第35章 情報と対価
蒸気機関車が速度を上げる。ボックス席にアキラが座っているが、
「残念ながら、これはアキラではない」
ケンは声のした方を見る。アキラの向かい側には、ポルラッツが座っていた。ハンチング帽を被って、トレンチコートを着ており、一瞬、誰だか分からなかった。
「ひとまず、座れ。他の乗客に迷惑になる」
「さっきの人形といい、なんのつもりだ?」
「人形……? おそらく、それは別だな。ということは、あまり時間が無いな」
ポルラッツは、ケンが座るのを待ったが、全く座らないので話を進める。
「これは、アキラのコピー人形だ。アキラには、別件で話をした」
時間を遡る。深夜。ルトピア中央病院。非常灯だけの暗い廊下を、飲み物を買いに、ハガネが歩く。一緒に連れ歩く点滴は、ハガネにはうざったいようで、段差に引っかかる度に舌打ちしている。給湯室には、自販機の他に、自由に飲める給茶機と給水器がある。
ハガネは、給茶機の隣にある紙コップを取り出し、ボタンでお茶を入れる。ハガネは飲む前に、自分の背後へ
「お茶ぐらい、ゆっくり飲ませろよ」
「あまり長居するつもりは無いのでね」
と、聞いたことのある声。言うまでも無く、ポルラッツである。
ハガネは、お茶を飲みながら振り向くと、そこには2人いた。ポルラッツと、
「ヤイバ?」
「残念ながら、ヤイバではない。コピー人形に過ぎない」
「何のつもりだ?」
「貴様に情報を与える。ただ、条件がある」
「理解できないな」
「ハガネ、貴様はクーリック村の出身だ。気になるだろ? 自身の昔の話。それと、詳細を知りたいのなら、条件は」
ポルラッツが条件を一通り話すと、
「その条件なら、俺のためにもなるが……」
ハガネ自身の昔の話。悪夢が解明できるのか。結局、ルトピア中央病院では、まだ聞けてない。
さらに、遡る。リャク村で、ケンを見送ったヤイバは、ポルラッツと出会った。
「貴様に、有益な情報を持ってきた。条件に従えば、情報を開示する。貴様の、両親の変死についてだ」
「なんで、それを……」
またまた遡り、ヤイバがケンを見送りにリャク村へ向かう頃。ジンの前に、姿を現したポルラッツ。
「貴様に、情報を持ってきた。両親についてだ」
「両親なんて、もうどうでもいい……」
「貴様の父親が、ファクトリーシティの市長であるとしてもか?」
すると、ジンは黙り込んだ。
ポルラッツは、ジン、ヤイバ、ハガネ、アキラ、ケンの順番に交渉を持ちかけた。いずれも、両親や自身の過去といった、各々が知りたいであろう情報を所持して。
ポルラッツは、動揺しているジンが条件に応じたため、話を続ける。
「ファクトリーシティの市長、イスト・バルヴァバード。ジンとニンの実の父親だ。残念だが、母親の生存は確認できなかった。貴様は、父親に捨てられたとか感じているのかもしれないが、ファクトリーシティには裏がある。全てをここで話しても良いが、どうする? 自分の目で確かめるか?」
ジンは黙って頷いた。薄々気付いていたのだろうか。確証が無い、臆測として。
同様にポルラッツは、条件に応じたヤイバに話す。
「ある日、ギリシエ村に危機が訪れた。村の護衛隊長だった貴様の父親、キルティが対処に当たった。危機というのは、盗賊の襲来だ。1度目は、追い払うことに成功したが、2度目は止められなかった。2度目の襲撃前日に、村の人々が複数亡くなった。前国王のザザアが仕組んだ罠があった」
「ザザア……」
「ザザアは対抗する人物に、何らかの方法で毒薬を飲ませた。加勢する人の家族が、毒薬で死んだ事も報告されていた。一般的には、ギリシエ村の集団食中毒として伝えられているが、事実は違う」
