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黒雲の剱(旧ブログ版ベース)  作者: サッソウ
第4部 扃鎖軍篇
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第50章 ファクトリーシティの最期

 あれから、3週間が経過した。扃鎖軍の侵攻が若干弱まってきたと思われるが、多くの難民は陽光の国に集結している。神託の国からも、多くの民がこちらに避難している。それは、彼らも同じであった。

 陽光の国のひとつの街、マージェスシティ。ここに避難してきたのは、ファクトリーシティの住民である。ファクトリーシティの市長の指示により、住民が揃って移動したという。

 しかし、そこでファクトリーシティの市長と彼が言い争っている。

「どうして、ここに来ても変わらないんだよ!」

 ジンがイスト市長に向かって、かなり怒っているようだ。

「お前には関係の無い話だろう。これは、ファクトリーシティの決まり事だ」

「何が決まり事だよ。法律とか規制とか、そんなレベルの話かよ! あまりにも非人道的じゃ無いのか?」

「ジン。市長は私だ。()()()()()()()()()()()()()()

 ファクトリーシティの決まり事。独裁状態のこの街は、避難先でも、変わらない。マージェスシティ支援は、全ての市民に行き渡ること無く、裕福な層にしか配布されない。

 "リゲイン・ザ・ロスト"と呼ばれる貧しき子ども達のリーダー、シルトは、市長に迫るジンの左肩を右手で掴み、自分の方へ引き戻す。しかし、ジンはすぐにまた1歩前に出そうだ。シルトは少し俯いた後、イストに向かって

「市長、やはりもうこれ以上は……」

 シルトは最後まで言えず、視界に入った遠くの人影に気付く。イストの背後。物陰から誰かが狙ってる。いや、正確には物陰には隠れていない。ジンは気付いてないのか?

 相手はシルトのほうを見る気配は無く、自分の獲物を狙うかのように、銃口をジンに向けている。おそらく、今はイストと位置が被っているため撃たないのか? それとも、市長を狙っている?

 市長と話すために、人影のない裏で話している。表の通りならば人はいるだろうが、ここはほとんど人がいない。

 ジンとイストの言い争いが過熱して、ジンが自分の剱に手をかける。鞘に収まったまま、剱を振りかぶる。すると、鐡砲の射線にイストがズレてジンだけが入る。

 シルトは、銃声と同時にジンを庇って押し倒す。2発の銃声のうち、2発目がシルトを襲う。

「シルト!」

 ジンがシルトに声をかけるが、シルトは痛みで答えられない。

 銃声を聞いたニンは急いで走り、フェニックスソードで、撃った人物を背後から襲撃! 振り向きながら3発目を撃とうするが、ニンの方が早く、鐡砲にフェニックスが直撃。鐡砲が地面に転げ落ちる。

 マージェスシティは、まだ爆撃を受けて折らず、銃声が響き渡ったようで、ニンの他にもヒューサーやロン、アミュレ、ヴォスキャー、ニャセルほか、次々と集まってくる。

 黎明劔隊所属のアミュレは、すぐに事態を分析し、

「負傷者だ。ヴォスキャーは避難誘導と、ニャセルは救護班へ連絡。急いで!」

 光明劔隊では精鋭部隊の第1班だった彼女は、第3班だった双子の兄弟とチームを組んでいる。扃鎖軍の襲撃で、黎明劔隊の編成がかなり乱れており、指示系統も麻痺することが多い。それでも、隊長からの指示はすぐに通るから、一時的に一方通行な指示系統にして、通常の復帰を試みているのかもしれない。

 一番大きいのは、クーリック村の本部が襲撃されて放棄せざるを得ない状態になったことだろう。結局、クーリック村は扃鎖の国に占領されてしまった。隊長たちがどの国にいるかという情報も無い中、黎明劔隊のメンバーは動いている。

 鐡砲は地面に転がったままだ。イストが動こうとすると、

「待て。持っている銃が1つとは限らないだろ」

 そう言って、新たに2丁の鐡砲を構える。

「あいつは、ローズリーか……?」

 ジンがそう思うのも無理は無い。あまりにも似ている。しかし、ローズリーと同一人物かというと、そうは感じない。イスト市長は、

「ズージア・ヴァージン。ローズリーの弟だ」

 ズージアは、不気味に笑って

「ローズリーか。あんな無茶苦茶な兄貴とは違う。俺は、市長のボディーガードに過ぎないよ。市長に斬りかかろうとした、お前。こっちに来いよ」

「ジン、そこにいろ」

 イストがジンの前に立ち、それを見たズージアは

「おい、そこをどけよ」

「協定違反だ。ズージア、お前は越えてはいけない一線を、今越えた。それがどういう意味か、分かっているのか?」

「市長に逆らう者は、市長を守るためにやむを得ないことだ」

 ズージアとの対立。事情を知っているのは、イストとシルト、そして……、

「ズージア、ヤツがファクトリーシティの黒幕といっても過言では無い」

 そう言ったのは、ヒューサーである。元議員だったが、秘密裡に市長の裏を探っていたところ、他の市議会議員にバレて、地位を失った。ヒューサーが、黒幕について本当のことを知ったのは、7年前の市庁舎。応接室で、シルトとヒューサーが20回目の抗議を行ったときである。

