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黒雲の剱(旧ブログ版ベース)  作者: サッソウ
第5部 疑似未来篇
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第60章 劇薬

 雨。ガドライン国の全域に、バケツをひっくり返したような雨が降り注ぐ。

 信じるか否か。エナは、ケンに聞かなかった。答えが分かっているから。病院には薬品があるとは言え、無断での使用や、「これを調合したものをください」なんて言えないだろう。でも、相談相手はいる。ローズリーの担当医師だ。ただ、相手にしてくれるだろうか。ダメ元で担当医師であるバウドフ・ストゥー医師のもとへ。

「この薬を作って欲しいって?」

「お願いできませんか……?」

 エナが頼み込むと、バウドフ医師は「うーん……」と唸り、

「この調合に関する情報はどこから?」

「あの……、患者本人からです」

 ここは嘘をつく必要はないと思い、事実を伝えた。

「確か、君も医療知識があると聞いたが……、これを見てどう思った?」

 と、バウドフ医師は意見を求め、紙をエナに見せる。

「刺激の強い劇薬が混ざっているのは、(あたい)も目を疑いました。が……、それでも、患者は研究者であり……、自身に投与した神経毒薬を打ち消す薬だと話しており……、正直、その投与した神経毒薬が分からないので……、特効薬なのかも判断付かないです。ただ……、患者は神経毒薬に蝕まれ、投与されない場合は、自身の命を絶つとまで言っており……」

 エナは、上手く本当のことと嘘を混ぜ、さらに困惑の表情で、最後の方の言葉を濁らせた。

「院内で自殺されては困る。しかし、見ず知らずの調合薬を患者に投与したとなると、もしものとき、病院側の立場がない。調合薬自体を作ることに関してもだ」

 バウドフ医師の言うことは(もっと)もだ。責任問題になる。エナは、諦めモードになったが、バウドフ医師はさらに続けて、

「しかし、大学病院なら、研究に協力できるかもしれない。調合まで、という約束だが」

「それって……」

「知り合いの大学教授を紹介する。これは、君が1ヶ月の間、ここで多くの患者と関わり、病院に協力してくれたお礼だ。でも、紹介のことは、口外してはならないぞ。それが条件だ」

 思わぬ展開で、特効薬らしき薬を入手できそうだ。エナは、1ヶ月の間、つまりケンに再会する前から、このルトピア中央病院でサポートとして働いていた。看護師としては、資格などの理由で限られているが、サポートとして真面目に、積極的に活躍していた。

「大学教授の彼は、私と同級生だが……。研究者の界隈(かいわい)では、変人と呼ばれている。ヤバイ劇薬をよく作っている。一応、研究目的だが、……実際は、本人の興味本位によるものだ。間違いなく、調合については協力してくれるだろう」

「ありがとうございます」

「医師として働く間は、彼とは関わらないと思ったが、まさか私が紹介状を書くとは」

 そう言って、彼のことを思い出したのか、バウドフ医師は笑顔で笑った。

 紹介状をエナに渡すと、バウドフ医師は

「患者は退院まで、まだ少しかかるだろう。条件をもうひとつ。投与は、退院後2日以上後にしてくれ。退院の当日や翌日に死亡されては、場合によって、病院側の判断ミスと言うことになる。ただ、いずれにせよ、患者自ら、劇薬を投与したとなれば、その劇薬がどこで作られたか捜査されるだろうな……」

 病院側のリスクは大きい。それでも、バウドフ医師は、エナを信じてくれている。エナは「ありがとうございます」と、深々と礼をし、「決して、バウドフさんと病院には迷惑とならないようにします」とも伝えた。エナは紹介状を手に、大学病院を目指す。


    *


 雨が弱まり、時刻は午後4時。クガイダ大學は、長閑(のどか)な丘の上にあった。周辺は田畑が多く、大きな川が流れている。町外れだが、ルトピア中央病院から電車とバスを乗り継ぎ、3時間ほどで着いた。神託の国には、大学や学校はなかった。發達(はったつ)の国には、専門学校は存在するが、こちらも大学は存在しない。エナにとっては、未知の世界である。

