第52章 脳と影
何も出来無かった。あの日、アキラは全力で駆けた。事実だけを突きつけられ、何度もフラッシュバックする。足が絡まりそうになり、地面の石に躓きそうになり、それでも走るしか出来なかった。考えることができず、声は叫ぶことしか出来ない。気付けば、アキラは時空間の神殿の正面へ。補修工事により、外装は赤い鉄骨が目立つ。足場も組まれたままだ。
時空間の神殿を目の前にして、アキラは1歩踏み出す。今から自分が行うことが、どんな風に思われても構わない。どんな風に言われても構わない。
”無かったことにできないか……”
*
時空間の神殿、3階。いくつか血痕らしきものが……
カクゴウが気付き、
「これは……」
「まだ、間もないよ……」と、エナ。ペンキではないだろう。でも、もしそうだとしたら、誰の?
「急ぐぞ」
ポルラッツは見向きもせず、奥へと進む。すると、
「あれは!?」
ヤイバ達の視界には、椅子に座って、吐血する人物が……
ポルラッツだけが前に進み、
「やっと本体に辿り着いた……。これをどれほど待っていたか。なぁ、ザザア元国王」
「ザザア……? どういうこと……? ザザアは思念体だって……?」
ヤイバが驚くのも当然だろう。思念体という言葉は、ポルラッツの説明から出た。
「ローズリー、貴様もここにいるんだろ!? 出てこい」
ポルラッツが声を荒らげて叫ぶと、奥から老い朽ちたローズリーが現れた。一瞬、その風貌の変化に戸惑った。だから、思わずヤミナが
「あの人がローズリー……?」
「久しぶり……だな」
ローズリーは声も衰えている。カクゴウは感じたまま呟くように
「どういうことだ? これじゃあ、まるで私達とは時間の進みが違うみたいじゃないか」
「それが実の真相だ。これほどまでの扃鎖軍の軍勢。あまりにも現実的じゃ無い」
「その通りだ……。ポルラッツ、どこでその情報を手に入れた?」
「逢魔劔隊の人間を甘く見るなよ。貴様らへの復讐心。もうこれ以上失うものがない人間が、全力を出せば尻尾を掴むぐらい容易い」
ポルラッツが招集した逢魔劔隊の核となるメンバーは、アキラのようにザザアやローズリーによる被害者が多かったらしい。無関係な者もいたが、汚れ役でもついてきたのは、そういう理由があったのだろうか。
「復讐か。情報を掴むのが容易いとは言いつつも、時間をかけ過ぎたな。老いぼれた我々を見ても……、もうすぐ死にそうな我々を見ても……、斃したいと思うのか?」
「本当に死にそうなら、確かに手を汚さずに済むだろうが……」
ポルラッツは、ザザアの方を見ると、ザザアは咳き込んでいるようだ。体もかなり細くなり、ローズリーに至っては、背骨が曲がっている。演技か。それとも本当に?
再び吐血するザザア。エナやヤイバが怪しんでいると、後方から聞き慣れた声が
「一種の拒絶反応だろうな。いや、オーバーワークか?」
「全部のオンブルを操るとなると、かなり厳しい気がするけれど……」
ハガネとケンの声だ。さらに、
「ザザアは、自分に似合う脳をずっと探していた。他人の脳に寄生し、操る能力はあるが、キャパシティが足りなかった。ハガネもその被害に遭っていた。概ね、そんな感じだろうな」
アキラも帰ってきた。ニンやエナ、ヤイバが3人に駆け寄り、嬉しいのに涙する者もいた。ポルラッツはそちらを見ずに、
「俺様は、ザザアは思念体という表現に間違いは無いと考えている。ヤツは、たった一人で全てのオンブルを操っている。しかし、脳が一つでは、処理や容量が足りない。だから、無関係な人物の脳に侵入し、踏み台にする。寄生型のマルチタスクといったところか?」
ヤイバはそれを聞いて、自分なりに解釈し
「つまり、ハガネは常にザザアと戦っていたってことか? そんなことにも気付かずに、俺はハガネを斬ろうと……」
「おい、勝手に殺すな」
と、ハガネがヤイバの頭を強く叩く。
しかし、一番の疑問が残っている。それについて、ニンが
「でも、ケンさんもハガネさんも、あのとき……」
「あれは、ゼル同士による戦闘だ。封解の書に書かれた出来事を回避するには、あれしか方法が無かったからな。バトルロイヤルのときに使用してたのを、そのまま利用させてもらったよ」
アキラがそう言って笑う。良かった。ケンもハガネも死んでない。生きている。ただ、それを聞いたポルラッツとカクゴウだけは、複雑な表情だったように、ヤミナは感じた。2人は、分かったのだろう。アキラが何をしたのか……。
安堵する時間もなく、ジンが奥からの攻撃に気づき
「全員、伏せろ!」
間一髪で避けれたが、ローズリーは
「そう簡単に……当たっては困る。……これから、勝敗の決まった戦いが……始まるのだからな」
奥から現れたのは、巨大なオンブル。さらに、通常の大きさのオンブルも10体ほど。
「髑髏戦慄……」
オンブルから声がする。ザザアの声なのか。
「全員、構えろ! ヤツが持っているのは伝説の剱だ!」
ポルラッツが叫ぶと同時に、巨大なオンブルが持つ剱が振り下ろされ、紫色の鋭い風が周囲を襲う。
伝説の剱を持つヤイバと、ケン、ニンが同時に技を発動。
「雷撃」
「白雷斬」
「烈火斬」
伝説の剱による技の衝突により、爆発が発生。周囲が瞬く間に煙に包まれる。
煙の中、カクゴウは剱を構え、突撃してきたオンブルを一刀両断。反応できれば、通常のオンブルは脅威では無い。しかし、この煙による視界不良で、全員が反応できるだろうか。前後左右、上からの攻撃もあり得る。
ニンのもとにオンブルが迫る。ジンが気付き、オンブルを両断。救護班として来たエナとミケロラにも、オンブルが迫る。エナは短刀を構えて、オンブルの攻撃を防ぎ、反撃を試みるが煙の中に消える。
煙からいち早く出たのは、ハガネとポルラッツだ。視界不良でなければ、オンブルなど脅威では無い。しかし、コントロールしているのはザザアであり、複数体による連携も考えられる。
周囲を警戒していると、頭上から巨大な剱が襲う。巨大オンブルの攻撃である。ハガネとポルラッツはそれぞれ、余裕をもって避ける。あんな巨大な剱、当たったらひとたまりもないだろう。
次第に煙が晴れる。普通サイズのオンブルは3体にまで減っている。
しかし、それよりも、一同が驚愕したものがある。
「驚いたか……。大量の爆薬だ……。時空間の狭間が多い、この時空間の神殿で……大爆発を起こしたとき、……どうなるだろうな。これで……、この世界は幕を閉じる。……くだらない世界が、……終わりを告げる」
ローズリーの声が、さっきよりも枯れて聞こえる。ポルラッツは、ローズリーが言った言葉について、
「なるほど、”勝敗の決まった戦い”というのは、そういう意味か。あくまでも、普通に死ぬ気は無いんだな」
どうやら、時間は限られているようだ……
To be continued…
ケン、ハガネ、アキラが復活。って、復活という表現は少し違うか。
ザザアは他の人の脳を踏み台にするって、まるでコンピューターウイルスみたいだな。




