第36章 ゼル
ポルラッツは、途中の駅で下車する際、ケンに
「条件は守ってくれるだろ? 場所と日時は、この封筒の中に書いてある。それと、これはついでだが、この發達の国には、宝石師がいる。ゴッドソードは、その宝石師、ジュエラー・デンシーのところに預けてある。それと、もしかしたら、世界が認めるという勇者とやらに会えるかもな。この国に滞在しているらしい」
そう言い残して、去っていた。終始、ポルラッツのペースだった。
話は巻き戻り、ケンが砂漠の国で国王と会っていた頃、クーリック村とドーグ村は、ある話で持ちきりとなった。それは、村名の終了である。今回の被害により、村民の少ないクーリック村と、ドーグ村の被害状況から見て、村の条件に満たなくなる。そもそも、村名を続投するには、村長の存在、村の長老、条例の制定、人口、面積、人口密度、資金など。村の名前がなくなると、基本的には他の街の管理下となり、クーリック領とドーグ領は、資金力のある大きな街に管理される。当然ながら、村の者達は反対するだろうし、過去あまりいい話を聞かない。
そこで、クーリック村およびドーグ村の中間点に、黎明劔隊の本部を設立した。この神託の国では、かなり高度なコンピュータ機器を備え、本部の外見は白色を基調に、国の宮殿並みのような感じだ。そして、国王のもとへ、カクゴウとヤミナは、黎明劔隊本部の設立と共に、クーリック村とドーグ村の存続を伝えた。
結果、村名が無くなる危機は回避され、黎明劔隊の最初の任務は、ドーグ村とクーリック村の復興作業、そして時空間の神殿の修復作業である。しかし、崩落した時空間の神殿の修復など可能なのだろうか。
ケンは、發達の国の国王に会い、また袋を貰った。中身は、まだ分からないが……。確認したいけれど、流石に無断で見ることは出来ない。夕方まで、まだ時間があるため、次の目的として、宝石師を探す。
ナードは、「ポルラッツ様、いかがでしょうか?」と、研究室で聞いた。
ポルラッツは、頭にヘルメット状の思考回路分析機を被ったまま、椅子に座っている。さらに、ゴーグルを付けており、早い話がVRのようなものだ。これ以上、適切な説明などあるまい。
「いくつか欠点はあるが……」
そう言った矢先、映像が乱れる。發達の国にいたポルラッツは、他に誰もいない路地裏で液状化した。すると、すぐに一緒にいたアキラも同じ路地裏で液状化。
「今の技術では、12時間が限界です。自動で動く方も、ほぼ同じ時間で、液状化します」
どうやら、一緒にいたアキラは自動で動いていたようだ。
「全く、10人程度の開発チームで、おそろしい出来映えだな。バトルロイヤルには、12時間もあれば十分だ。光明劔隊のときに、ナードが医療班にいたのは、もったいなかったな」
「ありがとうございます。これも、研究費があってこそ。本番通りに、特定の人物に顔や体格を似せないのであれば、ゼルをかなりの数、投入できるかと思われます」
ナードとポルラッツの会話から察するに、ゼルと呼ばれる人形は、機械の人形とは異なるものだ。それに、ケンの交渉に来たポルラッツは本人では無かった。遠隔操作する本人との会話だったのだ。いつもと違う格好をしていたのは、なるべく体を隠すためである。なお、液状化した後の回収は、回収班が速やかに行う。流石に、服や体内の制御機械等は、回収しないと問題になるからだろう。ちなみに、ザザアのもとに送り込んだゼルは、自爆できるだけの爆薬を仕込んでおり、もし12時間経過するような事態になった場合、証拠を破棄するために自爆させる予定らしい。ただ、自爆はあくまでも最終手段である。
「で、回線環境は問題ないのか?」
「それについてなんですが……」
ナードから、事情を聞いたポルラッツは、セキュリティ室へ移動する。セキュリティ室では、すでにアキラがパソコンを操作していた。キーボードの文字入力以外なら、ある程度操作できるみたいだ。
ポルラッツは、あまりにもアキラが画面を注視しているため、
「そんなに見つめると、目が悪くなるぞ。で、回線から拾った情報って言うのは?」
ポルラッツは、適当なイスを移動させて、画面が見える位置に座る。
画面には、1つの画像が表示されている。一見すると、どこかの新聞か雑誌の切り抜きのようだが、モノクロの写真と文字が書かれており、報告書の切り抜きのようだ。
ポルラッツは、読めそうな部分を一通り見ると
「……アキラ、この情報を信じるも信じないも、貴様の自由だ。ザザアは、裏で糸を引いていることはあるが、信憑性が分からない」
内容はどうやら、ザザアの活動を告発するものだ。書かれていた内容は、多くの人々が幽閉されており、助けを求めているという。写真は、おそらくその幽閉されている人々だろうか。
「ポルラッツ、これ護衛隊の人たちだ」
「知っているのか?」
「たった一度だけ、父さんの部屋に同じような服があった」
それを聞くと、ポルラッツはイスの背もたれに凭れ、天井を仰ぐ。「アキラ、もう一回聞くぞ。逢魔劔隊に所属して、活動する気はないか? 光明劔隊のときみたいに、短期間でも構わん。任務は、扃鎖軍への潜入。無論、単独では無い。少人数で、チームを組む」
扃鎖の国は、ザザアの本拠地である。その国の軍隊への潜入。護衛隊との関係を調査し、証拠を見つける。あわよくば、幽閉されている護衛隊のメンバーの救出も、視野に入るかどうか。
「まだ時間はある。バトルロイヤルで、ゼルの精度を上げる必要があるからな。返事は、準備が整うまで待ってやる」
そう言って、ポルラッツはセキュリティ室を後にした。
To be continued…
早い話がVRのようなものだ。
この1文が、8年前以上に書いた時より、説明が凄く楽になった。
当時はVRなんて、無かったからなぁ




