第68章 進み出す時間
ケンが特訓している頃、アキラ達のところにハクリョがやってきた。
アキラはハクリョと会ったことがあるようだが、他のメンバーは知らないため、自己紹介の後、
「もとの世界に戻る準備をしている、と聞いてやってきたわけじゃが……」
ちなみに、ここにいるのはアキラとヤイバ、ハガネ、エナである。ジンとニンは、外出しており、ミケロラはお店で働いている。ちなみに、ハガネが珍しく1人で行動していないのは、ザザア戦での作戦を毎晩のように協議しているからだ。
「生憎、ケンはずっと出てますよ」
アキラはケンに用があると思い、そう言ったが、ハクリョはどうやら逆のようで
「いや、それを分かった上で、お主達に相談に来た」
「相談ですか……?」
「相談と言うより、報告という言い方が正しいかもしれんが……。ザザアの爆弾に関してじゃが……」
ハクリョが自身の考えを話すと、それを聞いた3人は、言葉を失った。少しして、アキラが
「それだと、ハクリョさん、あなたが……」
「ケンがここにいない時に、それを聞いて正解だな」
「ハガネ!」
ヤイバが撤回しろという意味で、ハガネを睨んだ。
「あくまでも、緊急事態のときじゃが。おそらく、ポルラッツも策を用意しておるようで、それの幇助といったところかの」
*
時空間の神殿は、海面から5メートルぐらい出ていた。海底までの深さは分からないが、見上げていた塔をこんな風に見ることになるとは。
船を接岸して、時空間の神殿の入口へ木材で橋を架ける。順番に時空間の神殿へ。中では空間が歪んでおり、外観からは想像できないほど広い空間になっている。知ってはいるが、やはり慣れない。不思議な未来も、これでお別れだろう。永遠と続く2月29日から解放されるだろう。まもなく、止まっていた時間が進み出す。果たして、勝てるだろうか……
時空間の狭間は、1つしかなかった。迷うことはない。深呼吸して、中断した戦いへ。
*
ついに戻ってきた。僕らの世界。時空間の神殿で、残された時間は僅か。ザザアは見当たらない。巨大な爆弾がカウントを進める。
突如、後ろから強い風が。振り向く時間も無く、ケン達の頭上を黒い影が遮る。
爆弾を掴むのは黒き鳥。クロバーだ。さらに、ハクリョやカクゴウ、ポルラッツが爆弾の奥にある装置を稼働させている。
「クロバー! 転送装置の中に投げ込め!」
ポルラッツが叫ぶと、クロバーは足で掴んだ爆弾を転送装置へ投げる。転送装置から激しい火花と稲妻が走り、目の間から巨大な爆弾が見えなくなった。
安堵しかけた瞬間、外から花火よりも遥かに大きい音が響く。
「……いいのか? 主の職を失うんじゃないか?」
ポルラッツがハクリョに言うと
「お主に心配されるようなら、すでに失脚かもしれんの」
短時間で起こったことに、ケン達は見ることしかできなかった。ただ、何かしようとしたのはケンだけで、全員が何もしなかった。
「俺らは、作戦通りに何もしなかったけど、こんな短時間だと、動けないな」
アキラがそう言ったため、ケンはアキラの方を振り向く。すると、アキラは
「ザザアがいない場合、俺たちは大人達の邪魔にならないように動くなと。不本意だが、仕方ないだろ」
「一応、ケンが動き出したら止める予定だったけどな」
ヤイバはそう言い、今度はハガネが
「転送装置の存在とクロバーの突入。ポルラッツの作戦だ。カクゴウとハクリョがその案に乗った」
「ヤミナさんは、クロバーのことで、この作戦は聞かされなかったみたいだけど。確かに、クロバーに爆弾を運搬させるって聞けば、ヤミナさんなら反対したと思うけど」
と、エナも事情を知っている。確かに、黒き鳥がクロバーの姿に戻ると、ヤミナが一番に駆けつけて、クロバーのことを心配して抱きしめている。
「爆弾の転送先は、神託の国の南、海の端だ。人が一番少ないというか、いないところだな」
ジンも知っている。どうやら、ケンだけ知らないみたいだ。
「なんで、みんな知ってるの……?」
すると、アキラがケンの肩に右手を置き、
「ケンが3週間抜け駆けしてる間に、ハクリョさんから聞いた。猛特訓するのはいいけど、作戦会議に出なかったお前の失態だな」
「うっ」と、何かが心に刺さった気がした。ケンは、アキラが目覚める前に、ガドライン国の広大な森で、特訓を始めており、全く知らなかった。
当時、ケンはかなりの覚悟を決めていた。
(僕は、自分の力不足で諦めた時、アキラが「そりゃ、勝てるさ。クーリック村で一二を争う僕らの実力と、伝説の剱が持つ神秘の力を掛け合わせたら無限大だろ」と言ってくれた。過大評価だと思ったが、それでも一緒に強くなろうというアキラの姿勢に、背中を押された。今まで、色んなもの見てきた。勝った時より、負けた時が多かった。まだまだ力不足だ。記憶がない間は、ザザアの配下にいた。剱の特訓。何年ぶりだろうか。自分は強くならなきゃ)
夜空をひとつの流れ星が流れ、気を引き締めて猛特訓を3週間行った。失った時間の分、少しでも取り戻せたらと。
だけど、結局、特訓の成果は披露できずに終了した。
「貴様ら、何を終わった気でいる。まだ終わってないぞ」
ポルラッツが言うとおり、ザザアは行方不明。扃鎖軍の侵攻はどうなったのだろうか。
「それに、ザザアの爆弾の威力なら、おそらく壁の一部が崩落するだろうな」
ポルラッツの想定通り、爆発の威力は凄まじかった。爆発周辺は、かなりの爆風を伴い、さらに壁の一部が燃えている。壁は崩落し、外との往来が可能となった。しかしながら、この暗闇だと船の往来は、朝にならないと厳しいだろう。外は夜である。
*
その頃……。ドンムール帝国の首都ルイジド。とある酒場にて。
「ご報告いたします。ザザルト・アーデス・ダグラストが死亡した、という情報が入ってきました。また、ガルドシア・ダグラストが不穏な動きをしていると。現在、諜報班を向かわせていますが、南の中継地点が派手に壊されたとのことで……」
隣の席の男の報告に、
「ついに、このときが来たか……」
To be continued…
物語は、第五部 疑似未来から、第六部へと進みます。
ブログ版と大きな流れは変わりませんが、毎話最初から書いているので、物語がいろいろ変わっちゃいましたね。"疑似未来"は『小説家になろう』版のみで、ブログ版は"もしかしたらそうなったかもしれない未来"でした。




