第39章 雪
ミケロラと会い、客となったヤイバとニン。
ニンが、窓の外を見ると、
「あっ! 雪だよ」
「雪か。4年ぶりだな……」
「2年に一度の冬。今年のクリスマスは独りかな……」
ミケロラが突然そんなことを言うもんだから、
「ミケロラ……。そういうのは、むしろ他人にダメージを与えるから、こういうとこでは言わない方が……」
ヤイバは目を細めてそう言い、水を飲む。反応がないので、ミケロラの方を見ると、
「ダメだな。すでに自分の世界に入ってる……」
ヤイバとニンは、テーブルに置かれたメニューを見る。ミケロラは外の雪を眺める。
「ミケロラ! 注文。俺たち、客なんだろ」
雪が舞う。
2年に1度。それは決して珍しくない。奇数と偶数の年で季節が異なる。それに、年齢も2年で1歳とカウントする。年齢なのに。なぜ……
*
發達の国も雪が舞う。ローギル駅前のクリスマスツリーにカップルが集まっている。夜にはイルミネーションが輝くみたいだ。でもクリスマスまで、まだ数日ある。当日は、沢山の人で溢れるのだろうか。
ケンは、降り続ける雪に足を止め、空を見上げる。暗い空から白い雪が降ってくる。ものの数分で、雪が3cmほど積もった。このままだと、かなり積もりそうだ。滑らないように、注意して歩き始める。
小さな雪だるまが、点々と家の玄関先にある。多分、小さな子供が作ったのだろう。雪道を歩いていると、
「ちょっと待ちな」
と、声が。ケンは困って、
「えっと……」
「その剱を持っているということは、宝石をお求めかい?」
と、宝石のネックレスを複数つけたマダムっぽい人が言った。そのマダムっぽい人の後ろには、小さな店がある。しかし、宝石の文字は見当たらない。
「ある人から剱を預かっているんだけど、なかなか来ないんで、こうして待ってたわけだけど」
「それは、ポルラッツが預けた物ですか?」
「そうだよ。ここが宝石店さ。まぁ、看板とかは出しちゃいないが」
どうりで、いくら探しても見つからないはずだ。宝石店の看板を目印に探していたのだが、まさか看板を掲げていないとは。
カランコロンと鈴が鳴る扉から入ると、中は沢山の宝石やアクセサリーが並んでいる。
「自己紹介がまだだったわね。私は、ここの宝石店を営むジュエラー。あぁ、ちなみに本名ではないけれど」
ジュエラーはカウンターの椅子を引き、ケンを座らせる。
「僕はケンです。ポルラッツに言われて、剱を探しに来たのと、あとこれについて知りたくて」
ケンは3つの宝玉をカウンターに並べる。シルバーソード、フラッシュソード、ウォーターソードの宝玉である。
「実に美しい子達ね。まさか、本物を見れるとは。まだ名前のない宝玉みたいね」
「名前がない?」
「そう。これらは、まだ子ども達」
ケンが宝玉で唯一名前の知っている、"霹靂神の宝玉“のことを話した。そのうえで、なぜ名前がないのか問うと
「"霹靂神の宝玉"は、造語ね。おそらく、そのヤイバって子が聞いたのは、誰かの造語。言い伝えとかで、名前を決めたのがそのまま使われているとか、色々考えられるわね」
「じゃあ、本当の名前は、何になるんですか?」
「残念ながら、宝玉に決まった名前はないの。あくまでも伝説の剱のおまけみたいというか、付属品だから。ところで、その宝玉も、剱もそれぞれ合成できるのは知ってる?」
「合成? ですか……?」
「詳しいことは、私も知らないんだけどね。宝石師の伝承には、伝説の剱に備わり宝玉は、ひとつに合成することでさらなるパワーをもたらす、と。それで、気になって剱の方も、情報屋に聞いて調べたら、伝説の剱も宝玉と同じで合成できることを知ったわけ。なんでも、甦生台というのを使うみたい。なぜ甦生なのかは謎だけれども」
甦生台は、白堊の神殿にあった。ならば、もう一度そこへ行かなければならないのだろうか。しかし、ジュエラーは
「甦生台は、地下の宝物庫にあるんだけど、使ったことないから使えるかなぁ……?」
「甦生台がここにもあるんですか?」
「えぇ。その昔、鍛冶屋が楽になるって言うから、うちのいとこが使っていたんだけど、この国じゃ剱を使う人はかなり減ったから。今は、板前やってるけど、たまに発注があって鍛冶屋もやってるから、声かけてみるね」
そう言って、固定電話のダイヤルをプッシュして電話する。相手が電話に出たようで、ジュエラーはしばらく話をしていた。ケンは黙って待つこと3分ほど。ジュエラーが、お礼を言って電話を切った。
