第44章 毒
アキラを背負うケン。ヤイバが先導する。途中でジンを見つけ、
「ジン、エナを知らないか」
「黎明なら、離亰の国寄りだ。大丈夫なのか……?」
ジンは、アキラの様子を見て心配したが、それが余計にケンの表情を不安にさせた。ジンは、黙るケンとヤイバの様子から、深刻だと思い
「もうすこし行った先に、ミケロラとニンが待機している」
今度は、ジンが先頭で走る。ヤイバは後ろにまわり、ケンが体勢を崩しそうになったときに、たびたびサポートすることに徹した。今は、それしかできないから……。途中で、アキラが腰に付けていたスィールソードが転げ落ち、ヤイバが拾った。
アキラの容体は深刻だ。一刻も早く対処せねば。
ミケロラとニン、そしてエナも一緒にいた。エナは、ケン達の様子から、ミケロラに
「多分、治療が必要かも。ミケロラ、手伝って」
エナは自分の鞄から、治療機器や薬を取り出す。まだ距離があって、何が必要か分からない。エナとミケロラは、折りたたみの簡易椅子を4つ広げて、布でベッドを作る。ニンも手伝おうとするが、エナから指示は飛ばず、結局あたふたするだけ。
「エナ、アキラが……」
ケンは、アキラを下ろして、ヤイバとジンと3人がかりで、簡易ベッドに寝かせる。
「容体は?」
「実際に見たわけじゃないけど、ローズリーと……、剱で戦っていたみたい。相手の剱に、毒が塗られていた。それが、傷口から侵入したのかも……」
「ケン、スィールソードは?」
ヤイバがスィールソードを見せながら聞くと、
「鞘にしまったままだった」
「何の毒が塗られていたのか分からないと、最善の治療が出来ないけど……、このままだと……。止血しても、毒がすでに体内を循環してるだろうし……」
エナは少し悩んだが、すぐに鞄から薬を3つ取り出し、
「解毒薬品。どれも効果は違うけど、飲み薬と塗り薬」
エナが治療に専念し、ミケロラが指示を出す。
「ヤイバとニンは、清潔な水を持ってきて。ジンは近くに病院がないか探してもらえる? ケンは、アキラのためにここにいて。……あと、ハガネは?」
ヤイバが辺りを見回し、
「見てない。水を持ってきたら、あとで探すよ」
それぞれが散らばる。
エナは、今の状態だと飲むのは不可能と判断し、注射に切り替える。
ケンは何度もアキラの名前を呼ぶ。でも、返事がない。額には汗。ミケロラからタオルを受け取り、ケンはアキラの汗を拭く。
ヤイバ達が水の入った2リットルのペットボトルを数本持って帰ってくると、再び追加の水とハガネを探しに行く。
エナの治療で、多少アキラの容体が回復したように思えるが、エナが用意したものでは十分な治療が行えず、応急処置に過ぎない。ジンが見つけた、医療センターへ急いで移動する。
ケンは、アキラが元気な姿で戻ってくることを信じ、祈る。他の仲間たちも、祈るしか出来なかった。唯一、エナが引き続き、治療のアシストとして参加できたぐらいだ。
*
アキラ入院後、何日が経過しただろうか。一向に目が覚めないみたいだ。心配していた皆も、ずっといられるわけでもなく、黎明劔隊はエナを残して、撤退。ジンやニン、ミケロラたちも一度神託の国に戻ることを選択した。残ったのは、ヤイバとケン、エナだけだった。
「結局、ハガネは?」
アキラの病室前の廊下で、エナが聞いた。
「扃鎖の国に入ってから、見てない。……もしかして、ハガネのことが心配なの?」
「誰も話さないから……。ケンもハガネも、それにヤイバも……、最近、様子がおかしいなって」
「どういう意味で……?」
「時折、雰囲気が違う人のように感じることがあるから。……まぁ、ただの勘だけど。最初に感じたのは、ハガネだったけど、最近は3人とも。これでも、大真面目に医者を目指してるから」
「意外と、周り見てるんだ」
「何? その言い方?」
と、エナはヤイバの左耳を引っ張り、
「痛いって」
ヤイバは、少し赤くなった自分の左耳を触り、「何も引っ張ることないのに……」
エナが何か言おうとしたが、病室の扉が開き、そっちに注意が行く。ケンが病室から出てきた。
「一緒にいなくて良いのか?」
左耳をおさえたままのヤイバが声をかけると、ケンは
「……どうすればいいと思う?」
エナがヤイバより先に、「何を?」
ケンは無言のまま俯く。ヤイバがそれを見かねて
「俺ら、後悔してばっかだからな。今できることを、今やるしかないだろ」
分かってはいる。過ぎたことを後悔しても、次に繋がらないことぐらい。強くなる。強くならねば。
ケンは病院をあとにし、離亰の国の国王様のもとへ。ボロック国王様からの依頼はまだ途中である。
しかし、その日、国王様に会ったかどうかが思い出せない。それどころか、そのあとの記憶が思い出せないのだ。ただ、毒で痺れて動けないアキラと交わした新たな約束、「もう一度、道場を建てよう」という一言だけは覚えていた。
*
見覚えのある景色。ここは……
「起きたか。お腹空いたじゃろ。準備するから少しばかり待っておれ」
聞き覚えのある声だ。なんで、ここにいる? 声の主は、ハクリョである。そして、ここは天地の神殿ではないか。
「あれ? なんで……」
ケンは頬をひねるが、痛みを感じる。夢や幻ではなさそうだ。ケンは、さらに鏡を見て少し背丈が伸びていることに気付き、直近の覚えている出来事、
「ハクリョさん、今日って逢魔劔隊が扃鎖の国を襲撃してから何年が経過してますか!?」
ハクリョは、焦るケンをよそに、自身の髭を撫でながら
「さて、扃鎖の国の地が離亰の国に返還されたのは、今から……約5年前じゃ」
「5年前!? えぇ……?」
5年前となると、ケンが時空間の神殿を経由して未来に行ったときから7年後。つまり、ここは再び崩壊した世界か……?
いや、それだとそのときと違う。あの時と違って、自分の背丈が伸びている。つまり、ここは本当に、あの”7年後の世界”……
「なんで、5年も記憶が……?」
「まぁ、落ち着きなさい。といっても、パニックになっとるようじゃから、順を追って整理するかのぉ」
ハクリョは、紅茶を淹れて椅子に座る。ケンは、そんな悠長なこと出来るはずがなく、頭を掻きむしる。
一体、何が起こっている? そして、何が起こっていない?
To be continued…
物語は、あの7年後の世界からどのように変化したのか。
扃鎖軍篇はまだ続きます。




