第31章 病院の屋上で
エナが入隊を決めたのは意外だった。風山でのことを考えると、憎む相手だと思っていたからだ。でも、エナによると「今の黎明なら、自分の近道になるから。光明のままなら、確かにそんなことも考えていたかもね」と言われた。
青空で清々しい病院の屋上。患者や看護師の姿もある。屋上は、庭園になっており、緑が多い。カクゴウは、自動販売機で2本飲み物を買い、1本をベンチに座るケンに渡した。ケンは受け取ったけれど、開けずに隣に置いた。カクゴウは座らずに、屋上からの景色を見ながら、
「ケン、お前に伝言がある」
ケンは返事をしなかった。でも、カクゴウはそのまま続ける。
「逢魔劔隊の行き先に、目星はついているのか?」
これも無反応だ。ならば、
「本題の前に、少し話をしようか」
カクゴウはそう言って、ケンの方は向かずに語り始める。ケンは、カクゴウの方を直視はせずに、やや俯いているようだ。
「当時の国王様の許可を得て、Dr.ナードが、この国の神殿を調査し始めた」
Dr.ナードは、現在、逢魔劔隊の所属である。光明劔隊では、医療班だった背の曲がった男である。
「水冰の神殿、光明の神殿、白堊の神殿、雷雲の神殿、火焰の神殿と、順調に調査を進めた。天地の神殿は、その存在の確認と天地の遺跡の調査しか出来なかった。そして最後に、封印の神殿を調査した。封印の神殿は、今の風山にあった。3年間の調査結果を当時の国王様に報告する日が来て、口頭だけでは無く資料も提出した。国王様の判断により、国民への発表を行うことにしたのだが、その発表の前日に事件が起こった。報告書と封解の書が盗まれた。封解の書は、当時の国宝だ」
予知の書物と言われる、封解の書。今まさに、ケンが持っている。国宝と言われているのであれば、返却せねば。
「封解の書を盗んだ人物は、ローズリーだ。さらに、国王様がその後、自殺を図ろうとした。起因は定かではないが……。刀を自分の心臓に向けて……。が、それを知った護衛隊のガネットは、国王様の前に咄嗟に立ち、かばった。ガネットは、『国王様、大丈夫ですか……』と言う一言を残し、亡くなった。国王様は、すぐに別の護衛隊隊員が発見して、無事に自殺行為から救出された」
自殺をするまでの代物なのだろうか。それとも、操られていた……とか。だが、根拠無き推測だ。ケンがそんなことを考えていると、カクゴウから
「ガネットは、ポルラッツの祖父だ」
「えっ……」と、ケンは思わず声が出た。
「しばらくして、国王様は復帰した。だが、自殺行為の事件については。全く語らず。推測だが、このときからポルラッツは、祖父を殺した国王様を恨み始めたと思う」
当時の国王は、ザザア前国王である。カクゴウは続けて、
「ローズリーはたった1年で、ブラックバードの封印を解いた。そして、ポルラッツを仲間に、我々は戦うことにした。この時、ポルラッツは国を守るためではなく、己自身が強くなるために戦ってくれた」
封印を解いた? カクゴウが淡々と喋るので、ケンは置いてきぼりになりながら、話を聞く。相槌を打つ暇も無く。
「ヤミナと出会ったのは、ファクトリーシティだ。彼女は路地裏で生活していた。理由を聞くと、この街には、こういった貧しい子たちと、裕福すぎる奴との差が激しいとのことだ。彼女と話していると、その現状から救いたいと思った」
その過程は、親子似たもの同士ということだろうか。聞く限りだと、ニンと同じような状況だったのだろう。
「ポルラッツとの出会いは、私がクーリック村に戻った時……、村長のルティスが『森で1人、心を閉ざした、お前さんと同じぐらいの年頃の子がおる。村長としては、どうにかしてあげたいのじゃが、全く姿が見えんのじゃ。お前さん、何とかしてくれんか?』と言われて、森に行くと姿が見えたものの、その子は無言だった。『どうしたんだ? 話してくれ。話してくれないと、私達には通じないよ』。多分、3日ぐらいは、心を開いてくれなかった。5日目になって少し喋り始めた。7日目は、私から『一緒に旅をしないか?』と問うと、立ち上がり、自分の剱を持って来て、仲間になった。言うまでも無いが、その子がポルラッツだ」
ケンも道場に閉じこもって、誰とも話さなかった時がある。アキラが来て、旅に戻った。どうしても、実体験と重なる。
「黒き鳥と、最初の戦闘後、私たちは組織を発足させた。後に光明劔隊となる組織だ。隊員は、特に規定せずに誰でも入隊できるような組織だった。しかし、ポルラッツが暴走し始めた。それが、クーリック村の襲撃事件に繋がった」
「待って、クーリック村の襲撃事件は、黒き鳥の暴走で……」
ケンは、ポルラッツの暴走はカモフラージュだと思っていた。黒き鳥の真相を隠すために……。そもそも二転三転として、もはや何が正しいのか分からない。嘘を重ねた結果、真相が見えないのだろう。
「クーリック村の襲撃事件は、黒き鳥の暴走が主体ではある。しかし、その裏でポルラッツとローズリーがある物を強奪した。もともと、数日前にローズリーが、ジェイルタウンにある監獄から脱獄を実行し、クーリック村付近に居たらしく、この事件に参加した。どうやら、ローズリーがポルラッツと何らかの方法で連絡を取り合っていたようだ。いつの間にか組織は、私に従う者とポルラッツに従う者とに別れていた。当時は、疑うことを考えもしなかった。余程、信頼していたからだろうか……。こうして、ローズリーをトップに光明劔隊が発足した」
おそらく、ローズリーは盗みの罪で投獄されていたのだろうか。罪人がトップの組織が、なぜ発足できたのか。おそらく、その事実を葬ったのだろう。証拠を消したのか、事実を書き換えたのか、別の犯人を仕立て上げたのか……。いずれにせよ、分からない。
ところで、忘れてはいないが、本題について聞こうにも、ここまでの話がまだ整理できない。すると、カクゴウは
「全てを理解しようとしたら、それは大変だ。それに、人は忘れやすい。思い込みも激しいだろうな。記憶は、知らず知らずのうちに、自分で書き換えている可能性もある。若いうちは前だけ見ておけ。尻拭いは大人がやる。だが、無責任なことはするなよ。まぁ、そんなことを言えるような父親ではないかもしれないけれどな……」
ケンは、カクゴウに対して、何も言わない。屋上の草花が風に揺れる。先ほどよりもだんだんと大きく。
すると、カクゴウが、"ケン"ではない、別の名前で呼んだ気がした。でも、僕はそれに反応したみたいで、カクゴウの方を向いて目が合う。そのとき、今日一番の風が吹いた。
風のせいで、空耳だったのだろうか……
To be continued…
国宝を盗んだ罪を無かったことにするローズリーさん。
どんな手段使ったんでしょ……
普通、無理。




