第3章 刃と鋼
ギリシエ村。ある昼下がりの頃。三本の剱を持つヤイバと、一般的な剱よりもやや長い剱をもつハガネが、模擬戦を行っていた。ヤイバは右手に2本、左手に1本。ハガネは両手で1本。
村人たちのなかには、この模擬戦を観戦している人もいる。両者一歩も譲らない。
剱の交わる音に導かれ、アキラとケンがこの場にたどり着いたときには、模擬戦は終了していた。結果さえも知らない。
「いいのか? ほっといて。セーミャのこと」
アキラがそう言うと、ケンは「アキラのことが心配で、『ずっと起きていたから、寝かせておいてあげよう』って言ったのは、アキラだよね?」「そうだったかな?」と、いかにもわざとらしい会話をしてヤイバ達に近づく。芝居染みた会話だが、話の流れでヤイバ達に声をかけることができる。
「僕らを助けてくれたのは、君たちだよね? ありがとう」
ケンが先に礼を述べた。アキラは「どうも」とやや無愛想に付け足す。
「無謀な戦闘でもしないと、あんなにも無様なことにはならないぞ」
ハガネの言葉に2人は耳を疑った。ただ、同時に反論できなかった。
「ごめんね、こんなことしか言えないハガネで」
ヤイバが謝罪するも、アキラとケンはハガネの言うことはもっともだと感じていた。それはもう嫌なほど。
「アキラとは久しぶりってことになるのかな? まぁ、お互いあのときは名乗る暇もなかったけど」
アキラは、その言葉に一瞬戸惑ったが
「やっぱり、あのときの?」
「祇園山以来だな」
ヤイバとアキラはかつて、ヤイバの言う”祇園山”というところで会っていた。祇園山は標高1000メートルで、麓にはモスター村がある。そのときの話はまた追々として、
「さて自己紹介がまだだったな。俺はヤイバで、こっちがハガネ」
「僕はケンで、こっちがアキラ。よろしく」
「あと、ここにはいないけどセーミャっていう女の子もいる。ただ、こっちとしてはこれ以上巻き込みたくないんだがな……」
アキラはセーミャの立ち位置をそう言って表現した。簡単に言えば邪魔とかお節介、足手纏いと。
「ケン達は何で旅してるのかな?」
完全にヤイバとの会話になっている。ハガネはこの会話に絡まない。
「伝説の剱を探してるんだ。実はその道中で、先客にその力を見せつけられて……」
ご覧の通り、こうなった。ケンの言葉で、ヤイバは察してくれたようだった。
「伝説の剱か。そういえば、ここの長老がそういう系の持ってた気がするぞ」
「本当に!?」
これはチャンスである。”そういう系”という表現が、気がかりだけど、長老にご挨拶に行くのは至極全うであろう。ケンの剱は壊れてるし、伝説の剱ならその力で強くなれる。一石二鳥だ。
「ヤイバ、その長老のところに案内してくれるか?」
アキラ達は、ヤイバの案内で長老のもとへ。
長老の名はモッゼ。ノックをして家の中に入ると、壁一面に膨大な書物が山積みされていた。本棚などはないようだ。下の書物は、一体どうやって取るのだろうか……。100%、崩れる未来が見える。
隣の部屋にモッゼはいた。古書を読んでおり、机には6冊ほど同じような書物がある。
「モッゼ長老、お時間よろしいでしょうか?」
ヤイバが長老に言うと
「シルバーソードは地下に置いてある。持って行くが良い」
3人は目を丸くした。ツッコミどころは多い。処理できない。ちなみに、ハガネは面倒だといってついてこなかった。
「どうしてそれを?」
ケンが代弁してくれた。モッゼは古書のページをめくりつつ、
「神のお告げとでも言っておこうかの」
そう言って、笑った。このときは言われても分からなかったが、後々考えるとそれが誰だったのかなんとなく分かる気がした。
お礼とその理由など、簡単なやりとりをしたあとは、シルバーソードを譲り受けた。剱を持たないケンに託し、アキラ達は一度宿屋に戻ることにした。さすがにセーミャのことを置いてそのまま行動するのは非常に心配だからという理由と、そろそろ日が落ちる時間だからだ。
案の定、民宿の玄関にセーミャがご機嫌斜めで待っていた。何を言われようが、アキラはごめんとか悪かったとかで回避する。ケンは律儀に返答していた。この点が2人の性格の違いだろうか。
「それで、あなたは?」
「彼はヤイバ。僕らの恩人だ」
アキラが紹介したが、すぐになんで知らないんだろうという疑問を抱いた。セーミャは戦闘に参加してないはずだし、とか考えているとセーミャ本人の口から答えが出た。
「そうか、ありがとう。私、ミケロラさんに会った後気絶したらしくて……」
一緒にいた2人が無残にやられてショックを受けたのだろう。それは勝手な想像だけど。
「アキラ、ひとつ話があるんだがいいか?」
ヤイバはアキラにそう話しかけた。時刻は夕食の頃合いだ。アキラは
「立ち話もなんだし、夕食のときでいいか?」
「そっちが構わないなら、それでもいいが」
ヤイバはケンとセーミャの方を見て2人の了承を得た。
夕食は村の特産であるカボチャを使ったスープをはじめ、パンやお肉など豪勢であった。
少し食べた後、ヤイバが先ほどの話を切り出した。
「回りくどくは言わず、単刀直入に言うと……、俺もアキラ達の旅に同行しても良いかな?」
「僕はいいけど、ケンは?」
一応、アキラ的には決定権はケンにあると考えている。でもケンはアキラがリーダーだと考えており、結局のところどちらかが賛同すれば
「構わないよ。旅は多い方が楽しいし、正直に言って実力が僕より上だもんね」
こういうところが、ケンの正直なところだろう。
「サンキューな。で、いつ出発するんだ?」
「気がはやいよ。伝説の剱に関する情報もまだないのにさ」
と、アキラ。そもそも伝説の剱が全部でいくつあるかさえも明確には分かっていない。闇雲に歩いても無駄足になるだけだ。
「あ、その話なんだけどさ。実は」
ヤイバはそう言って自分の剱を1つ3人に見せる。テーブルには料理があるため、ヤイバは両手で持ったまま
「これも伝説の剱の一本、ライトニングソードだ」
以前、ヤイバは雷雲の神殿へ行っており、そのときに発見したらしい。というより、そんなに簡単に見つかるモノなのだろうか……。
今回で、早くも伝説の剱の3本について、在り処が明確になった。シルバーソードはケンが所持し、ライトニングソードはヤイバが所持する。そして、ゴッドソードはポルラッツが所持している。
まだ彼らの旅路は始まったばかりである。
伝説の剱は、果たして何本あるのだろうか。
To be continued…




