第64章 仲間への情報展開
数日後の2月29日。ヤイバが目を覚ましたのだが、ハガネと何やら揉めていた。
「ヤイバ! 何、考えてんだ!?」
と、ヤイバの胸倉を掴み、ハガネが怒ってる。
「ニンの記憶を戻すには、これしか無いんだろ」
「朝っぱらから、そんなに騒いでどうしたの? 近所迷惑なんだけど……」
と、エナが朝ご飯の支度をしながら2人に言った。ちなみに、ご飯は交代制で、今朝の担当は、エナとミケロラである。
「ヤイバが、死んだジンを生き返らすって言ってるんだぞ」
「それしか方法が無いんだろ」
と、ヤイバ。エナは、お味噌を溶いたお玉杓子を前に突きだし、
「ちょっと待って! 何で、ジンが死んだことになってるの!?」
しかし、ハガネはエナを無視して、
「たとえ、ジンを生き返らせても、ジンが死んだという事実には変わらない。それを知ったニンはどうなる!? おそらく、悲しむだろうな。ヤイバ、ニンのことも考えろ」
エナは、仲間の心配をするハガネを見て、
「……何だかんだ言いながら、ハガネもニンのこと、心配なんだ」
と言ったが、少し考えて、顔を左右に振り、
「だから、何で死んだことになってるの!? 重傷だけど、生きてるよ。ルトピア中央病院で」
「……はぁ?」
ヤイバとハガネがハモった。ちなみに、ケンは昨日から、ジンの所へ行っている。なお、ジンは昨日、目を覚ましたばかりである。
「ちなみに、ニンもケンと一緒に行ってるけど」
「え?」
またもや、ヤイバとハガネがハモった。そして、双方が殴るフリをフェイント混じりに何度かして、突如ゴールがなくなった争いは終わった。
ルトピア中央病院。中庭。患者さんや看護師さんが、散歩している中、人気の無い木陰のベンチにジンとケンが話し込んでいた。なお、ジンの隣には松葉杖がある。なお、ニンは診察中で、ここにはいない。
「ケン、その話は誰から聞いたんだ?」
ジンは松葉杖を右手に持ち、ベンチから立ち上がる。
「ローズリーだ。この世界で、僕とエナだけが会った」
「信じがたい話だな……。それに、情報源がローズリーからか……」
ジンは、その情報源を聞いても、特に言わなかった。ケンは座ったまま俯き、
「だからこそ、言えなくて……。ハガネやヤイバ、ミケロラ、ニン、誰にも、まだ言えてない」
「アキラは?」
「アキラは感染している……。ライクルとヤイバも元感染者だけど、特効薬で回復したよ……。でも、アキラが正気になっても、言えないと思う……」
「じゃあ、ケン。聞くが、どうすれば言えるようになる?」
「それは……」
「すでに、ローズリーは死亡している。確かに、ケンからの話を聞いても、ローズリーに対する、人それぞれの固定観念を変えるのは難しいだろうな」
ジンはケンの意見を理解した上で、さらに続けて
「でも、だからといって、それがケンも認めた事実なら、ちゃんとその事実を仲間に伝えるべきじゃないか? 都合の悪いようなことであったとしても、仲間がその事実を受け入れるかどうかは、その先の話だろ? 別に、情報源は言わなくてもいい。ただ、信憑性は疑われるだろうな」
「じゃあ、ジンなら言う?」
「言うだろうな。ケンが言わなくても、この話を聞いたからには、ヤイバやハガネから聞かれたら、言うだろうな」
ジンにそう言われると、言わないわけにはいかなくなる。複雑な心境のケンを見て、ジンは
「仲間って、そんなもんか? そう簡単に壊れるようなら、その程度だった、ってことだろうな。ハガネとヤイバなんて、それぞれの言い分が合わなくて、よく喧嘩してるだろ。ニンから、よく聞いたよ。自分に自信を持て。仲間をもっと信じてやれ……」
ジンに言われ、ケンは小さく返事した。