さらにポルラッツは、応じたハガネにも話す。
「貴様は、クーリック村で産まれたが、すぐにギリシエ村に引っ越した。理由は簡単に言うと、喧嘩だ。祖父母と村長が喧嘩した。まぁ、それはどうでもいい……。貴様は、光明劔隊に入隊する前に、事故に遭った。それにより、記憶が飛んでいるはずだ。そのため、当時、貴様は日々悩み続けた。そこで、カクゴウは記憶喪失した記憶自体を喪失させる事に。初めは反対したが、貴様はカクゴウに賭けた。そして、今に至る」
「いや……違う」
ハガネは、無意識でそう言った。
「違う? 気になるなら、カクゴウにでも確認すれば良い。ただ、求めている回答が出てくるかは、分からんがな」
ハガネは、自分自身の謎が増えた。記憶を消したなら、なぜ悪夢は繰り返し襲うのか。
ポルラッツは、ケンに改めて話す。
「条件に応じてもらえれば、ゴッドソードを貴様にくれてやる」
言いたいことはあるけれど、ケンはまず
「条件って……?」
「バトルロイヤルだ。貴様の仲間と戦ってもらう。もちろん、人形と戦う。生身の人間は、誰一人としていない。研究する上で、様々な実践形式のデータが必要になる。それと同時に、貴様も実践で強くなれるだろうな。どうだ? どちらも利益をもたらす」
「ポルラッツ……、何故……」
ポルラッツの印象が変わった。カクゴウ達はまだしも、ポルラッツ達とは、完全に対立関係だと思っていたからだ。
「……変わったんだ? とでも言いたいのか? 貴様から、どう思われていたのかは知らないが、俺様を斃したいのなら、いつでも相手してやる」
道場を壊され、アキラとクロバーを連れ去った逢魔劔隊。敵対関係のはず。でも、ポルラッツからは、そんな風に感じない。逢魔劔隊の別の隊員なら、違っただろうか。
「これから、どうする気だ?」
「これからか……。俺様は、逢魔劔隊でザザアを斃す。ザザアは、俺様の復讐相手だ。既に、ゼルを送り込んだ。かつて、ここ發達の国で学んだが、やつらの科学力は桁外れだ。どこまで対抗できるか……。カクゴウには、復讐は戦いを生むだけだと、反対されてきたが、戦わなければ、いずれ脅威となる。ヤツだけは、許せない」
ポルラッツの言葉が段々強くなった。ゼルというのが気になったが、人名だろうか。
「あの野郎は」
ポルラッツの目的は、ザザアへの復讐。ケンは悩んだ結果、思ったことをそのまま言った。
「ポルラッツは……、敵じゃなく、味方なの?」
「少なくとも、貴様らを敵とは思っていない。ニュアンスは違うが、聞くことは皆、同じだな。敵と捉えているのは、2人だ」
2人。1人はザザアだが、
「もう一人は……?」
ケンは、カクゴウだと予想していた。光明劔隊を分裂させ、対立させているこの状況。しかし、回答は予想していなかった人物だった。
「もう一人は、ローズリーだ。そもそも、ヤツが事を起こさなければ、あんなことは起きなかったかもしれない。ヤツが光明劔隊のトップのままだと、色々と不都合がある。だから、逢魔劔隊を結成した。逢魔劔隊なら、悪評が広がれば広がるほど、トップのローズリーへ批判の目が行く。責任は、少なくとも、ローズリーと俺様だけで十分だ。光明劔隊のときに、ザザアへ仕掛ければ、最悪の場合、カクゴウやヤミナ達の立場も危うくなる」
ポルラッツの話を聞くと、ますます分からなくなった。第一印象は、完全な悪だった。でも、それはカクゴウやヤミナへの配慮だったのだろうか。
ポルラッツは、ケンの表情を見て
「貴様、情に脆いな。そんなんだと、いつか騙されるぞ」
To be continued…
ジンとヤイバの交渉時だけ、ゼルを一緒に連れていないみたいです。




