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黒雲の剱(旧ブログ版ベース)  作者: サッソウ
第3部 逢魔劔隊篇
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第34章 空の天井

 少し時間を遡る。ナードは新たな研究を行っているようで、忙しそうにしていた。ポルラッツは、ナードが部屋からどこかへ向かったのを確認すると、黙って研究室へ入る。部屋には、機械の人形の試作版が佇み、そこらじゅうに紙の資料が散らばっている。

 部屋の奥へ進むと、堅そうなベッドが3つあり、そのひとつにアキラが寝ている。ポルラッツは

「すり替えて、催眠は効いていないはずだが、逃げないのか?」

 そう聞くと、アキラは瞼を閉じたまま

「どうやって、空から下りるんだよ」

「なるほど、窓の外は見たのか」

 この施設は空を飛んでいる。施設と言うより、飛行船と言えば良いだろうか。

「これ以上高く飛ばないのか? 下から見えるぞ」

 アキラが窓の外を見た時、地上の街が確認できた。つまり、地上からこの飛行船は見えるはずだ。しかし、ポルラッツは

「これが限界だ。飛行体が飛べる高さには限界がある」

「でも、出力を上げれば」

「機体の問題ではない」

「じゃあ、どうして?」

「高度2万フィート以上の飛行は禁じられている。もはや暗黙の了解としてだが」

「2万フィート……?」

 1フィートはおよそ30センチ。つまり、2万フィートはおよそ6キロである。ちなみに参考として、飛行機が飛ぶのは1万メートル。つまり、3万3千フィートである。

「昔、気球に乗って調査した奴がいる。そいつは、2万フィートを超えた。すると、気球が燃えた」

「それって……」

「そいつは、助かった。おそらく、体験者として死ななかったのかもな」

 ポルラッツの言い方はまるで、

「誰かに攻撃されたってことか?」

「そういうことだ。2万フィートの壁の向こうからの攻撃。だから、国々が所有する全ての建造物や飛行物は、すべて高度が規制されている」

 その規制が、空を覆う天井となる。ただ、高さ約6キロの壁なんて、非現実的かつ非合理的である。それが人工的な物であればあるほど……

「世界の端に壁があるのは、何ら不思議では無いほど、常識として罷り通っている」

 ポルラッツの言うとおり、この世界には巨大な壁がある。それが、この世界の常識。だれも疑問視しないほどの……

「で、ナードの実験には協力しているのか? ヤツは、研究熱心な人だ」

「協力も何も……、不貞寝してるだけだし……」

「ならば、少し話がある。だが、今の貴様に話すべきか否か……。生半可な気持ちで聞くつもりなら、話さない」

 ポルラッツの気になる言い方に、アキラは

「何の情報だ?」

 食いついた。罠の可能性は、考えなかった。壁の話もおそらく事実だろうし、それに今は何処にも行けない。

「ついてこい」

 ポルラッツに言われて、ついて行くと、セキュリティ室だ。(拉致した人間に見せるか、普通……)そう思いながら、部屋に入る。

 中は、監視カメラの映像が見える、映像室とサーバルームがあった。ポルラッツは、サーバルームにあるパソコンを操作して、ある資料を表示して、

「この資料に出てきている名前に見覚えがあるか?」

 アキラに画面を見せると、その顔色が変わった。

「なんで、この一覧に父さんの名前が?」

「前国王、ザザアにより操られたことがある人物のリストだ。貴様の父親である、シャル・スーリアもその被害者の一人だろう。ただ、詳細はまだ分からない。父親の職業は? ……何をしていた人だ?」

「昔、護衛隊だったって聞いた。ただ、護衛隊を辞めてからは、何をやってたかは知らない」

「護衛隊を辞めたのか?」

「そうは言ってたんだけど……、多分、家族にも言えない任務で隠してたんだと思う」

「なるほど……、そういうことか。ザザアの残党は、まだ生きている可能性があるな……。しかし、まさか護衛隊と扃鎖軍(けいさぐん)が関係しているのか……」

「ザザアの残党?」

「……アキラ、少しばかり、逢魔劔隊として動いてくれないか?」

 ポルラッツの提案に、アキラは目を丸くした。拉致しておいて、仲間にならないかって、まさかのスカウト。普通、断る。アキラも断固として拒否するつもりだ。だが、ポルラッツは

「可能性として、貴様の父親が生きているか、家族が人質になっていることも考えられる。クーリック村襲撃事件の関係者として、こんなことが言える立場で無いのは、分かっている。ただ、敵討ちができるかもしれないぞ」

「敵討ち……」

 自分の悔しさや憎しみを、何処を向けて放てば良いのか、ここ最近分からなかった。矛先にいたのは、嘘ばかりだった。行く当ての無かった、黒い気持ちが、ザザアという新たな矛先を見つけた。

「当初、俺様を敵討ちで殺す予定だったんだろ? 戦いなら、いつでも相手してやる」

「卑怯だな……。結局、俺の相手は次々と変わってる。その都度、矛先が変わる。有益な情報を持つお前を、殺せるわけ無いだろ……」

 アキラは承諾せざるを得なかった。

 ポルラッツは画面に表示された資料を閉じ、

「ついでに、面白いものを見せてやろう」

 そう言って、飛行船内のとあるカメラ映像を見せる。そこに映っているのは、

「ハガネ……?」

「残念ながら、あれはハガネではない。コピー人形とでも言おうか」

 画面に映るハガネは、偽物……?


To be continued…

6キロの壁が複数の国を囲むように存在するってことは

人工物ではなく、もともと火口だった地形が

云々て 感じかな(雑)

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