった後、ケンとアキラは剱を構えて前方へ走る。足止め程度になればと思ったが、男のひとりが持っているのは……
「ケン、避けろ!」
アキラが気付いて、通りの物陰へ飛び込む。次の瞬間、多数の弾丸が通りの地面を蜂の巣にする。持っているのは、機関銃だ。流石に、機関銃に勝てるはずがない。
左右に散けたため、アキラは脇道を指差して、ケンに伝えると、通りの一本隣の道へ走る。男達の裏へまわる作戦だ。
機関銃を持っていたのは、ひとり。しかし、他の男が何らか飛び道具を所持しているおそれがある。警戒しながらとなると、かなり不利だ。
時間を空けずに、後方へ回り込むと、2人はそのまま急襲する。ケンは合成シルバーソードとシャークソードの二刀流。男がひとり、銃を構える。さらに、機関銃もこちらを向く前に、ケンが
「半輪白雷斬」
合成シルバーソードの先端から、半月状の白い刃が、白い雷を纏って、機関銃へダメージを与える。すると、機関銃が男の手元で爆発。それに怯んだため、アキラが銃を持った男の手元を狙って、剱を振るい、銃を奪う。
残りふたりも銃を構え、発砲。焦ったらしく、弾丸は明後日の方へ。アキラは銃を構えて、男達が撃ったように操作して、足元へ発砲。
どうやら機関銃を持っていた男がリーダーだったようで、そのリーダーが負傷したため、残りのメンバーは慌てて退散した。
いなくなったのを確認してから、アキラは
「一歩間違えてたら、死んでたな。で、あの人は逃げ切れたのか?」
そう言って、ケンの方を向くと、ケンのそばに女性がいた。予想外で驚いたが、よくよく考えると、物陰へ飛び込んだときに、ケンの方に誰かいたような気がしてきた。つまり、ケンと一緒に移動していたのか。アキラはそれを理解したので
「……いつまで、ケンのそばにいる気だ?」
女性は黙って、ケンから少し離れた。
「ごめんなさい。私は、自分の名前さえも思い出せない……。皆からは、ベリーナって呼ばれていたらしいとしか……」
どうやら、ベリーナは記憶喪失らしい。これまた厄介なことに巻き込まれそうな気がしたが、今更、見捨てるわけにもいかないので、カナディアの店まで一緒に行くことにした。
途中、ベリーナが不安そうな表情を浮かべ、ケンへ寄り添うのを見て、アキラはいろんな意味で、若干嫉妬した。
To be continued…
銃と剱なら、銃の方が強いです。技を使ったとして、果たして敵うかどうか。
11月と12月の他作品を優先的に進めたので、『黒雲の剱』は同時連載している間は、出来次第更新するような形で、不定期更新になるかと。一番優先度を低く考えてます。特に、第六部はブログ版の通りに進めると、話がかみ合わないので。ドンムール帝国の政治云々は大幅カットの予定。次の話で、ハクリョさんが丸々語る感じになりそうです。
追記。
街の名前 (ルイジド)が間違っていたので、修正。