「今晩、合成ができるみたい。時間がかかるけど、予定は大丈夫?」
「しばらくは、發達の国にとどまる予定です」
ケンは、バトルロイヤル参加のため、發達の国からの移動は中断している。それに、次の国は戦争中のため入国が出来ない。どっちにしろ、進めないのだ。順番的に、新鋭の国と古豪の国。勇者のブレイヴ一行が仲裁に向かった国である。發達の国の北に位置し、發達の国の南と東に面する国はない。南は海。東は壁で、行き止まりである。戻るにしても、また砂漠の国を通る必要があり、發達の国に留まるほかの選択肢がない。それに、宿泊は来賓特価で、安くなっている。
その晩、鍛冶屋としてジュエラーの店に来たのは、サングラスにスーツで、顔に傷のある男であった。マフィアかなんかだろうかと、一瞬思った。
「いらっしゃい。待ってたわよ。予定あったのに大丈夫?」
「伝説の剱を拝見できるとあれば、最優先だな。どうせ、今晩の予定は、知らねぇおっさんとの会合だ。そんなもん、ひとつやふたつ蹴っても、損害はない。お姉ちゃんとの会合なら、ちょっとは悩んだだろうけどな」
「会合だったのに、本当に大丈夫なんですか?」
ケンは、あまりに軽く言うけれど、その男の言葉に、申し訳なさそうな顔をした。
「会合とか言っても、要は酒の席だ。俺は、あまり酒は飲まないんだが、あいつら勝手に飲ませてくるから、先に飲ませて潰すのが大概だがな」
ジュエラーは、地下への鍵を引き出しから取り出し、男の話を切るように
「あんたの話はそれくらいにして、自己紹介したら?」
「そこに座ってる坊が、例の少年か。勇者やったかな?」
「それは、この前あったブレイヴ君でしょ? この子は、伝説の剱使い。ケン君」
「ふーん。それ、本名か?」
この男、結構グイグイと来る。ケンは、どんどん圧されて、慌てて汗をかく。
「先に、あんたの自己紹介をしないと、困ってるわよ」
「そうか? 俺は、フィクト・ガーチャー。本名やで」
「別に、僕は名前を偽ってる気はないんですが……」
ケンはフィクトから偽名扱いされて、そう答えた。しかし、ケン自身、自分のフルネームを知らない。カクゴウや母親の名字を知らない。カクゴウもまるで隠しているように、ファミリーネームを使わない。とは言え、ヤイバやハガネもそうだし、特に気にしてはいなかった。気にすべきことだったのかもしれないけれど。
地下に移動すると、白堊の神殿で見たものとほぼ同じような甦生台が1つと、小さな宝石用の甦生台があった。
「さて、伝説の剱は4本でいいのか?」
「"いいのか"って、フィクトさんは、伝説の剱が何本あるか知ってるんですか?」
フィクトの言い方にケンが突っ込んで聞いたが、フィクトは
「正確な数は分からないけれど、多分いっぱいあるんじゃないか? 合成できる代物だからな。俺の予想は、12本とかかな?」
と言った。すると、ジュエラーが、伝説の剱の力を引き立てる宝石を調査しながら
「意外と、リアルでありそうな値を言うのね」
「まぁ、20本とかあっても面白いけれど、探しきれないだろ。伝説って何だよ。って、話になるし」
フィクトの言うとおり、伝説のバーゲンセールである。そもそも、伝説の剱は、何故伝説と言われているのだろうか。ケンはそんな素朴な疑問が湧き、
「気になっていたんですけど、伝説の剱って、なんで伝説なんですか? 伝承があるわけでもないし……」
「伝説になり得る剱。少なくとも、一般的な剱と素材が違う。正直、何の素材を使っているか謎なんだ。誰が作り、なんのためにあるのか。でも、みんな口を揃えて伝説の剱という。現に、どっかの国で伝説の剱を使って、怪物を倒したって話もあるし」
フィクトの言う怪物とは、おそらく黒き鳥だろう。聞けば聞くほど、謎が深まりそうで、ケンはそれ以上の追求をやめた。それよりも、早くハクリョから、伝説の剱使いについて聞きたいと思う。
その夜、雪は降り続いた。新しい雪に、さらなる雪が積もる。
To be continued…
1周期2年で1歳換算。奇数年に夏、偶数年に冬の順番で季節がめぐるのですが、ややこしいのでほとんど使わないと思います。1周期=西暦で1年。だから、7年後の世界って、実は西暦で3年半後の世界であり、意外と短いです。あれ? じゃあ、25年前って……。そのうち本編で説明があるかと。そのうち。




