第57章 夕暮れの公園
ミケロラが住むアパートの前ある公園にて、
「どういうことだよ……」
ヤイバが街灯に照らされたブランコの方を見る。ブランコには、1人の少年が座っている。遊んでいるわけではなく、落ち込んで座っているだけだ。
ミケロラはヤイバの肩に右手を置き、
「記憶喪失だって……」
「ニンが……?」
ヤイバが再度確認するが、ブランコに座っている少年は、紛れもなくニンだ。
「原因は、あの戦闘か?」
ハガネが問うと、ミケロラは首を横に振り
「分からないけれど、強いショックが原因じゃないかって。例の爆発の瞬間、強いショックを受けたのかも」
「正確には、まだ爆発してないけどな」
と、ハガネだけが喋る。
ケンとヤイバは黙り込んだままだ。ハガネはそんな2人を見て、
「俺たち、失ってばかりだな……。俺は、強くなるだけだ。ザザアに対する仕返しが済んでないからな。やることは沢山ある」
ミケロラは3人に、
「今日は、泊まっていく? 部屋広いし」
「俺は、パス。生憎、強さに近道なんてないからな。時間を有効に使う。ここで解散だな」
そう言って、ハガネは一人で歩き出す。
「僕もやめとくよ……。ミケロラ、ニンをお願い」
ケンはハガネと違う方向へ歩き出す。ヤイバが何を選択するかは、聞かなかった。何を選ぶも自由だ。
ケンは、夕日の沈む方へ歩く。
しばらくすると日没して、辺りは街灯や建物の明かりで照らされる。喫茶店の前で、ケンは足を止めた。
「ハクリョさん……?」
「少し、話をしてもよいかの?」
ハクリョはそう言って、共に喫茶店の店内へ。席に座り、ハクリョは紅茶を注文。ケンは、メニューを見て悩んだ後、ホットココアを注文した。
紅茶とホットココアが到着後、ハクリョは
「ケンよ。お主は、ザザアとの戦闘から、どうやってここに来たか、憶えておるか?」
「正直、分からないです。ザザアが起爆スイッチを、押そうとしたところまでは見た気がするんですが、そのあと視界が真っ白になって……」
「では、わしの見解を述べる。時空間の狭間が、我々を助けたと言った方が良いかの」
「"時空の狭間"が……ですか?」
と、まだ理解できないケン。ホットココアを飲もうとするが、熱さですぐには飲めない。
「左様。つまりは、時空間の狭間をくぐれば、あの瞬間に戻れると考えられる」
「えっ? それって、変じゃないですか?」
ケンは、ハクリョの説明が矛盾していると感じた。時空間の狭間をくぐったとき、経過時間は同じはずだ。くぐった先で10分いて、もとの世界に戻ると、10分経過した状態になる。
「すでに、この世界で1ヶ月が経過しておる。だから、もとの世界に戻っても、1ヶ月後だと言いたいのだろうが、時空間の狭間が長期間残っている保証もないじゃろう。しかし……」
ハクリョは、店内の時計を確認し、
「今は19時であるが、何月何日か分かるかの?」
「いえ……」
「今日は、2月29日」
ハクリョは、店内の日めくりカレンダーを指差し、ケンもその日付を確認した。
「昨日は、何日か分かるかの?」
「……28日ですよね?」
「ところが、昨日も29日。その前も、そのさらに前も。もっと言うと、ここに来た最初の日も」
ハクリョの言っていることが、まるで理解できない。なんで、毎日同じ日なんだ?
「日付は同じではあるが、出来事は毎日違う。あり得ないことが起きているんじゃが……」
「じゃあ、時空の狭間が残っているってことですか……?」
「お主、封解の書を持っておるじゃろ?」
「昼間、ポルラッツが置いていって……」
と、ケンは封解の書を取り出す。ポルラッツが、喫茶店を出る際に、イスに置きっぱなしだった。忘れたわけでは無く、意図して置いていったのだろう。
「それを読んだか?」
「いえ……まだ」
ケンは、ハクリョに言われるがまま、封解の書を開く。すると
「”伝説の剱使いたちは、閉じ込められた時間の中で、明日への道を見つける。限られた時間は少ない”……」
そう書かれていた。ケンは、この意味も気になったが、それよりも
「……ハクリョさん、ひとつ聞いても良いですか?」
「わしが答えられることならば」
「なんで、自分が伝説の剱使いなんですか……?」
「嫌か?」
「いえ、そういう問題では無くて……ですね……」
「分かっておる。なにも、理由無く、お主を伝説の剱使いだと広めるわけないじゃろ。言葉の通り、”伝説”の剱使い。”伝説”という意味、分かっておるか?」
「言葉の意味ですか……?」
「そうじゃ。”伝説”は、事実を元に伝えること。つまり、これも事実を元にしておる。もう、すでにそれが行われた後、ということじゃな」
「おっしゃっている意味が……」
ハクリョの説明が理解できない、ケン。
「お主は、すでにある事実を残しておる。ただし、それはまだお主が行う前。これが、どういう意味か分かるかの?」
「いえ……全く……」
「では、まだ説明するには早い」
「えっ……?」
思っていたようなことと違う答えで、ケンはますます分からなくなった。ハクリョは紅茶を飲み干すと、
「実のところ、わしも全てを知っているわけではない。請け売りの部分もあっての……。言わないのではない。今は、まだ言えないのじゃ。理解してくれとは言わん」
そう言って、代金をテーブルに置いて、席を立つ。ハクリョは最後に、
「今は、目の前のことに集中することじゃな。自ずと道は見えてくるはずじゃ」
ケンは、返事も出来ず、下を向く。何も解決していない。何も分かっちゃいない。自分のわからないという事実に、どうすればいいのか、それこそわからないままだ……
To be continued…
またもや喫茶店。謎が謎を呼んでおります。
流石に、1ヶ月もいるとみんなこの世界に適応してるみたいですね。
2月29日が何度も繰り返されるって事は、2月29日が誕生日の人は毎日に年を重ねるわけで、つまりは、毎日がバースデー?




