第27章 揺らぐ心
少し時間を遡る。あの騒動のとき、ミケロラはドーグ村で炊き出しを手伝っていた。基本的に、パフェを作る彼女だが、一般的な料理もある程度は作れる。その昔……といっても、何年か前だろうが、キッカケがあったらしい。それ以降、あるパティシエの店を探していたが、ファクトリーシティでは移転しており、見つからなかった。国外に移転していることも考えられる。情報屋に聞けば、何か分かるだろうが、彼女はそれをしなかった。まだ、そのときではない。そのときが来れば、自然と見つかるだろうという考えらしい。
ミケロラは、戦闘の経験は無い。剱よりも、料理のナイフや包丁を扱う。ヤイバたちに連れ添ったが、彼らよりも大人である自分として、何かをしてあげることはほとんど出来なかった。今回のことでも、ニンとヤイバは深く傷を負っただろう。何か声をかけることができれば、よかったのでは……。
彼らに助言は必要なのか。皆まで言うなと、言われそうだ。見守ることも重要ではあるが、そんなことを考えていると、
「ミケロラ、3人分頼む」
「ヤイバ、休まなくて大丈夫?」
「休んでる方が、余計に疲れそうで……」
ヤイバは、休んでる時に周りが働いているのを見て、何もしていない自分が辛くなった。動いている方が、まだ精神的に楽みたいだ。
「ニンは?」
「少し横になって寝てるよ。かなり疲弊してるみたいだったし……」
「そう……。ヤイバも無理はしないでね」
「無理はしてないよ」
ときどき、ヤイバの言葉が本当なのか、偽りなのか分からない。もともと、嘘をつく子であることは知っている。ただ、その嘘は誰かが傷つくような嘘では無い。ただ、本来の自分を隠すような素振りを見せるように感じられる。ハガネに言っても、杞憂だと言われそうで、ミケロラは誰にも言えていない。
実際のところ、ハガネに「杞憂だ」と言われたのは、アキラだったし、ミケロラも相談すれば同じように言われただろう。これらの小さな嘘が、ヤイバからの小さなSOSでないことを祈るばかりである。
ベンチェル村長は死去。ザンクは自害。そのほか、火事により何人かが命を失った。トニックの飼い主も、結局見つからなかったことから、逃げ遅れたことが明白であった。主を失ったのは、トニック以外にも家畜や、生き物以外だと田畑も同じである。
まずは、新しい村長を決めるとして、村長の妻であるキューアが新しい村長が決まるまでの短期間だけ臨時で任された。しかし、夫を失った悲しみは深く、村の人々と支え合って、復興を目指すようだ。
ドーグ村から、時空間の神殿はあまり見えない。山や木々が鬱蒼としており、先端が見え隠れするぐらいである。しかし、あの崩落の音はこちらまで届く。地鳴りのような揺れと音が聞こえる。ミケロラは、炊き出しの手を止めて、時空間の神殿の方を見る。ドーグ村の人々も、音のする方を見て、推測で物事を話す。何かが崩れた。木が倒れた。神殿が崩れた。山崩れが起きた。いずれにせよ、良いことでは無い。
すぐに、光明劔隊が時空間の神殿方面へと向かう。ヤイバとニンも向かうつもりのようだ。ミケロラは2人に
「待って」
行ってらっしゃいとは言わずに、引き止めた。2人は当然、早く確認に行きたいはずだ。でも、
「今行けば、ドーグ村の人手が減ってしまう。みんなのために、ここに残って」
ヤイバが「でも」と言いたげだが、ミケロラは続けて
「光明劔隊と仲良く向かうつもり?」
そう言われて、ヤイバは黙った。敵対しているなら、袋叩きである。ましてや、その輪に入っているのだから。
ミケロラの判断は、結局良かったのかどうか分からない。ヤイバとニン、ミケロラが、時空間の神殿での出来事と、その後の騒動を知るのは、かなり後であった。
クーリック村。民宿にて。エナは、セーミャがいないことを知り、気が気でなかった。でも、セーミャのおばは、落ち着いていた。「あの子なら、みんなと一緒に帰ってくるから、食事の支度をして待ちましょう」と言う。エナも、ヤイバ達と同じく、騒動について知るのはかなり後であった。
To be continued…
時系列的に、このときは解散前のため、まだ光明劔隊です。
騒動については、次回以降。
『龍淵島の財宝』へと繋がる部分も、もう少しで出てきます。




