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黒雲の剱(旧ブログ版ベース)  作者: サッソウ
第3部 逢魔劔隊篇
40/91

総集篇Ⅲ

 日没してまもなく、ファクトリーシティが炎と黒煙に包まれる。その光景を目の当たりにして、ジンとニンは急いで向かう。()()()()のあと、ニンと一度ファクトリーシティに戻ることを決めた。ファクトリーシティは、なおも物価が上昇しており、人件費を削減する店側は新規雇用を行わない。その原因は、市長にある。国からの補助も市民からの税も、すべて市長たちが牛耳っている。もはや、独裁的である。ある程度お金に余裕がある者は、転居を選択したが、最近は転居に莫大な税金がかけられ、容易には逃げることができなくなった。

 ジンは市庁舎へ向かい、扉をノックして応接室に入る。部屋には、市長と秘書、シルトと若そうな男性がいた。おそらく、若そうな男性がヒューサーという人物だろうか。シルトの頬に氷を当てて、冷やしていた。状況がすぐには理解出来なかった。おそらく、氷はシルト達が用意した物ではないだろう。それに、応接室は椅子や机が綺麗なままだった。揉め事があれば、こんな綺麗なままのはずがない。つまり、これは……

 ニンとロンが路地裏へ駆けつけたとき、不思議なことに負傷者がいなかった。ただ、子ども達は怯えているようで、ニン達はみんなを元気づけるために声を掛け合う。

 半時間もしない間に、あることが告示された。消費などの一部税率の大幅な引き下げと、微量ではあるが店舗側への新規雇用補助である。この決定に、ファクトリーシティ内では、シルト側の勝利として歓喜に沸いた。


 あの騒動のとき、ミケロラはドーグ村で炊き出しを手伝っていた。ベンチェル村長は死去。ザンクは自害。そのほか、火事により何人かが命を失った。トニックの飼い主も、結局見つからなかったことから、逃げ遅れたことが明白であった。

 まずは、新しい村長を決めるとして、村長の妻であるキューアが新しい村長が決まるまでの短期間だけ臨時で任された。しかし、夫を失った悲しみは深く、村の人々と支え合って、復興を目指すようだ。時空間の神殿の崩落が始まる時、ミケロラはヤイバとニンを引き止めたのであった。クーリック村の民宿で手伝うエナも、ヤイバ達と同じく、騒動について知るのはかなり後であった。

 ケンとヤイバは、ルトピア中央病院から10分ほど離れた小川で、野宿をしていた。ケンは、自分の悩みと一連の騒動をヤイバに話す。「アキラは鐡砲(クロガネホウ)で応戦して、隙を作った。その隙をハガネが狙ったけれど、機械人形の反応は早かった。剱と射撃で避けきれず、ハガネが深い傷を負った。ポルラッツとローズリーは、クロバーとアキラを連れて、撤退した。2人に耳打ちしていたけれど、多分、この状況を続けるか、一緒に来るかの選択を迫られたんだと思う」ケンはそのほかにも、ヤイバに時空間の神殿での出来事を少しずつ話す。それにより、ヤイバは現状が分かってきた。

 クロバーという少女が黒き鳥と同一であることや、"刹那の歯車"というアイテムがあること。光明劔隊は2つの派閥に分隊し、それぞれが対立の構図になっていること。シルバーソードとフラッシュソードは、騒動の直後にカクゴウから受け取り、ケンの手元に戻っていること。ジンはどちらの組織にも継続しない判断をしたこと。ハガネの負傷の理由、そしてアキラとクロバーが連れ去られたこと。

 3年前、道場の建設を村長のルティスが提案し、建設したが、その完成前にルティスは死去した。そんな道場を、今回の騒動で失った。機械の人形との戦闘が、クーリック村でも起こり、いくつかの建物が崩壊した。道場もその1つである。セーミャの民宿は幸いにも被害から免れた。

 さらに、ケンはアキラの心情変化に気付いていたが、何も出来なかった自分を責める。

「僕は、アキラが段々と、復讐だけを目的にして、心が黒く汚染されていたのに気付いていた……。いつか、過ちを犯すのではないかとか、犠牲を出すのではないかとか……」

「考えすぎだろ? って言いたいところだけど、ケンが言うなら、そうなのかもしれないな。正直、俺は全然そんな変化には気付かなかったけど」

「アキラは、復讐するつもりだと思う」

 だが、復讐の相手は誰になる?