ジンとケンは、ニンがいる診察室へ向かう。どちらも喋らず、会話はなかった。診察室の前に、ヤイバやハガネ、ミケロラがいた。
ハガネが気付き、ジンに向かって開口一番
「ジン。お前、ヤイバが勝手にお前のこと殺してたぞ」
すると、ヤイバは慌てて、
「ハガネも、ジンが死んだと思ってただろ!?」
「こら。病院で、そんな言葉はやめなさい」
と、ミケロラがすぐに注意して、2人はそっぽを向く。これほどまで分かりやすく、喧嘩するとは。事情を知らないケンは、ちょっと笑った。で、勝手に死んだことにされたジンは
「まぁ、半分死んでたもんだが……」
と、否定せず。すると、診察室の扉が開き、エナが
「静かにしないなら、外へ!」
と、全員を病院の外へ。
だけど行き先に悩み、別病棟のレストランへ。お昼ご飯である。
全員がメニューを選んだ後、ケンとジンは目配せして、
「大事な話があるんだけど……」
と、ケンは印について語った。途中で、ヤイバが質問でケンの話を遮りそうになったが、ジンが右手をヤイバの方に出し、ヤイバと目が合うと首を横に振って制止させた。
ケンが情報源に関すること以外を話し終えると、丁度、頼んだメニューが届いた。
ハガネは頼んだカツ丼を食べつつ、
「なるほどな。印によるコントロールか……。辻褄は合ってるな」
ヤイバは、チャーシューメンの麺を啜り、
「で、エナとケン達が協力して作り上げた、例のワクチンを打てば、その呪縛から解放される訳か」
ミケロラは、パフェではなくドリアを食べており、ヤイバが2度見、いやそれ以上、確認のためにミケロラの方を見た。
「ワクチンは、大学教諭の協力があったとしても、なかなか作れないと思うけれど、そんなに凄い人だったの?」
ケンは、生姜焼きを掴んだ箸を止め、ミケロラの質問に答える。
「大学の教授の人は、確かに凄い人だった。でも、情報無くしては作ることができなかったと思う」
と答えると、ケンは生姜焼きを食べた。今度は、ジンがカレーを食べつつ、
「まぁ、ケンから先に聞いたんだが、情報源を聞いたら、ハガネとヤイバは驚くだろうな。決して、口に含んだ状態で聞くなよ……」
「ジン。それは、含めってことか?」
ヤイバがそう言うと、ジンは
「お前らが吹き出すと、損害を受けるのは対面の俺らだからな」
「で、誰からこんな重要なこと聞いたんだ? ポルラッツやカクゴウが知ってるなら、もっと前から対策してそうだし、ハクリョという爺さんか?」
ハガネが、ハクリョを爺さん呼ばわりしたことに、ケンは注意しようと思ったが、先にヤイバが
「あんまり、上の人について変な呼び方すると、怒られるぞ」
ヤイバの言い方に、ケンは1人の人物を思い出した。多分、ヤイバはモッゼ長老とのやりとりで、過去に怖い目に遭ったのだろうか。ケンは、情報源について、単刀直入では言わず、
「この世界だと、ザザアによる影響が出なかったらしい……。僕らも、実際にこの世界で会って、戸惑ったぐらいに違いがあったから……。情報は、逢魔劔隊の最高指揮官、ローズリーから聞いた」
すると、ヤイバとハガネは予想通りの反応を示した。吃驚し、立ち上がって「どういうことだ」とか、「なんで、あんな奴に」と叫んだが、ケンは黙り、ジンも喋らなくなり、ヤイバとハガネはそのあとの言葉が続かない。何か言おうとしても言えなくて、着席した。
To be continued…
ミケロラはいつもパフェばかり食べてるわけではないみたいです。あと、みんな頼んだメニューがばらけてる。ここの病棟のレストランは、メニューが豊富なのかな。仲間への情報展開というタイトルですが、ケン以外でも、まだ展開されていない情報ってありますよね……




