第66章 冷静沈着
リバレーン宮殿、地下4階。ハガネとヤイバがボロック国王と交戦中。剱の交わる音が、何度も響く。
「動きを止めるのも、一苦労だな」
ハガネは頬の汗を右手で拭い、剱を軽く振る。宮殿の地下は、温度が高いようで、少し動けば汗をかく。ただ、ボロック国王は汗をかいていない。
「ハガネ。後から追いかけるなら、ここで時間を」
「そんなことは、分かってるよ」
ヤイバが言いきる前に、ハガネはそう言って、ボロックの攻撃を避ける。一方のヤイバは、ライトニングソードのみで、得意の2刀流や3刀流は使用していない。理由は、ワクチンを打つ必要があるから。エナから託されたのは、2本。1本はボロック国王に。もう一本は、他の乱入者やいざというと時の予備として。1本だと、戦闘中に誤って割る恐れがある。
「たとえ、感染者でも……一国の王だぞ。まだヤイバの時のほうが、楽だったかもな」
「そう言いながらも、ケン達から聞いたら、ハガネは俺に負けたんだろ?」
「あ? よく聞こえなかったな。お前が、さっさと終止符を打てば、聞いてやるけどな」
ハガネとヤイバは、リバレーン宮殿途中後、最初に姿を現したボロックとの戦闘が続く。
リバレーン宮殿への突入は、早朝。警備が交代する時間で、隙が多いため、この時間にした。メンバーは、ケンとジン、ハガネ、ヤイバ。エナとミケロラ、ニンは待機。場合によって、エナからライクルへの連絡を考えている。ライクルからは、無事に合流できたと連絡を受けており、呪縛から解き放ってくれたお礼として、何かあったら連絡してくれと、協力関係だ。
1階と地下1階は、反政府組織と思われる人物がいたが、そこはスルーして、地下2階、地下3階へと進んだ。なお、地下2階には、政府が壊したい理由である、違法薬物っぽいものが栽培されていたが、それには目を瞑って、先を進む。
地下3階に着くと、行き止まりで倉庫だった。しかし、風の音がして、調べてみると、棚の後ろに洞窟のような道が存在した。少なくとも、宮殿と造りが違い、後からできたものだろうか。洞窟のような通路は、下りのカーブが続き、行き止まりには扉があった。施錠されておらず、扉の向こう、地下4階フロアについた。地下3階と4階の通路が長かったため、地下4階という表現が適切か微妙だけど……。
地下4階は、広い空間で音楽ホールみたいに広い。そして、何より足音が響く。その音に気付いたのか、奥からボロック国王が姿を見せた。ボロックとの戦いは、ヤイバとハガネが引き受け、ケンとジンは先へ進む。
地下5階へは、また長い下りのカーブが続き、同じように扉の先に地下4階と同じ空間が広がる。
ただ、予想していない光景が。
「誰だ……?」
足音で、こちらに気付いたようだ。奥に男性と思われる姿が見える。その男性は剱を振りかぶっている。
「どうする?」
ジンが小声でケンに判断を委ねる。ケンは相手の反応を見るために、嘘をつかず
「ザザアに洗脳された人を助けに来た」
すると、男は左手に握っていた物を放り投げる。壁に当たって、埃が舞う。
「妨害者である、ザザアを知っているということは、ガドラインの国民ではないな?」
男はこちらを振り向こうとしない。ケンとジンは、少しずつ前へ進む。すると、壁に投げられたのが、人であることに気付いた。しかも、感染者だ。負傷した傷が治っていく。
「ザザア。彼には参ったよ。従者を私に向けて放った」
男の言う従者とは、感染者のことだろうか。ジンが歩みを止め、右手でケンを抑止し、小声で
「奥を見ろ」
そう言われて、ケンは男の向く方、つまりこの広い空間の奥を見た。すると、5人ほどいることが確認できた。その中に、アキラもいる。
「僕らは、ザザアに支配された人たちを解放するために来ました」