「だから、敢えてポルラッツについて行ったんだと思う」

「ケン、お前もしかして、ポルラッツがアキラに復讐相手を吹き込むとか考えてるんじゃないよな……?」

 ケンは否定も肯定もしなかった。

「一回休め。今は、明日のことを考えるだけにしろ。俺から言えることは、いろいろと混乱してるみたいだし、何も考えずに素直になれ。ケン、お前までもが変わると、それこそアキラの帰る場所がなくなるぞ」


 ルトピア中央病院には、黎明劔隊のメンバー以外に、負傷したハガネも入院している。ヤイバが持つ、"霹靂神(はたたがみ)の宝玉"やケンが持つ宝玉について、ジンが情報を話した。伝説の剱を強くする宝玉。それぞれの次の行き先などは、もう決まっているようだった。そして、言わなかったことがある。ジンは、ファクトリーシティの騒動について、何も言っていない。ヤイバは、ザンクが言い残した"ディブラの悲劇"について、一切言わなかった。情報を展開しないのは、今に始まったことではないが……

 屋上で、ケンはカクゴウから話を聞いた。当時の国王ザザアが、ナードからの調査報告を発表する前日に、事件が起こった。報告書と封解の書がローズリーに盗まれた。封解の書は、当時の国宝。さらに、国王がその後、自殺を図ろうとした。起因は定かではないが……。それを知った護衛隊のガネットは、身を挺して阻止し、『国王、大丈夫ですか……』と言う一言を残して、亡くなった。国王は、すぐに別の護衛隊隊員が発見して、無事に自殺行為から救出された。ガネットは、ポルラッツの祖父であり、ポルラッツは国王を恨んでいる。さらに、クーリック村襲撃事件は黒き鳥の暴走が主体ではあるが、その裏でポルラッツとローズリーがある物を強奪したという。もともと、数日前にローズリーが、ジェイルタウンにある監獄から脱獄を実行し、クーリック村付近に居たらしく、この事件に参加。ローズリーがポルラッツと何らかの方法で連絡を取り合っていたらしい。罪人がトップの組織が、なぜ発足できたのか。

 カクゴウが、"ケン"ではない、別の名前で呼んだ気がした。でも、ケンはそれに反応したみたいで、カクゴウの方を向いて目が合う。そのとき、屋上に今日一番の風が吹いた。


 ボロック国王からの依頼を引き受けたケンは、まずリャク村へ向かう。封解の書について聞いたが、ダルク長老は 「持っておきなさい。神のお告げ故、返却されても困る」と言われた。神のお告げは、十中八九、ハクリョさんだと思う。

 結局、封解の書はケンが持ったまま、旅立ちの日が来た。出発はリャク村から。見送りに来たのは、ヤイバだけだった。

「ケン、これを持って行け。餞別だ」

 試作品の第2号。オーガックさんが作った鎧である。ケンは、新たな鎧を着て、砂漠の国、發達(はったつ)の国、新鋭の国、古豪の国、山麓の国、陽光の国、離亰の国、杳然(ようぜん)の国を目指す。

 神託の国から東に進み、山を越えると、砂漠の国に入る。国名の通り、一面砂漠である。歩くこと数日。途中、砂漠に住む怪物と遭遇したが、事なきを得た。砂漠のオアシスに佇む、宮殿。 国王から、袋を1つ渡され、宮殿で一晩過ごし、朝早く、次の發達の国を目指す。

 發達の国は、所謂、先進国である。電車や汽車、新幹線、バス、タクシー、フェリー、飛行機……。ケンが蒸気機関車に乗ると、機械の人形と戦闘になる。ケンは、シルバーソードとウォーターソードを宝玉有りで挑み、辛くも勝利を収めた。列車の前の方に移動すると、ポルラッツとアキラがボックス席に座っていた。ポルラッツもアキラも、ゼルであり、本人では無い。


 飛行船にて、ポルラッツはアキラに、前国王ザザアにより操られたことがある人物のリストを見せた。そこには、アキラの父親、シャル・スーリアの名が記載されており、シャルは護衛隊所属であった。ポルラッツは扃鎖軍と護衛隊の関係を怪しむ。さらに、生存する確率があること、ポルラッツがアキラに敵討ちができると言い、逢魔劔隊への入隊を持ちかける。

