第53章 歪む空間
カクゴウはヤミナと背合わせで、
「ヤミナ、ローズリーもザザアの駒になっている可能性について、どう思う?」
「それは、”臆測で”ということですか?」
「私の考えに過ぎない。しかし、ローズリーはもともと、ハクリョさんのように主だったと聞いている。主は、すなわち直接干渉しない者。しかし、ローズリーの行動は、いずれも直接関与している」
「それは、今考えないといけないことでしょうか?」
ヤミナはそう言って、目の前のオンブルへ攻撃に走る。カクゴウも、正面から攻撃を仕掛けてくるオンブルを一刀両断。
倒した後は、再び背合わせに。オンブルはさらに湧き出す。これでは、きりがない。伝説の剱を持つ、ケンとヤイバ、ニンが巨大オンブルとの戦闘を行い、アキラやハガネ、ジンはその護衛。エナは予定と異なり、引き続き戦闘に参加。ハンフリーたちも合流し、こちらが優勢である。時間による束縛さえ無ければ……
「ローズリー、ここにおったか」
この場に新たに現れたのは、白い髭を右手で撫でながらやってきたハクリョである。
「ハクリョさん」
ケンが最初に気付いた。
「我々は、直接関与しない約束じゃったろう……。それをこんなにも荒らしおって……」
ローズリーはハクリョに対して、剱を向け
「何故、ここに……」
「緊急事態につき、上から許可を得た。ザザアという脅威をコントロールしようとするまでは、百歩譲ってグレーではあるが、それに飲み込まれるとは。……もう、戻れんよ。失脚じゃな」
ハクリョは淡々と喋り、戦闘する気は無いようだ。
「思えば、脱獄の時点で止めるべきじゃっただろう。しかし、我々は判断できずに静観した。それが失敗じゃった」
ハクリョとローズリーの会話、というかハクリョだけが喋る一方的な会話だが、その後ろでは、ケン達が引き続き戦闘中である。休む暇はないようだ。
「主同士で、勝手に話を進めているところ悪いが、ヤツは俺様が討つからな」
「それに対しては、ノーコメントゆえ」
ハクリョは最後まで言わなかったが、それだけで伝わった。主同士は殺生しない。というか、ハクリョ自身が人を殺めることなどしなさそうだ。
こっちは、これ以上話をせずに、ポルラッツは戦闘しながら徐々にアキラへ近づく。アキラはポルラッツに気付いたが、特に声をかけず、ポルラッツから
「貴様、自分の仕出かした事の重大さを分かっているのか?」
しかし、アキラは惚けるように
「何の事だ? ……ゼルの一件は助かった。お礼は言う」
「そのゼルの使い方が問題だ。終わってから気付いた俺様も、見抜けなかったカクゴウにも問題はあるが……。で、終わった後だが、今回のことは見逃せないかもしれないな……」
「ただ、奴らはそれ以上のことをして、平気で破ってるんだろ。奴らの方が大罪じゃないのか?」
そう言われると、すぐには言い返せない。ローズリーとザザアは、時を超えて過去の時間を使ってこの危機的状況を作り上げた。
アキラがやったことは、ケンとハガネの戦闘をゼルによる死闘に置き換え、ケンとハガネを別の場所に誘導したのだろう。これにより、ケンとハガネの死亡という事実はゼルによる偽の死亡という事実に置き換わる。それを見た当時のアキラは、ケンとハガネの死亡を受け入れられず、時空間の神殿へ駆け、同じように時間が流れ、矛盾は起きなさそうに感じられる。ケンとハガネの戦闘という事実をなかったことにせず、置き換えたのは時間の矛盾を作らないため。でも、
「いつか、跳ね返ってくるぞ」
だが、アキラは返事をしなかった。ポルラッツの声が聞こえてはいるはずだ。
戦況は、人数有利と思いたいが、ザザアとローズリーの懐まで侵攻できていないのが事実である。ハクリョさんはというと、折りたたみのイスを広げ、端の方で座っている。本当に戦闘には関わらないようだ。
ザザアとローズリーもその場から動こうとしない。というよりも、動けないのでは? ただ、二人の方へ駆けるとすぐにオンブルが現れる。
「まだ増えるのか!?」
ヤイバが1体、また1体と斬るが、一向に戦況が変わらない。
それどころか、周囲の様子が変わり
「時空間の神殿……だよね?」
と、周囲を見てエナが指摘する。場所がいつの間にか変わっている。壁や屋根の一部が残るだけの廃墟で、白を基調とし、アクアブルーの不規則の波形が描かれている。長年の風化と汚れにより、所々色が落ちている。
ケンはすぐに思い出した。アキラと再会後に最初に行った神殿だ。
「水冰の神殿……」
「時空の狭間は通ってないはずだろ!? どういうことだ?」
ハガネが指摘するのも当然だ。時空間の神殿はあくまでも時空の狭間を通らなければ、別の場所には行かないはずだ。空間は、オリジナルの物でも……
「時空間の神殿が作り上げた仮想空間だろうな。実際の水冰の神殿ではない。ただ、これを利用しない訳には」
ポルラッツは、水冰の神殿の台座に刺さった剱を抜き
「ウォーターソードの紛い物か。しかし、これで」
ポルラッツは自分の剱を鞘に戻し、紛い物を振りかぶると、水のオーラを纏い
「水天一碧」
水が空から矢のように降り注ぎ、ザザアとローズリーの方へ、しかし大きなオンブルが立ちはだかり、全ての攻撃を受ける。それも、傷を負うことなく。
気付けば、今度は火焰の神殿である。天井に剱が刺さっている。あのときと同じように。
「雷撃弾」
ヤイバがライトニングソードから、雷の弾丸を撃ち、剱に当てると、すぐに落ちてきた。今度は、それをカクゴウが拾い
「烈火龍弾」
剱を纏う炎のオーラが龍の形を形成し、ザザアを目がけて一直線。
「髑髏戦慄……」
再び、ザザアの声だろうか。オンブルが黒いミストのようなものを放ち、カクゴウが放った炎を打ち消す。
再び、舞台が変わり、白堊の神殿である。
ジンはニンと背中越しに
「自分の知っている地なら、有利に働くが、油断するなよ」
「分かった」
ニンとフォルテが駆け出す。オンブルが立ちはだかるが、フォルテとニンのフェニックスソードで倒す。
「この場面転換、まるで時空間の神殿が味方しているようじゃな……」
ハクリョはポケットから取り出した懐中時計を見て、さらに
「さて、このまま共に去りゆくか、それとも次の太陽を拝めるか……」
戦闘しないのは、もうひとりいる。ミケロラがハクリョに近づき
「ハクリョさんは、戦わないんでしょうか……?」
「こんな老いぼれが、若い彼らに勝ろうか。答えは簡単じゃろ」
「では、なぜこんな危険なところに……?」
「立場上……という言い方は、あまり言いたくないんじゃが、彼らには勝って欲しいからの」
To be continued…
水冰の神殿とか、懐かしい所がでてきました。ハクリョの言う立場上とは……?
次回、扃鎖軍篇の最終話です。物語は思わぬ方向へ。




