第55章 意思を継ぐ者
ここから、第五部へ。
冒頭いきなり、まるで別作品みたいですが、ご覧の小説は『黒雲の剱』です。
ガドライン国の高速道路を一台の赤い乗用車が走る。それを追いかけるパトカーが2台。赤い乗用車には、運転する中年男性と助手席に女性が乗っている他、後部座席に手足を縄で縛られた少女が。ここ最近、各地で多発する連続誘拐事件。男性と女性はその仲間であろう。
赤い乗用車は、次のインターチェンジで降りる。ETCを減速せずに走り抜け、バーを壊して逃走。片側三車線の国道18号線を120kmで走り抜ける。車を次々と避けて、大きな交差点へ。追跡しているパトカーからの無線で報告を受けたパトカーが、何台も駆けつけ、赤い乗用車の行く手を阻む。警察官の他に、多くの報道陣がいて、生中継をしている。男性は、急ブレーキをかけ、交差点の中央に止まった。
交差点は、スクランブル交差点であり、信号が変わるが歩行者は横断せずに警察の規制線に阻まれる。
「警察だ。大人しくしろ。君たちは、完全に包囲されている」
多分、警部であろう人が言った。すると、男性と女性が両手を挙げ、車の外へ。
「人質は何処だ」
と、警部が言うと男性は
「ここだ!」
と、後部座席の少女を無理矢理外へ掴み出し、首元に刃物を当てた。
「大人しくするのは、貴様ら警察だ」
その時、高層ビルの2階から、古い布を纏った人物が飛び降りて駆け付け、
「なんだ貴様!?」と男性が驚く間に、素早く刃物を叩き落とす。どうやら、剱や刀といったものが入った鞘のようだ。
男性が反撃する前に、少女を警察の方へ避難させ、大勢の警察が犯人の男性と女性を取り押さえる。
布を纏った人物は、少女を警察に託した後、すぐに交差点をあとにしようとするが、交差点から50m程進んだとき、目の前にいる人物に違和感を抱く。
すると、剱を鞘から抜き、衝撃波がこちらに向かってくる。それは、まさしく伝説の剱の技のようだ。
布を纏う人物は、避けると後ろの人が危ないと思い、鞘に入ったまま
「白雷斬」
先端から半月のような白い刃が、白い雷を纏って敵の衝撃波とぶつかって消滅。しかし、第二波が襲う。布を纏う人物は、防ぎきれず、衝撃波が付記の建物のガラスを割る。
交差点とその周囲は、異常な空気に包まれる……
報道陣が、慌ててカメラを構え直し、中継を続ける。
敵は、目の前におらず、周囲を見渡すと、カフェのオーニングの上を走り、こちらに攻撃をする。オーニングは、布で出来た日よけの屋根で、それが大きく弛む。
自由自在に人間では為し得ない動きをするため、報道陣や警察官らは、唖然。極めつけは、アスファルトに対して高いところから何度も飛び降りている。
そして、ついに接近戦へ。剱が交錯すると、仮面を付けた敵は
「俺は、ザザアの意思を継ぐ者である」
「ザザアの……? でも、ザザアは……」
「問答無用!!」
ザザアの意思を継ぐ者と名乗る人物は、攻撃を緩めない。
さらに、布を剱が掠めて、いくつも斬られ、ついに布が風で飛んでいく。布を纏っていたのは、紛れもなくケンだった。体格は、ザザアとの決戦時のままだ。
剱が何度も交わり、休む暇も無い……。
交差点の一角にある高層ビルに、大きな液晶がある。そこに映っているのは、この戦い。都会の交差点近辺で、剱を使って戦うのだから、中継が続いてもおかしくはない。それに、ザザアの意思を継ぐ者が、連載誘拐事件を起こしている集団のボスという、根拠の無い事をある局が報道したためでもある。
「髑髏戦慄」
敵の攻撃を間一髪で避けると、交差点の信号機に命中し、信号機が倒れる。
「構え、撃て」
警部が指示を出し、警官が一斉に銃を構え、撃つ。市民がいる中の発砲。正気か!?