「市長自身も、肉声を聞いたことが無いため、正体が分からなかったらしい。だから、7年経っても、状況を打開できなかった。シルトが黎明劔隊に打診したのも、数年前だ。そしたら、まさかヤツから姿を現すとは……」

「おしゃべりが過ぎるぞ。銃口は2つあるんだからな」

 ズージアの銃口は、いつ火を噴くか分からない。このまま硬直状態が続くと、シルトが危うい。いや、もうすでに……

「確かに、姿を見せるのはマズいと思ったが、ファクトリーシティがまるごと避難するとなると、これまで構築したものが崩壊する恐れがあった。だから、多少無理をしてでも行動する必要があった。でも……」

 ズージアの表情はさらに恐ろしくなり、

「でも、もう、これで、終了だ。市長以外、全員葬ってやるよ。そうしないと、全てが台無しだ。そうだ。そうしよう。そうすれば、また再構築できる」

「何を言ってるんだ……、ヤツは……」

 あまりにも理解できない言葉に、ジンがそう呟いた。

 ズージアは、銃口をヒューサーとロンに向ける。そして、口と目を大きく開けて……。その狂気に2人は酷く怯える。

 銃声の前に、ニンが飛び出し、フェニックスソードは宝玉の力で炎を纏う。それにズージアが反応して、1発だけニンに向かって撃ち、銃弾がニンの剱に当たる。ズージアはわざと当てたようで、2つの銃口はジンの方へ向き、ニンの攻撃がズージアに到達するよりも早く、銃声が響く。そのすぐあとに、炎がズージアに到達するが、軽傷だ。ニンは、人を攻撃するということに、直前になって躊躇した。2発の銃弾は、ジンの方へ一直線。

 ……撃たれたのは、ジンでは無かった。地面に倒れたのは、イスト市長である。

「市長が倒れた? これまで築き上げたモノがすべて……」

 このままでは、ズージアが暴走を始めそうだ。アミュレが一歩踏み出そうとすると、目の前の地面に銃弾が突き刺さる。思ったりも冷静なのか? いや、冷静だなんて言葉が当てはまらない人物だ。応援を待つ時間も無い。

 ニンは、我慢できずにイストの方へ駆け出す。ニンの背中に銃口が向く。ニンはそれに気付いていない。

 ジンはその場に座り込んだまま、イストを起こそうとするが、仰向けにするのが、精一杯だった。

 イストに対しては、ジンよりも先にニンが

「お父さん!」

 すると、ジンは「……ニン、知ってたのか?」

 ジンにとっては、ポルラッツから知ったことだ。でも、ニンは知っていた。

「大分前から知ってた。シルトさんに聞いたら、否定も肯定もしなかった」

 イストが咳き込み、ふたりの顔を見ると

「……すまないな。ニン、そして、ジンよ。今まで、ズージアの指令通りに動いていたんだ……。本当にすまない……」

 イストはふたりに謝る。もはや喋ることも、難しいぐらいの重傷だろう。

「……お父さん。そんなこと言わないで」

 ニンは涙を流していた。どんな理由があろうとも、父親に変わりは無いのだ。

「……父さんは最低だな。ニンにも、ジンにも、街のみんなにも……」

「父さんは、最低なんかじゃない……。定期的に、俺達に大量の食料をくれた人って、父さんだったんだろ……」

 ジンは唇を噛みしめ、イストは右手でふたりの頬に触れ

「分かっていたのか」

「だから……」

「……泣くな。ふたりとも。これは、サヨナラじゃない……、父さんは……」

 イストは最後まで言えずに……

 その直後、銃声が1発轟く。市長の死により、これまで築き上げたモノが崩壊し、ズージアが自分で撃ったのだ……


 まもなくして医療班が到着。しかし、3人とも首を横に振った……


To be continued…

ズージアは、イストを操って今の立場を築き上げたのだろうが、イストの死でそれも陥落。

ニンが伝説の剱で戦うのは、初めてかな。

ファクトリーシティのストーリーは今回で終了。

自決する人2回目だな。毎回、銃が強いんですが……

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