第6章 貧富の街
ほぼ個人行動。ミケロラとセーミャは2人で行動しているが、アキラとケン、ヤイバは完全に別行動だ。ハガネに至っては、どこで何してるかもよく分からない。ファクトリーシティは広く、大雑把に探索区域を割り振った。ケンは北東の路地裏、アキラは東通り、ヤイバは西通り、ミケロラとセーミャは南のメインストリート。
ケンは路地裏に入ると、見ていた景色が180度変わった。カラス、猫やネズミなどが生ゴミなどを物色し、綺麗だった大通りとは全然景色が違う。言うならば、この街の影の部分だろうか。ダンボールの小さく質素な家が何軒もあり、そこには子供がボロボロの毛布にくるまり、建物の裏口部分の階段に座る子供がいる。違和感がある。子供しかいない。奥に進むが、目を合わせるのは子供だけ。
「こんなところに何用だ?」
声をかけてきたのは、最年長の少年だった。最年長と言っても、ケンと年は変わらないだろう。その子の服装は破れかぶれで、所々違う布を縫い合わせた半袖と半ズボンだった。日陰の路地裏では季節によっては寒いどころではないだろう。
「人捜しをしてるんだ」
ケンはそう答えた。人捜しは嘘ではない。剱を修復できる職人が、この大きな街ならいるだろうと考えていた。砕けてバラバラになったフラッシュソードを直せる職人が。
「少なくとも、お前が探す職人はここにはいない。表通りに帰ることだな」
素直に立ち去るわけにも行かない。ケンは勝手に話を進める。
「剱を修復できる職人を知らないか?」
すると、どうだろうか。周囲がざわつき始めた。何か知っているのかもしれない。
「……残念だが、今、この街にはいないな」
引っかかる言い方だったが、ケンは
「そうか……。情報、ありがと」
とだけ言って、立ち去ることにした。このまま長居すると、自分の性格的にこの状況を何とかしたいと強く思う気がした。それが不可能なことは自分でも分かっている。特に、自分でなんとかできると衝動的に行動したが、結局敗北した一騎討ち。あの悪夢に魘される。自分の無力さに絶望した。
路地裏から出ると、そこには見たことのある顔ぶれが……。
ケンが邂逅する半時間前、ヤイバは西通りである光景を見た。電話ボックスにいるのは、ハガネであった。気づかれぬよう、普段は使わない帽子を深くかぶり、下を向いて電話ボックスの近くへ。丁度、自動販売機があったので、買おうとする仕草をする。電話ボックスの扉は上下に隙間があり、聞き耳を立てればある程度の言葉が聞き取れた。ヤイバが聞き取った言葉は以下の通りだ。
”奴らは”、”ファクトリーシティ”、”個人行動”、”伝説の剱”、”間に合うでしょう”、”30分もあれば”、”ケン”、”路地”、そして”隊長”というワード。
ハガネが電話を終える前に、ヤイバは電話ボックスと自動販売機から離れた。当然ながら、バレるわけにもいかず、聞き取った単語から、考えなくても分かった。ハガネは、光明劔隊かどこかに所属しており、自分たちの動向を報告していたのだ。剱を”けん”と言う人は、この国にはいない。つまり人名。間に合うとは、おそらくこの街に来るということだろうか。
ヤイバはハガネに気づかれぬように、大回りをしてアキラ達を探す。
アキラと合流後、ミケロラとセーミャを探していると、喫茶店で休憩をしていた。ヤイバから聞いた話に、アキラは
「もしかしたらとは思ったけど、まさかなって感じだな」
「知っていたのか?」
「一回だけ光明の名簿を見る機会があったんだ。そこに名前があった気がしたんだよな。あくまでも、気がしただけだったんだが……」
「俺は信じられないんだが……」
ヤイバはまだ戸惑っているようだった。
「2人は、そのまま休憩して待機しててくれ」
アキラの考えで、セーミャとミケロラの2人を巻き込まないように喫茶店にて待機をお願いした。
「待機はいいけど」
セーミャは小声で
「ここの飲み物も高くて、長時間はいられないと思うから……」
「短時間で決着を付けてくる」
アキラとヤイバは、北東の路地裏方面へ。道中、ヤイバが
「さっきの言い方、まるでケンが戦闘中みたいな言い方だったな」
「”決着を付ける”って言い方が、か?」
「まだ可能性として、ケンと合流して光明と接触することなく回避できることも」
「そうあればいいんだが……。探索終わってこっち方面に戻ってきてないし、何らかの騒動に巻き込まれてるってのはありそうだな」
「なぁ、ケンってどんな性格なんだ?」
ヤイバは、アキラの性格をこの旅と初めて会ったときで何となく理解しているつもりだが、ケンについてはよくわかっていない。
「ケンは真正直だな。純粋というかなんというか……」
「ってことは、首を突っ込むタイプか」
「いや、それは少し変わってると思う……」
アキラ自身もケンのことについて、分かっていないことがある。親友として一緒にいるが、実のところ仲間として旅した期間は短く、昔道場を村の人と一緒に作った頃は、いろいろあって覚えていることは少ない。
「まぁ、俺も猫かぶってるし、なんとなく付き合えばいいか」
ヤイバはそんな冗談交じりに言ったが、アキラは頬を少し緩めただけだった。
「あ、戦闘始まってる」
「やけに軽い言い方だな」
「その可能性しか、考えてなかったからな」
アキラとヤイバは、ケンと光明劔隊の戦闘員である少年と戦っていた。どちらも一刀流。そもそも二刀流などが珍しく、普通は一刀流である。三刀流のヤイバは例外というかなんというか。
「加勢した方がいいか?」
アキラはケンに聞こえるように言うと
「もしものときは」
もしものときだけ加勢して。そういうことらしい。周囲を見渡すと、アキラは路地裏から今にも飛び出しそうな子どもを見つけ
「ヤイバ、路地裏」
「子どもだな。あっちに加勢するか?」
「加勢ねぇ……、保護じゃね?」
そう言いながら、ヤイバとアキラは子どもの方へ。
「2人に近づくと危ないぞ」
男の子は
「だって、お兄ちゃんが」
この子の”お兄ちゃん”。実の兄ってことか、ケンのことを言っているのか。ヤイバは
「白服の人、君のお兄さん?」
白服とは光明劔隊の戦闘員の正装をいっており、
「うん、ジン兄ちゃん」
どういう経緯でこうなったのかは分からないが、ケンの相手はジンというこの子の兄だ。
「君の名前は?」
「僕は、ニン」
アキラは戦闘中のケンに
「ケン、そいつニンの兄貴のジンらしいぞ」
「だから困ってるんだよ」
弟の前で兄を倒すわけにもいかないし、でも倒さなきゃ自分が危ない。
「ジンは何も喋らないし、アキラは何か知らない!?」
戦闘はケンが不利だ。長期戦になれば負ける。ケンは光明劔隊に短期間いたアキラに情報を求めるが
「まさかとは思うが……」
アキラは、その先を言うか否かで迷う。兄弟なら、どう行動するか分からない。かといって、ケンに近づくことも難しいため、伝え方はひとつしかない。
「噂レベルでしか聞いたことが無いんだが、多少の記憶操作ができるらしい……」
「記憶操作……」
To be continued…




