第41章 谷閣
離亰の国は、国土が4分の1まで減少し、人口も大幅に減った。多くは、陽光の国などへ移住し、避難したのだ。国土の4分の3で、扃鎖の国が建国したが、いまだに他国から国とは認められておらず、あくまでも自称でしかない。しかし、国として認識している人が多いのも事実。
扃鎖軍の本拠地は、まるで城のようであった。断崖絶壁に佇み、正門以外からの侵入を許さない。しかし、隠し通路がいくつか存在し、そのうちいくつかの進入ルートが判明した。今回は、それらから押しかける。
曇り空の夜は、ライトがないととても暗く、作戦の遂行には打ってつけの日だった。
「なかなかの数になったな」
ポルラッツは扃鎖の国で身を潜め、小型モニターで映像を見ていた。その小型モニターを通じて、飛行船にいるナードが喋る。
「2千体をも超える膨大な数です。メルードの相手は、ゼルに任せ、潜入班がそれぞれ配置につきました」
メルードとは、機械の人形のことである。機械の人形は、扃鎖軍の兵器であり、ローズリーがそれを買い込んだが、逢魔劔隊はメルードの出撃回数はほとんどない。というよりも、ローズリーが指示する時しか使用していなかった。
「メルードとゼルは、どちらも生物ではない。可能な限り、無機物同士で数を減らせれば、潜入隊が動きやすくなる。潜入隊の突入は、おそらく早くても明朝か、もしくは明日の夜だ」
*
扃鎖の国の騒動は、黎明劔隊にまで伝わっていた。むしろ、意図的に流したのではないか、と思うぐらいのスピードだった。
さらに、黎明劔隊の情報はエナ経由で、ヤイバ達に展開された。ケンは戻ってきて早々、ボロック国王に報告し、そのままヤイバ達と合流。
現在、陽光の国の谷閣を訪れていた。
黎明劔隊は、カクゴウ、ヤミナ、ハンフリー、アンリ、レクト、ライクル、エナという、特殊編成。私情が多少交じるので、実際の部隊は動かさずに臨時編成である。
一方、ヤイバとケン、ニン、ハガネ、ジン、ミケロラが集まった。
「久しぶりのメンバーだな」
ヤイバが久しぶりのメンツにそう言った。確かに、ハガネの入院時に会ってから、かなりの月日が過ぎている。
「ハガネは、完治したの?」
と、退院したことを知らないケンが聞くと、ハガネは
「あぁ、もうほとんど治ったよ」
完治って言わなかったけど、誰一人として疑問視しなかった。むしろ、良かったと安堵する声が多かった。
「それぞれの旅の成果は追々話すとして……、すでに"詰み"なんだけど、どうすんの?」
ヤイバが苦笑する理由は、陽光の国と離亰の国に通じる谷閣が崩落していたからだ。
ミケロラは、現地のスイーツを食べながら
「確か、架け替えには数ヶ月かかるって話だけど。そんなに待てないでしょうし。あ、これ美味しい。ニンも食べる?」
そう言って、ニンに、クッキーでアイスを挟んだようなスイーツを渡す。ニンは、「ありがとう」と言って、食べ美味しそうにしていた。
「それこそ、飛行機やヘリとかが必要だな」
と、ジンは言うが、そんな乗り物用意できない。
そもそも、谷閣は1本の大木で出来ている。陽光の国で育った樹齢千年以上の大木を使用しており、この谷閣は、ほぼ千年に一度、大木が腐って谷底に崩れ落ちる。その日が、今日だった。なお、千年は五百周期であり、つまりは西暦なら五百年である。
谷の幅は数キロ。渡る手段がない。やっと手に入れた情報。アキラとクロバーの奪還タイミングだが、ここで詰んでしまうのか。
ケンが考え込んでいるので、策を練っているのかと、ヤイバが
「ケン、なんかアイデアでもあるのか? 見たところ、黎明劔隊も策はなさそうだし」
「一応、2案あるけど、1つは連絡手段がなくて時間かかる。もう1つは、聞き入れてくれるかどうか……」
「でも、策は他にないぞ」
と、ハガネ。
「頼んでみるよ」
そう言って、ケンは携帯電話を取りだし
「おい、なんでお前がそんな高価な物持ってんだよ」
思わずハガネが突っ込んだ。固定電話さえ珍しいのに、携帯電話なんて持ってる人など、ほとんどいない。
「ちょっと、發達の国に長居してたら、お金がかなり厳しくなって、国王様からの頼まれ事をこなして、やりくりしてたから」
所謂、クエスト的なものを想像すれば話が早いだろう。そうでなければ、長居などできやしない。
「發達の国の国王様って、確か、ウツテム・ライ国王だったよな……」
ヤイバが国王の名前を確認すると、ミケロラが
「そう。最年少で国王になった人。当時は確か、今のヤイバ達と同じくらいだったと思うけど。先代が古豪と新鋭の戦争で亡くなって、最年少で王位を継承したけど、かなり優秀らしくて、20歳まで国王の補佐が代行国王になる予定がキャンセルされたぐらい」
「それに、發達の国だと、旅人は困らないって言われるからな。どの国民も心の余裕があるんだろうな。裕福かつ、困っている人に手を差し伸べることが出来る。全く。どこかの街とは大違いだ」
ジンが言うと、言葉の重みが違う。
*
戦況は、予定通り。ゼルがメルードを倒し、時には相打ちや倒されることもあるが、想定の範囲内である。突入させて丸1日が経過する。
「今のところ、ザザアの姿は見当たりません。しかし、ローズリー氏の居場所は特定できました。どうしますか?」
無線から聞こえるナードからの問いかけに、ポルラッツは
「ローズリーは、スィールソードを所持している。安易な考えで飛び込めば、かなりの深手を負うだろうな……。それに、最後の手段がある。正直、それを使うのは初めてだし、威力がある分、無関係なヤツを巻き込むつもりはない。いないことを確認したら、墜とすぞ」
「いずれも予定通りですか」
「作戦に変更はない。橋が落ちている分、他の邪魔は入らないだろうし、黎明劔隊も来ないだろう。……いや、カクゴウのことだ。おそらく邪魔しに来るだろうな」
「発見したら、待機中の部隊を向かわせて時間稼ぎをしてくれ。そっちの指揮は、指令班に任せる。で、彼女の容体は?」
ポルラッツはまだ時間があるため、他の話も確認する。
「クロバーですが、黙ったままで話ができるような状態ではないですね。ヤミナじゃないと、話さないみたいで。あと、雷霆銃族からの侵攻ですが、防衛班が防ぎきったので、特に問題はありません」
雷霆銃族は、まだクロバーを狙って襲撃を企てているようだ。
「さて、長話もこれくらいにして、そろそろアキラから連絡があることかもな。いや、今は扃鎖軍のジャギラか」
To be continued…
千年(500年)朽ちずに使える大木とのことですが、耐久を高めるためにかなり加工されているとか、いないとか。そもそも、過去の架け替えに関するデータはあるのかな……?
扃鎖軍って、そもそも500年よりも最近なのでは……