 大学の正門で、守衛さんと話をしてゲスト用の入館証を受け取った。研究室は、東研究棟の地下1階とのこと。門の近くにある構内図を見ながら、守衛さんから行き方を教えて貰った。

 東研究室の扉を入館証で解錠し、階段で下へと降りる。インターホンは見つからず、地下一階の大きな扉をノックして開けると、研究室である。生徒はおらず、奥に教授らしき人がいる。

「すみません。バウドフ医師からの紹介で尋ねた者ですが……」

「バウドフ? あぁ、さっき電話で聞いたよ。久しぶりにかかってきて、驚いたよ」

 教授はなかなのイケメンである。研究者の界隈で変人と呼ばれていると言われ、どんな人かと思えば。

「初めまして。私が、キヤマーク・グレリア。君が、エナ・キュメルちゃんだね? バウドフから聞いていたが、16歳にして、医療知識が豊富だと聞いたよ。優秀だね」

 エナは、現在16歳。ちなみに、ケンやアキラ、ヤイバ、ハガネ、ジンも16歳前後である。エナは謙遜して答え、紹介状をキヤマーク教授に渡すと、少し考えた後、

「……あとで読もうか。それよりも、調合の情報を教えてくれないか?」

「調合に関する情報は、このメモに」

 エナは、ローズリーが書いたメモをキヤマーク教授に渡すと、

「ほう。いくつか神経を刺激するような劇薬があるな」

「患者が、というか……、知り合いが研究者で、自身に投与した薬の特効薬とのことです」

「特効薬? これがか?」

 キヤマーク教授は驚き、メモを見直して笑い、

「一体、その研究者とやらは、自分に何を投与したんだ? ……()()()()()()

 最後の一言に、エナは聞き間違いかと思った。変人と呼ばれる理由が分かった気がする。

「さて、今日からこの研究を始めようか。君も助手として、手伝うかい? こんな神経系の劇薬をいくつも扱う機会なんて、医師や調剤師でも、そうそうないだろう」

 その日から、研究室で様々な方法で試薬をいくつも作り始めた。完成まで時間が思った以上にかからず、4日後に完成した。

 早く完成した理由は、3日後に、ローズリーが退院し、車椅子でケンと共に研究室を訪れたからだ。その際、エナが薬について、

「作っているのは、ザザアのパンデミックに効果がある薬、という理解で合ってますか?」

「そうだ。ザザアは、かつて、全ての民にある紋様に着目した……。少年から聞いたが、”ザザアの意思を継ぐ者”と彼らは言ったようだが……、彼らは意識を奪われた状態にある」

「それじゃあ、ボロック国王様やアキラ達は……」

 ケンが熱くなり、エナはすぐに

「ケン。落ち着いて。そのための特効薬でしょ」

「順を追って、話そう……。紋様。一部では、(いん)とも呼ばれている……。正式には、”生体管理情報唐草文様印(からくさもんよういん)”。()()()()()()()()()()()()1人ひとり、首元に小さく存在する。ただ、それは……、わかりやすく言うと、グループAと呼ばれる者たち。グループBは、極小のマイクロチップが首元に付着している」

 そう言われて、ケンとエナは互いの首元を確認する。しかし、印もマイクロチップも見当たらない。

「紋様は……、特殊な光に当てないと見えない。それに、グループBは限られている……」

 ケンは、首元を摩りながら、

「そういえば……、小さなチップが落ちたことが……」

 確かに、ケンは”7年後の世界”でそれを見ていた。ということは、ケンはグループBだろうか。

 ローズリーの話は、初めて知ることばかりだ。さらに、話は続く……


To be continued…


『黒雲の剱』は、2008年8月2日から書き始めた作品で、今年の8月2日で丸11年。結構長い期間、彼らと旅してますね。『小説家になろう』だと、まだ2年目だけど、ブログ版は2010年12月1日に開始して、2012年11月30日に完結しました。ブログだと2年間(+α)だったけど、『小説家になろう』ではどのくらいかかるのやら。さて、12年目突入の今回第60章は、エナが主人公の回でした。さらに、ローズリーからの話が重要な回でもありました。

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