第32章 国王の依頼
ケンは、一人で宮殿にいた。カクゴウからの伝言というか、頼み事は宮殿で国王様に会うこと。宮殿に来るのは初めてだし、国王様に会うのも初めてである。そもそも、国王様の顔も知らない。
現在の国王は、ボロック国王である。気をつけたいのは山々だが、言葉遣いだとか、振る舞い方とか、ケンは全く知らない。そういうのを教わる機会がない。
案内人に従い、宮殿の中を歩く。案内人はわざと遠回りしているようで、何度も曲がった。しばらくして、大きな扉の前に。どう考えても、この先に国王様がいらっしゃるのだろう。扉は、案内人では無く、甲冑を身に纏った護衛隊が2人で開く。
扉に先には、階段と玉座、左右に5人ずつ護衛隊がいる。間違えてはいけない。変なことを言ってはいけない。ケンは、緊張したまま、前へと進み国王様のお顔を拝見し、すぐに跪く。このあと何て言えば良い。頭の中が真っ白だ。すると、ボロック国王は
「顔を見せてもらえるかな?」
ケンは、跪いたまま国王様の方を見る。が、目が泳いでいる。
「緊張しているようじゃな。さて、伝説の剱使いよ」
「!?」
ケンは言葉にならない声を出した気がした。ただ、聞こえてないみたいだ。
「そなたに」
失礼極まりないとは思いながら、
「国王様、恐れながら申し上げます」
「何なりと申せ」
「伝説の剱使いというのは……」
「そなたのことであろう」
ボロック国王からそう言われ、ケンは首を横に振った。いつから自分は伝説になったのだ?
「神のお告げがそう言っていたのだが、間違いであろうか?」
「神のお告げと言いますと、もしや……」
ケンは、その神のお告げに心当たりがある。それは……
「すでに、シルバーソードを持っておるということは、知っておるのじゃろ?」
「確かに、お目にかかっておりますが……」
「ならば、話が早い。では、伝説の剱使いになりし、そなたにウォーターソードを授けよう」
伝説の剱の1つ、ウォーターソードが授与される。ケンは、この場では伝説の剱使いについて聞かずに、早く終えてハクリョに聞きたいと思っていた。なぜ、伝説の剱使いなんて大役を自分が課せられたのか。
「さて、最後にお願いしたいことがある。実は、神託の国と同盟関係にある国々から、あるものを受け取って欲しい。今から渡す紹介状により、直接会えるであろう」
「失礼ながら、ある物というのは……」
「すまないが、ここでは話せぬ。行けば分かるであろう」
「承知いたしました」
と、ケンは承諾した。国王様からの依頼である。断れるはずがあろうか。ただ、聞けばその国の数が多い。砂漠の国、發達の国、新鋭の国、古豪の国、山麓の国、陽光の国、離亰の国、杳然の国。
宮殿を出ると、ケンはひとつ聞き忘れたことが……
「あ、封解の書について聞くの、忘れてた……」
*
ケンは、国外へ向かう前にリャク村を訪れた。封解の書について、ダルク長老に確認するためだ。雷霆銃族の襲撃以降、リャク村がどうなったのか確認も含めて。
ケンの心配はすぐに安堵に変わった。ダルク長老は無事だし、リャク村も悪い変化が見られない。そもそも、7年後の世界で、直接会えなかったが、ダルク長老が健在だった時点で、無事だと分かってはいたけれど。
「ご無事だったんですね」
「いざというときの、避難用の洞穴がいくつもあるからな。心配はいらんよ」
ダルク長老は、笑ってそう言った。さすが、趣味で洞窟を作るだけはある。なんだか、そのうち何かを掘り当てそうな気がする。
さて、ケンは本題に
「封解の書のことについてなんですが……」
「持っておきなさい。神のお告げ故、返却されても困る」
また出た。神のお告げ。もう直接、ハクリョさんから聞いた方が早そうだ。ただ、天地の神殿を上りたくはない……。
結局、封解の書はケンが持ったまま、旅立ちの日が来た。出発はリャク村から。見送りに来たのは、ヤイバだけだった。
「ケン、これを持って行け。餞別だ」
ヤイバは大きな布袋をケンに渡す。
「これは……?」
「オーガックさん、頑固すぎて時間がかかったんだけど、新しい鎧だ。正直、何が変わったのか聞いても、専門用語ばかりで分からなかったんだけど、これだけは言える。サイズが大きくなった。成長期だからな」
自信満々のヤイバを見て、ケンは思わず吹き出した。ヤイバも言った本人なのに我慢できずに笑う。
「試作品の第2号らしい。銃弾に、気持ち僅かながら、衝撃を和らげるらしい。痛いのは痛いらしいけどな。ハガネが負傷したって聞いて、対応したらしいけど、まだまだだとさ」
「それでも、すごくありがたいよ。オーガックさんに、今度会ったときはお礼を言わなきゃね」
「そうだな。無償で手に入るとか、普通はあり得ないからな。あと、感想を言わなきゃな。試作品だから」
ヤイバの視線は、渡した布袋から、ケンが身につけている鞘を向いていた。ケンは体を少しひねって、3つの鞘をヤイバに見せ、
「また1本もらった」
「伝説の剱を3本も持ってると、邪魔じゃないか?」
「それを、3刀流のヤイバが言うの?」
「俺は正直、邪魔だと思う。でも、必要だから仕方ないだろ。で、元々持っていた剱は?」
ヤイバが言う元々持っていた剱とは、ケンが錆びれさせた、自前の剱のことである。出番があまりないので、ほとんど忘れ去られているが……。
「あれは、クーリック村に置いてきたよ。道場に置こうと思ったけど、もう無いから……、セーミャに預けてきた」
クーリック村の民宿に置いてきたそうだ。
「宝玉は?」
「3つともあるけど、使うかどうか……」
ケンは、宝玉の使用を躊躇っている。とはいえ、ヤイバも容易には使えない物だと分かっており、余程の緊急時だけだろう。
「じゃあ、今度会う時は、宝玉を扱えるようにならないとな」
「それ、どのくらい会わないつもり?」
ケンが言うように、数ヶ月でもマスターできない代物だ。
「1、2年とか?」
「アキラを助けに行かないの?」
「アキラなら、大丈夫だろ。むしろ、心配する要素があまり無いな」
と、ヤイバ。アキラが聞いたら何て言うだろうか。信頼しているからこそなのだろうか。ただ、受け取り方によっては、いろいろとあるけれど……。
ヤイバは、別れの言葉として、
「ケン、伝説の剱使いとして頑張れよ」
「あぁ……」
ケンの新しい旅が始まる。が、
「何で、それを……伝説の剱使いって?」
「神のお告げだな」
「言ってる意味が分からない」
To be continued…
神のお告げなら仕方がない。
ハクリョさんて、一体何者なんでしょう。
でも、神のお告げが全て同一人物では無い可能性も少なからず……