 ポルラッツは、ハガネやヤイバ、ジンに会い、過去の話などで、バトルロイヤルへの参加を交渉した。ハガネは、クーリック村出身であり、光明劔隊への入隊前に事故に遭った。その記憶が、ハガネを苦しめていたため、カクゴウがハガネの記憶を消した。ただ、悪夢の理由は分からなかった。

 ヤイバには、両親の変死について。ある日、ギリシエ村に危機が訪れた。村の護衛隊長だった、ヤイバの父親、キルティが対処に当たった。危機というのは、盗賊の襲来だ。1度目は、追い払うことに成功したが、2度目は止められなかった。2度目の襲撃前日に、村の人々が複数亡くなった。ザザアは対抗する人物に、何らかの方法で毒薬を飲ませた。加勢する人の家族が、毒薬で死んだ事も報告されていた。一般的には、ギリシエ村の集団食中毒として伝えられているが、事実は違った。

 ジンには、両親について。ジンとニンの実の父親が、ファクトリーシティの市長、イスト・バルヴァバードであること。母親の生存は確認できなかった。ファクトリーシティには裏がある。

 ポルラッツは、復讐相手のザザアとローズリーを斃すことも目的に動く。「逢魔劔隊なら、悪評が広がれば広がるほど、トップのローズリーへ批判の目が行く。責任は、少なくとも、ローズリーと俺様だけで十分だ。責任は、少なくとも、ローズリーと俺様だけで十分だ。光明劔隊のときに、ザザアへ仕掛ければ、最悪の場合、カクゴウやヤミナ達の立場も危うくなる」と、ポルラッツは話した。完全な悪だと思っていたが、カクゴウやヤミナへの配慮だったのだろうか。

 ポルラッツは、途中の駅で下車する際、ケンに「条件は守ってくれるだろ? 場所と日時は、この封筒の中に書いてある。それと、これはついでだが、この發達の国には、宝石師がいる。ゴッドソードは、その宝石師、ジュエラー・デンシーのところに預けてある。それと、もしかしたら、世界が認めるという勇者とやらに会えるかもな。この国に滞在しているらしい」そう言い残して、去っていた。

 ケンは、發達の国の国王に会い、また袋を貰った。中身は、まだ分からないが……。確認したいけれど、流石に無断で見ることは出来ない。

 そして、バトルロイヤルの開催が始まり、ゼルの精度が上がる。ポルラッツの復讐が、着実に前に進んでいるようだ……



<第37章までに登場したキャラなどの紹介>

 25章までに登場したキャラについては、追加情報があれば記載。


・ケン

 元々、左利きだったが、マグネ師匠に言われて、右持ち。神のお告げ(たぶん、ハクリョ)から、伝説の剱使いと言われている(ただし、本人には一言も言っていない)。カクゴウ曰く、ケンには別の名前がある。


・アキラ・スーリア

 現在、逢魔劔隊に軟禁状態。ポルラッツから、敵討ちと逢魔劔隊への一時入隊の提案をされるが、未回答。一人称が、"僕"から"俺"へ変化。


・ヤイバ

 ポルラッツから、両親の変死はザザアに仕組まれたものだと言われた。


・ハガネ

 機械人形の弾丸で負傷し、ルトピア中央病院に入院したが、無事に退院。ちなみに、入院費や医療費については、どうなったのだろうか。クーリック村出身。光明劔隊への入隊前に事故に遭った。その記憶が、ハガネを苦しめていたため、カクゴウがハガネの記憶を消した。ただ、悪夢の理由は依然として不明。


・ジン・バルヴァバード

 ポルラッツから、ファクトリーシティの市長が実の父親であると告げられた。薄々気付いていたのかもしれない。確証が無い、臆測として。


・サリーナ・ミケロラ

 ドーグ村で炊き出しを手伝う。基本的に、パフェを作る彼女だが、一般的な料理もある程度は作れる。その昔……といっても、何年か前だろうが、キッカケがあったらしい。戦闘の経験は無い。(つるぎ)よりも、料理のナイフや包丁を扱う。


・エナ・キュメル

 医療関係に興味があり、黎明劔隊に入隊。ルトピア中央病院では、臨時の看護師としてお手伝いも。


・クロバー・ホワトレス

 アキラと同じく、逢魔劔隊に軟禁状態。


・ナード

 逢魔劔隊の所属。神殿について調査し、当時のザザア国王へ報告したことがある。現在は、ゼルの開発を行っている。


・ローズリー・ヴァージン

 逢魔劔隊のトップ。過去に、当時国宝だった封解の書を強奪。さらに、たった1年で、ブラックバードの封印を解いた。ジェイルタウンにある監獄から脱獄。その後、光明劔隊の管理官となる。


