第46章 錯綜の剱
封解の書には、こう書かれていた。
”伝説の剱使いの推論当たり、破れ、死すべし”
たった一行だ。ケンの推論が当たっている。そして、戦いに敗れると……。結局、伝説の剱使いと呼ばれるようになった理由はまだ知らない。
ケンの表情が変わったため、アキラは不思議に思いケンが見るページを覗き込むが
「何も書いてないけど……」
封解の書はその人しか見えない。他の人には見えない。
「ケン、みんな黎明本部の中にいるから、来いよ。一先ず、報告しないと」
アキラが先に本部に入る。ケンは封解の書を閉じて、入口へ向かうが、背後に気配を感じる。空は再び黒くなり、今にも雨が降りそうだ。日没の時間。段々周囲が暗くなる。
背後の気配に、アキラは気付かなかった。じゃあ、いつ? アキラが本部の中に入った後か。
振り向くと、ハガネがいた。顔の左に大きな傷がある。それを見て、すぐに結びついた。あのときも、そうだった。
空から、一滴、また一滴と雫が降ってくる。状況があまりにも酷似している。
ハガネは鞘からゆっくりと剱を抜くが、構えない。剱を下に向けたままだ。
ケンは、例えハガネが向かってきても、それを不思議には思わない。理由がわかっているから。ポルラッツやカクゴウは知っていたのだろうか? 多分、知らないかもしれない。その可能性を考えたことはあるかもしれないが、調べようがないだろう。
雨脚が段々強くなる。アキラ達に説明する時間はない。それに、それを受け入れられるだろうか。少なくも、ケン自身もそれを受け入れられなかった。
ケンは、合成シルバーソードを鞘から引き抜く。宝玉は填め込まれており、さらに利き手の左で持つ。本気である。封解の書に書かれていた予言、”破れ、死すべし”が頭をよぎる。全力で行かなければ勝てない。
ケンから仕掛けるようなことはしない。構えて、ハガネの攻撃を待つ。ハガネが持っている剱は、ハガネが昔から使っている自前の剱だろう。
雲から稲光や雷鳴が聞こえる。あのときとは違う。でも、状況は同じ。豪雨により、地面が水分を吸いきれずに水たまりがいくつも出来る。何分経過した……?
ハガネが剱を振るうと、剱から水しぶきが飛ぶ。やや前傾姿勢で、水たまりを避けずに駆けてくる。ケンは覚悟を決めて、剱をハガネに向かって振るう。二人の剱が幾度も交錯し、動く度に地面の水が撥ねる。
両者、会話を交わすことなく、剱をぶつけ合う。戦闘になって気付いたことがある。ケンは鎧を着ていないし、ハガネも同じである。少しでも防げなければ、致命的な傷を負うことになる。ケンの攻撃が、一瞬緩むと、ハガネが大きく剱を振ってケンを後方へ飛ばす。ケンは地面に背を打ち、痛みに耐えながらすぐに起き上がり、ハガネの攻撃をギリギリで止める。しかし、泥濘んだ地面に足を取られて、防ぎきれない。
「ハガネ!」
ケンが叫ぶが、ハガネの攻撃は止まらない。
「ハガネ、聞こえてるんだろ!? それとも、無視する気か!?」
ケンは力一杯、ハガネの剱を押し返して、ハガネが下がる。
「なぁ、ハガネなんだよな……?」
ケンの必死の叫びが雨と雷でかき消されそうだ。それに、ケンは先ほどの転倒で、口を切ったようだ。
ハガネの攻撃は止まらない。豪雨の中、戦いが続く。
本部の中では、突然の雷雨により、音が聞こえない。セーミャが新しいタオルを用意する。アキラが出迎えに行ったが、この雷雨で濡れて帰ってくると思って準備していた。黎明劔隊の本部は、クーリック村の避難所として機能していた。ドーグ村の復興作業が概ね完了して、やっとクーリック村の復興が始まろうとしている。
神託の国の地図を見ながら、ヤイバとニンが話をしている。おそらく、ライトタウンでの騒動について、作戦会議だろうか。にしても、この二人は仲が良さそうだ。ニンにとっては、第二の兄のような存在かもしれない。
ニンは何度か正面玄関の方を見る。ヤイバが「どうした?」と聞くと、
「さっき開いたような気が……」
「アキラとケンが戻ってきたかな? 行ってみるか」
ヤイバとニンは駆け足で、正面玄関の方へ。
しばらくして、カクゴウとポルラッツも現れた。
「ライトタウンの指揮は、しばらくヤミナとナードに任せる。しかし、わざわざ迎えに行く必要はないだろ? ……やはり父親だからか?」
「いや、何か胸騒ぎがする」
と、カクゴウの頬を一滴の汗が流れた。
ライトタウンには、黎明劔隊も逢魔劔隊も、戦力はゼルを中心に展開しており、隊員は救護活動で動いている。なるべく犠牲を出さないため。そして、もし黎明劔隊と逢魔劔隊を潰す気なら、本部を襲撃するだろう。そのため、この本部に戦力を温存している。
「ポルラッツ、逢魔劔隊の本部にいなくていいのか?」
「逢魔劔隊の本部なんて、あって無いようなものだ」
あの移動できる飛行船が、ある意味本部とでも言えようか。ただ、あの飛行船はあくまでも移動手段らしい。
でも、なんでこの2人が一緒にいるんだろうか? 度々衝突していたはずだが……
正面玄関から声が聞こえる。ニンの声だ。
「なんで、止めないの!?」
「アキラ、何があった!?」
ヤイバが事態の説明を求めるが、アキラは黙ったままだ。
先に入ったが、ケンがなかなか来ない。さらに雨が降り始めたため、アキラは外に出た。すると、豪雨の中、ケンとハガネが本気で戦っている。自分の目を疑った。
さらに、ポルラッツとカクゴウもその光景に、黙り込んだ。
「なんで、ハガネとケンが戦ってんだよ!」
ヤイバがアキラを問い詰める。アキラは呟くように
「なんで……」
目の前の出来事を受け止められないようだ。
ケンは泥濘んだ地面に何度も足を取られそうになる。至る所に剱による傷なのか、それとも転倒による傷なのか分からないが、全身がボロボロだ。
剱が交錯するごとに、声をかけるが返事は来ない。
「ハガネ、返事してくれよ……」
ケンの息が乱れる。雨で体力をどんどん奪われる。
稲光が周囲を照らし、その光でヤイバ達は、ハガネの顔に付いた傷に気付く。
戦闘は、ハガネがやや優勢である。
To be continued…
ハガネとケンとの再戦。
ただケンにとっては7年後の世界で1度戦っているので再戦だけど、ハガネにとっては再戦じゃないな。
一体、戦いはどうなるのか……




