第67章 帰還へ向けて
ハガネとヤイバは、地下5階へ移動。ボロック国王様にワクチンを打ち、ヤイバが背負って移動。流石に、地下4階に放置するわけにもいかないので……。国王様だし……
地下5階の扉を開くと、ケンとジンが1人と戦闘中。5人倒れており、壁際に男が1人いる。よく見ると、ケンとジンは、男に向かっていこうとする人物と戦っている。どういうことだろうか?
ハガネは、端的に
「状況は!?」
「ラスト1」と、ケンが言った。
最後の1人は、4人はおそらく誰も知らない人物である。逢魔劔隊所属のスノッキ・キザード。諜報班である。一時期、逢魔劔隊に所属していたアキラなら、知っているかもしれない。年は、20歳前後だろう。
4対1ならば早く、あっさり転倒させてワクチンを打ち、落ち着いた。床に7人寝転がっているわけだが、運び出すのも大変なので、全員が目を覚ますまで、丸1日ここで過ごすしかないだろう。
さて、壁際にいる男は、ゆっくりと拍手して、
「お見事。なるほど、それでザザアから解放するのか。誰から貰ったんだ?」
男の言い方に、ケン達は警戒態勢に。言い方によれば、敵になるかもしれない。すでに4人は剱を鞘に収めたが、男の言動によっては、戦えるように気持ちを引き締める。
質問にはケンが嘘を言わず、本当のことを言う。
「ローズリーさんから聞いて、特効薬を作りました」
「なるほど。ローズリー・ヴァージンか。しかし、彼はザザアの支配下だったはずだが?」
この男、かなり知ってそうだ。ますます、警戒せねば。
「ここだと、ザザアの支配から解放されたみたいです」
すると、男は独り言のように
「ならば、直接会うことも出来るか……」
「ローズリーはすでに他界しました……」
ケンがそう言うと、男は疑うような表情をしたが、ケンの表情を見て
「嘘ではなさそうだな……。そうか、彼は戦死したか……」
戦死という表現が気になったが、ケンはそれに触れず
「もしかして、ローズリーさんのお知り合いですか?」
と、男の素性を聞く。
「同僚だ。……とは言っても、最後に会ったのがいつだか……」
「同僚……ですか。……ローズリーさんのご遺体は、ルトピア中央病院の南にあるルトピア霊堂にお願いしています」
この疑似未来の世界から帰還して、遺骨をもとの世界に埋葬するため、一時的に霊堂に預けている。なお、これはケンとエナだけが知っており、ハガネ達は初めて聞いた。それが少し表情として表れたのか、男に気付かれ
「仲間も知らない情報を、私に話すのか」
これについて、ケンは頷かず、ハガネ達は反応しない。男は
「自己紹介がまだだったな。俺は、ガルドシア・ダグラスト」
「ダグラスト……!?」
思わず、ヤイバが反応した。他の3人もそれを聞いて驚いたが、声に出たのはヤイバだけだ。ガルドシアは
「知っての通りだ。ザザア前国王、本名ザザル・アーデス・ダグラストの……元父親だった」
思わぬ相手の素性。反応に困ると、ガルドシアは
「ついでに言うと、今は敵対関係だ。ザザルは……、いや、ザザアは俺たちに反対したんだよ。だから、俺たちを攻撃対象としている」
確かに感染者は、ガルドシアを攻撃していた。
「ザザアは、ガルドシアさんたちの何に反対したんですか……?」
ケンが聞くと、ガルドシアは
「それは、残念ながら答えられない……。言えない、と言うべきか。言える範囲なら……、俺らの”継続”という判断に、反対したというぐらいだな……」
詳細を聞きたいが、おそらく答えてくれないだろう。ならば、ケンは質問を変えて、
「ローズリーさんから、ザザアの本拠地が、このリバレーン宮殿だと聞いて、僕らは来ました。ガルドシアさんは、なぜここに?」
「リバレーン宮殿のあるこの地域は、離亰の国と対角に位置する。元新鋭の国の地域だな。当時、扃鎖軍の本拠地だった。この世界だと、もう本拠地ではないみたいだが……」
南西に位置する扃鎖の国に人がいなかったのは、本拠地が別からという考えに至ったが、その場所は分かっていない。北東に位置する亀玉の国にあったとは。おそらく、ポルラッツも知らない情報では。
「ローズリーと同じ考えだ。ここにくれば、ザザアのことが何か分かれば思ったが……」
そう言って、ガルドシアは扉の方へ歩き出す。誰も呼び止めず、ガルドシアは扉を開けて、地下4階へと去っていく。
*
2月29日。今日も同じ日付。港に、次々と集まっていた。そこには、3週間前に復帰したアキラの姿もある。この3週間は、各自で猛特訓を行い、戦闘に備える期間を設けた。ただ、肝心の爆弾については、まだ対抗策が思いつかない。
3週間ずっと猛特訓したケンが港に着くと、全員がすでに集まっており、作戦会議が始まった。会議というか、最終確認だ。
すると、ハガネから
「爆弾については、対抗策があるから、そっちは気にするな。その後の動きだが」
「対抗策があったの?」
ケンが聞くと、他の人はすでに知っているみたいで、
「成功率が高い方法としては、あれしかないからな……」
ヤイバがそう言って、アキラも「そうだな」と言い、ジンも頷いてる。ケンがその方法を聞こうとすると、ハガネが話を進め
「で、ポイントはザザアの確保。十中八九、ポルラッツが討ち取る可能性は高いけどな」
「そうなったら、止めるかどうかだけど……」
ヤイバが皆に聞こうとする。ケンが返答する前に、アキラが
「ザザアが死亡した場合、踏み台にされていた人たちが解放される可能性は高いだろ。そうなれば、オンブルの侵攻が完全停止」
「そうなれば良いが……」
と、ジンは完全停止しない恐れについて考えるが、現状言えることとして、ケンが発言のタイミングを奪われている。ただ、本人は偶然だろうと、タイミングを待つ。またハガネが主導権を握り、
「時空間の神殿内で、オンブルは全て倒している。ローズリーは、この世界で死亡しており、敵はザザアのみ」
またケンが喋ろうとすると、ヤイバが先に
「でも、この世界にいれば、まだ生きられるけど、あっちに戻ると、失敗すれば終わりだな……」
確かに、こっちの疑似未来の世界にいれば、生存率は高い。だって、もとの世界に戻ると、失敗すれば数秒で死ぬ。
「この世界がいつまで続くか、保証はないだろ」
アキラの言うとおり、2月29日を繰り返すこの世界は、いつまで続くか分からない。世界そのものの継続と、治安とかも。
「戻ったら、しなきゃいけないことや、したいことが、いっぱいあるからな。そうだろ、ケン?」
アキラがケンに同意を求め、ケンは「そうだね。みんなで、生きて戻らないと」
一行は、港から船で時空間の神殿を目指す。情報によると、時空間の神殿のてっぺんは、海面より上にあり、そこから入れるらしい。ただ、入った人は、気付いたら外に出ており、内部に侵入できないらしい。ただ、ここ最近は何人も入ったきり帰ってこないと言う。おそらく、ポルラッツやカクゴウ達だろうか。
滞っていた戦闘が、まもなく進み出す……
To be continued…
第5部は次回が最後です。疑似未来の世界のため、200年後という未来の要素がかなり少なかったですね。中盤から、200年後という表記がなくなり、2月29日という表記だけでしたし。そして、疑似未来から、もとの世界へ。