・ポルラッツ・ディナイト

 逢魔劔隊所属。ザザアとローズリーへ復讐を目論み、ゼルの開発を進める。光明劔隊を解散させたのは、カクゴウやヤミナの立場が危うくなるという理由だった。


・ヤミナ

 黎明劔隊所属。ファクトリーシティ出身。ジンやニン、ロンたちと同じような境地にあり、カクゴウが仲間に引き入れた。


・ヒューサー・アーフェルカ

 元市議会議員。秘密裡に市長の裏を探っていたところ、他の市議会議員にバレて、落魄れたらしい。


・シルト・シルクォーフ

 リゲイン・ザ・ロストのリーダー。他の市議会議員から土地や名誉、財まで奪われて、全てを失ったヒューサーを見て、手を差し伸べた。


・ロン・ガヤラ

 ニンより、1歳年上の少年。ニンとは仲が良い。


・イスト・バルヴァバード

 ファクトリーシティの市長。


・イスト市長の秘書

 女性で、名前は未登場。


・キューア・オルディン

 新しい村長が決まるまでの短期間だけ、臨時で村長代理に。


・トニック

 飼い主のピアニストは、結局見つからなかったことから、飼い主は火災から逃げ遅れたことが考えられる。


・ルティス・ジェージス

 クーリック村の元村長。建物などの設計図を趣味とし、クーリック村の建築物のほとんどは、村長の設計でできていた。道場も同じく、ルティスの設計だが、完成の前日に体調が悪化して亡くなった。


・マスシア・ロウェイ

 道場建設中に、休憩時の差し入れは、いつも決まって、村人のマスシアが振る舞っていた。現在、リャク村に住んでいるらしい。


・タクード・タルーブル

 ルトピア中央病院の医師の一人。ハガネや黎明劔隊の担当医師。


・ザザア

 神託の国、前国王。神殿について報告前日に、自殺を図ろうとした。


・ガネット・ディナイト

 ポルラッツの祖父。護衛隊に所属していた。ザザアの自殺を防ぎ、死亡した。


・ボロック

 神託の国、現国王。ケンにウォーターソードを託す。


・シャル・スーリア

 アキラの父親。護衛隊所属。ザザアの被害者であり、安否不明。


・キルティ

 ヤイバの父親。当時、ギリシエ村の護衛隊長だった。



・リゲイン・ザ・ロスト

 裕福な者からは、"貧窮族"と呼ばれるが、リーダーのシルトはそう呼んでいる。"失ったものを取り戻す"という意味。


・宝玉

 伝説の剱に嵌め込むと、かなりの力を発揮する。現状、コントロールができないため、扱いに困惑中。フェニックスソード以外は、対となる宝玉を所持。


・神のお告げ

 ケンの想像だと、ハクリョが言っているのだと思われるが、真相は不明。


・砂漠の国

 神託の国からみて、東に面する国。国名の通り、一面砂漠。オアシスに宮殿がある。


・發達の国

 所謂、先進国。電車や汽車、新幹線、バス、タクシー、フェリー、飛行機などがある。交通機関が整っており、移動に乗り物を使う。


・壁

 周辺諸国は、全て壁の中。壁の存在は、この世界の常識。だれも疑問視しないほどの……。


・ゼル

 逢魔劔隊が開発中の人形。他人に似せることは出来るが、自由自在に変えられるわけではない。


・護衛隊

 神託の国で、宮殿周辺を警備する。国王の護衛が目的。各村にも、護衛隊のようなものはあるが、護衛隊というと専ら国の護衛隊を指す。


・扃鎖軍

 扃鎖の国の軍隊。扃鎖の国には、ザザアがいるらしい。さらに、ポルラッツが、扃鎖軍と護衛隊に何らかの関係があると疑っている。


・伝説の剱

 神秘の力を持つ剱。存在する本数や、何故伝説と謳われているのかは、不明。

 現在分かっている保持者は以下の通り。

  ・ケン:シルバーソード、フラッシュソード、ウォーターソード

  ・ヤイバ:ライトニングソード

  ・ニン:フェニックスソード(宝玉は模造品)

  ・ローズリー:スィールソード


 ゴッドソードは、ポルラッツが宝石店に預けている。



ケンとヤイバが参加している『路地裏の圏外 ~龍淵島の財宝~』が、連載中です。

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