敵は全て避けるが、ケンの回避は間に合わない。
「光霊神斬」
ケンが避けきれない弾丸を光が弾く。ケンはすぐに気付き、
「ポルラッツ!?」
と、ケンがポルラッツの方を向いた隙に、ザザアの意思を継ぐ者が、
「髑髏戦慄」
ケンは気付いて咄嗟に、合成シルバーソードを構え直したが、剱を握る力が足りず、剱は宙を舞って、アスファルトに刺さる。
「しまった」
だが、ザザアの意思を継ぐ者は、ポルラッツの方を見て、建物の壁やベランダを跳んで、去って行く。
「大丈夫か?」
と、ポルラッツは言い鞘に剱を収める。
「なんとか……」
ケンは、アスファルトに刺さった合成シルバーソードを力ずくで抜き、すぐに鞘に収める。
鎮静化すると、すぐに報道陣が駆ける。
「さっさと、ここを去るぞ。面倒事はごめんだ」
「記者を味方側にすれば、情報収集が沢山出来るはずじゃ……」
「……好きにしろ。伝説の剱使いよ」
ポルラッツは、わざと伝説の剱使いを強調して、報道陣の食い付きをさらに上げる。
「伝説の剱使い……。でも、僕はあの時、何も出来なかった……。犠牲を出して……」
「認めるも認めないも、本人の自由。プレッシャーっていうのもあるしな……」
と、あまり見ない態度を取るポルラッツに、ケンは
「何か……変わった?」
「人は変わり続けるものだ。変わらない人などいない」
と、ポルラッツは言って、この場を去る。結局、ケンは記者の質問にほんの一部だけ答え、記者からさっきの人物について聞いたが、答えは返ってこなかった。
近くの喫茶店、"憩いの店"で、ポルラッツから話を聞くことにした。ついでに、少し早いが昼食をとる。店の外や、客席は報道陣の記者がいる。流石に、撒くのは無理だった。
ただ、個室に案内され、落ちついて話せるはずだ。
ケンは氷が沢山入った水を飲み、
「ポルラッツ、あの戦いは……」
「状況的には、途中離脱だろうな」
「……途中離脱?」
コップから水が少し溢れた。
「過去に関わる物は読んだか?」
「一応、図書館で歴史書は読んだけど」
と、ケンは答えると、丁度店員が、カレーライスを運んできて、「ごゆっくりどうぞ」
と言い、隣の個室へと注文を受付に向かう。ところで、喫茶店なのに、個室があるのは珍しいし、客が多いのに優先的に通してくれた。報道陣が多いから、混乱を避けるためだろうか。
「ケン、久しぶりだな」
店員ではなく、ハガネとヤイバと再会。約1ヶ月ぶりだ。
「店の中も外も、報道陣が多いな」
と、ケンのハガネはケンの隣に座り
「まぁ、おかげでケンがいる場所を特定できたんだけどね」
ヤイバはポルラッツの隣に座る。すぐに、テーブルの上のメニューを見て、何も言わずにハガネに見せる。
「さて、貴様らにはいろいろと確認したいことはあるが、まずは……」
ポルラッツは珈琲を啜り、語り始める。
「5年前……。面倒だから、200は付けないぞ」
ここは200年後だが、ザザアとの戦闘を基点に話す。
「5年前に、扃鎖軍の城を壊滅させた。そのあと、ケンは離亰の国の国王様に会いに行った。で、そのあとは?」
「……憶えてないんだ」
「ハガネは?」
「俺も、ザザアに支配されていたらしく、アキラに会うまでの記憶は無い」
「アキラに会ったのはいつだ?」
ポルラッツの問いに、ハガネもケンもすぐに回答できず
「正確な日付は分からない」
「……そうか。アキラ本人から聞くしかないってことだな」
と、ポルラッツが言うと、ハガネとヤイバのお水が運ばれてきた。ヤイバとハガネは、メニューからそれぞれ注文すると、
「これ、ポルラッツの奢りって事でいいの?」
ヤイバが冗談半分で聞くと
「そうだな。貴様らからの情報次第では、奢ってやらないこともないが」
ポルラッツがそう言ったので、ヤイバは追加でいくつか頼み出す。
「まだ良いとは言ってないぞ」
To be continued…
200年後の世界。かなり現代っぽくなりました。当時、交差点で対決させたり、街中で戦闘させてみたいなと思い、ザザアとの戦闘を中断して、遥か未来へ。未来だけど、話は過去のことが多いですね。




