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黒雲の剱(旧ブログ版ベース)  作者: サッソウ
第3部 逢魔劔隊篇
30/91

第28章 葛藤と、クーリック村の出来事と、

 小川が流れ、周りは木々に囲まれている。辺りは段々暗くなってきた。ヤイバとケンは、今日も野宿である。ケンはカレーを煮る準備をしている。ヤイバは水筒の水を飲む。どちらも喋らない。逢魔劔隊(おうまつるぎたい)の騒動から、数日が経つ。先に、ヤイバが呟いた。

「いいのか……? これで?」

 まるで、自分にも問いかけているようだ。ジンとニンは、ファクトリーシティに帰省している。ミケロラは、村の復興を手伝うと言って、残った。

「なぁ……ヤイバ。どっちが正しいと思う?」

 問いに質問で返された。

「どちらも、自分がやっている事が正しいと思っている。こうなったら、どちらもが納得するまでやり続けるだろうな」

「僕たちには」

「何も出来ないかもな……」

 悲観する。まだ足りなかった。

「強くなるって、難しいね……」

 ケンもいつになく、元気は無かった。ヤイバも、同じように元気は感じられない。

「そうだな。復讐だとか、敵討ちだとか。大きな争いには、犠牲が出る」

「ヤイバ……。みんな、大丈夫かな……」

「ハガネの口癖で、『仲間を増やすのは足手纏いだ』って言ってた時があった。でも、ハガネもこっちを選択した」

「1人を助ければ、その子の知人を助ける。その子の知人を助ければ、また、その子の知人を……。結局、1人が何十人以上になる……。分かってはいるんだけど……」

 ケンが悩み混んでいる。ヤイバは自分の言葉では言えずに

「アキラなら、こう言うだろうな『全員救うことを選ぶのが、ケンだ』って。『1人でそんな大勢を救おうとするから、いけないんだろ。なんで、仲間を頼らないんだ』って」

「確かに、アキラなら言いそうだね……」

 結局、まだヤイバとエナは、騒動の詳細を知らない。ジンはニンと、ファクトリーシティに帰省し、逢魔劔隊と黎明劔隊に直接聞くわけにもいかないし、あとはケンぐらいしかいない。

 ヤイバは、ケンから無理に聞こうとはしない。エナもヤイバと同じ考えだ。

 だけど、このままだとダメだ。時間だけが過ぎていく。

「ケン、いつまでも悔やんでも仕方ない……」

 ヤイバがケンを説得する方向で話を切り出す。しかし、そんな配慮をよそに、ケンが呟く。

「あれもこれも……分かっていたんだ。あのとき、僕らは無力で、対抗する方法をまだ持ってなかった。だから、2人は連れて行かれたし、多くの人が負傷した。誰かが命を落としても、不思議じゃ無かった……」

 時空間の神殿が崩落してから、黎明劔隊と逢魔劔隊が対立した。いや、一方的に逢魔劔隊が、機械の人形を用いて乱射した。機械の人形は、両腕に剱を持ち、腹部には3つの銃口がある。それらの銃口は、体を伸ばすことで現れる。

 一方的な攻撃に、黎明劔隊は盾を用いて、身を隠す。しかし、その戦闘において、多くの人が負傷した。

 負傷した者は、ルトピア中央病院に搬送された。

「アキラは鐡砲(クロガネホウ)で応戦して、隙を作った。その隙をハガネが狙ったけれど、機械人形の反応は早かった。剱と射撃で避けきれず、ハガネが深い傷を負った。ポルラッツとローズリーは、クロバーとアキラを連れて、撤退した。2人に耳打ちしていたけれど、多分、この状況を続けるか、一緒に来るかの選択を迫られたんだと思う」

 ケンはそのほかにも、ヤイバに時空間の神殿での出来事を少しずつ話す。それにより、ヤイバは現状が分かってきた。

 クロバーという少女が黒き鳥と同一であることや、"刹那の歯車"というアイテムがあること。光明劔隊は2つの派閥に分隊し、それぞれが対立の構図になっていること。シルバーソードとフラッシュソードは、騒動の直後にカクゴウから受け取り、ケンの手元に戻っていること。ジンはどちらの組織にも継続しない判断をしたこと。ハガネの負傷の理由、そしてアキラとクロバーが連れ去られたこと。

 ケンが全てを話した後、少し黙った。ヤイバは、何も言わずに引き続き、ケンの話に耳を傾ける。ケンとアキラの話。

 約3年前に遡る。


   *


 約3年前のある晴れた日のこと。クーリック村は、いつもと同じく活気に溢れていた。

 アキラとケンは剱を振るい、久しぶりの特訓をしている。ケンがふと、アキラの方を見ると手が止まっていたことに気付いた。この数日、天気が悪く、久々の特訓だというのに、どうしたのだろうか。

 アキラは、ケンの方を向いて、

「ケン、これから光明剱隊に挑むけれど、今の実力じゃ全然駄目だ……」

 なんとなく、アキラの言いたいことが分かった。ケンは、

「じゃぁ、特訓には天候に左右されない場所がいるね」

 アキラは頷いた。どうやら考えは同じらしい。

 そんな会話を聞いた村長のルティスが、

「どうだ? お前さんたち、道場でも建てるか?」

 ルティス村長の提案に、アキラとケンは喜んで返事をするかと思いきや、

「でも、無茶じゃない?」

「僕達には……」

 と、急に現実的な不安で、元気な「はい」が返ってこなかった。それを見かねた村長は、

「何を言っておるか。村長として、困っとるお前さん達を手伝おうとしておるのに。村長の趣味、知っておるか?」

「すみません、知らないです」

 と、ケン。アキラは「興味ない」と言い、場合によっては、この話が白紙になりそうだが、ルティス村長は、

「クーリック村の建築物のほとんどは、村長の設計でできておるのは知っておるか?」

「それは、毎年あれだけ自慢話するから知ってる」

 アキラの言い方は、棘がある。村立記念日に、式典を行っており、そこで村長が自慢げに言っているらしい。

「村長の趣味は、みなに役立つものじゃ。建物の設計は、何百と紙に書いてきた。道場の設計、村長の私に任せなさい!」

 と、ルティス村長が張り切る。もはや、2人の答えが無くとも、この話は進展しそうだ。

 こうして、クーリック村に道場が建つことになった。

 設計図はルティスが担当。建設は、アキラとケンを中心に、クーリック村の村人が協力。また、休憩時の差し入れは、いつも決まって、村人のマスシアが振る舞っていた。

 しかし、完成前日、体調が悪化したルティス村長は息を引き取った……。完成した道場を見ることもなく……


To be continued…



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