「君ら少年が? ならば、ご自由に。ただ、矛先は私だぞ。私を攻撃した者は、容赦なくぶっ飛ばすぞ」
この男は、敵なのか? 少なくとも、味方ではあるまい。男は、壁際に移動した。黒い髭を生やしており、年齢はカクゴウより上だろう。
「予定より人数が多いが、予備を使えば足りるよな?」
ジンがケンに作戦の影響を確認し、
「順番がどうなっても、アキラは早めに救って、戦力を落とさないと」
「随分、アキラの実力を過信してるんだな。他のメンツだと、光明劔隊で見たことがある奴もいる。何人かは名前も知っている……」
のちに、黎明劔隊か逢魔劔隊のどちらかに所属し、時空間の神殿で作戦を遂行していたところ、時空の狭間によって、この世界に来たのだろうか。
ケンは合成シルバーソードを構え、ジンは
「スィールソード、ジンが持ってたんだ」
「巡り巡って、この世界で受け取ったが、どういうルートで届いたか、分からないけどな」
ジンが病院で目覚めたとき、病室にあったらしい。ザザアとの戦闘中にはなかったはずだ。最後に見たのは、ローズリーとアキラの戦闘時。ヤイバが持って帰ったあと、毒を受けたアキラの病室に置いて……。ザザアとの戦いで、エナが持っていたら分かるだろうし、ミケロラだろうか……?
スィールソードの譲与過程は、今は重要じゃない。目の前の戦闘に集中。前方に5人。壁際に1人。
前方5人。先に動いたのは、ニャセルとヴォスキャー。双子の兄弟である。元光明劔隊、当時の新襲撃隊第3班に所属していた。そのため、ジンは2人を知っており、ケンも見覚えのある2人だ。ケンとジンは背中合わせになり、双子の攻撃をそれぞれ剱で弾き、側面から迫るバガーブの攻撃は、それぞれ前方に移動して避ける。ちなみに、バガーブも元光明劔隊所属である。ケンとジンは、直接会ったことがない。
ケンはニャセルと、ジンはヴォスキャーとの戦闘。でたらめな剱捌きだが、双子の動きは似ている。途中、割り込むようにバガーブやアキラの攻撃が来る。さらに、銃声。モイスが銃口を向けている。流石に、剱なら何とかなるだろうが、銃弾は厳しい。なお、モイスは情報屋である。次の銃声があるかと身構えたが、早々に弾切れ。男との戦闘で使用して、弾切れなのだろうか。
「優先順位が決まった!」
そう言って、ケンが走り出し、ジンもヴォスキャーの剱を払いのけて、走り出す。先に銃を使用する人物から、ワクチンを打って戦力を減らす。ケンは、弾切れのモイスに近づき、右脚を引っ掛ける。剱の柄の部分で背中を押し、転倒させる。すると、ケンの方へ、アキラが剱を振りかぶり、攻撃態勢へ。ジンは走り込んで、アキラが剱を持っている手を、剱で殴り、アキラの持つ剱が落ちる。
ケンは、転倒したモイスにワクチンを打ち込む。さらに、ジンがアキラを捕まえ、「ケン! 早く!」と急かされ、続いてアキラの首元にもワクチンを打つ。
打ち込んでる最中、ヴォスキャーとニャセルが迫ってくる。ケンは催眠弾を2人に向けて投げる。ヴォスキャーに当たって、煙がすぐに広がる。催眠弾は、キヤマーク教授から貰ったものだ。正直、すぐに回復する感染者に、どのくらい効果があるか分からない。
ニャセルとヴォスキャーは、その場に転倒。催眠弾の煙を吸い込まないように息を止め、ジンはワクチンを2本、双子の首元へ打つ。
今後はジンの方へ、バガーブが剱を振りかぶって走ってくる。ケンは煙を避けるように走り、バガーブの走りを遮って、剱が交錯する。交錯したときも、ケンが壁側の残り1人を確認するが、まだ動かないようだ……
To be continued…
これを執筆時点で確認したら、ニャセルとヴォスキャーを、総集篇のキャラ一覧に入れ忘れてました。2人とも、ごめんね。ということで、ここで再登場。該当の総集篇は、7月に修正済みです。




