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黒雲の剱(旧ブログ版ベース)  作者: サッソウ
第3部 逢魔劔隊篇
28/91

第26章 市庁舎

 日没してまもなく、ファクトリーシティが炎と黒煙に包まれる。その光景を目の当たりにして、ジンとニンは急いで向かう。

 ()()()()のあと、ニンと一度ファクトリーシティに戻ることを決めた。だが、到着直前に、この騒ぎである。

 ファクトリーシティは、なおも物価が上昇しており、過去ケン達が訪れたときは、宿泊代が他の村や街の5倍以上であった。さらに、物価が高いため、人件費を削減する店側は新規雇用を行わない。その原因は、市長にある。国からの補助も市民からの税も、すべて市長たちが牛耳っている。もはや、独裁的である。ある程度お金に余裕がある者は、転居を選択したが、最近は転居に莫大な税金がかけられ、容易には逃げることができなくなった。

 最寄りの街は、リャク村まで5日半。イヴサーン村まで7日。たどり着くまでの食料を集めることができず、路地裏で暮らすようになる。裕福な者からは、"貧窮族"と呼ばれるが、リーダーは"リゲイン・ザ・ロスト"と呼んでいる。これは、"失ったものを取り戻す"という意味だ。

 街の中心部まで行くと、要因が分かった。

「ニンじゃないか!」

「あっ、ロン」

 ロンはニンより、1歳年上の少年。同じ仲間である。ニンは、ロンに現状を聞くと、

「見ての通り、始まったんだよ……」

 数時間前、市長に20回目の抗議をしたリーダーのシルト。しかし、市長は応じないどころか、なんとシルトを殴り飛ばした。それが火種で、仲間が参戦して規模が拡大していった。

 こうなると、事態の収拾は容易ではない。さらに、収拾した時にどちらに転ぶか分からない。もしも、市長勢力が勝てば、状況が悪化するかもしれないし、その先は分からない。

「事態は最悪だな。シルトたちは、まだ市庁舎か?」

 ジンは、ロンに確認するが、ロンは「分からない」と答えた。騒動の発端からすでに数時間が経過しており、まだ市庁舎にいるか分からないし、そもそも市庁舎で抗議を行ったのか、全く知らないのだ。

「他に、知ってそうなのは?」

「うーん……、抗議に行くのを知ってるのって、シルトとヒューサーぐらいかな」

「ヒューサー?」

 初めて聞いた名前である。ニンも知らないみたいだから、最近加わった人物なのだろうか?

「元々、市議会議員だったんだけど、堕ちたんだって」

 「堕ちた?」と、ジンは疑問に思った。確かに、市の選挙は一応あるが、選挙権は富豪のみである。普通は、継続か世襲である。まぁ、一般的に考えると常識外れだが、これがファクトリーシティでは(まか)り通っているのである。

「ヒューサーは、秘密()に市長の裏を探っていたらしいんだけど、それが他の市議会議員にバレて、落魄(おちぶ)れたんだって」

「それ、本人が言ったのか?」

 ジンは、簡単には受け入れられず、疑った。

「シルトも疑ったんだけど、他の市議会議員から土地や名誉、財まで奪われて、全てを失ったヒューサーを見て、手を差し伸べたんだ。でも、内心はまだ疑ってたと思う。確証を得るために、いろいろ調査したみたいだよ」

「なるほどな。しかし、ロンがそこまで知ってるって事は、どっちも信憑性に欠けるな」

「なんでっ!?」

「兄ちゃん、酷いよ」

 ロンもニンも、ジンの言い方に怒った。ジンは、

「皆が知ってるって事は、その情報を誰かが流してるってことだ。秘密裡に調べていたことなら、何か情報を握っているかもしれない。それだけで武器になる。ただ、"秘密裡に調べていた事実"が流れると、対象と調べていた本人のどちらも不利になる。秘密じゃなくなるからな。本人は狙われるだろうし、対象は他から疑われるだろうな」

「でも、市長はヒューサーに手出しできないんじゃない?」

 と、ニンが言う。暴露される恐れがあり、下手に手が出せない状況になるのではということである。

「それを表でやると、自ら、言えない秘密があることを暴露していることになる」

「ふーん」

 ロンは、途中から興味が無くなってきたようだ。適当な相槌で、受け流す。

「それに、市長は……」

 ジンは、言葉に詰まったようだった。ニンとロンは、首を傾げる。それを見たジンは、「何でも無い」を言った。そんな感じで話を切られたが、ロンは「余計に気になるけど、興味ないからいいや」と言った。

「ニンとロンは、安全なところにいろ。俺は、そのヒューサーという人物と、シルトがどこにいるのか探しに行く」

「僕も」

 行くよと、ニンが言い切る前にジンは首を横に振った。

「ニンとロンは、年少の子達を守るために向かってくれないか。おそらく、手が足りてないだろうし。……ただ、剱は極力控えるほうが良い」

 ジンは、ニンの持つ剱を使うなとは言わなかった。躊躇(ためら)えば、守れるものも守れなくなる。殺傷を禁ずるこの国ではあるが、あくまでも抑止しているのみで、実際には死者も出ているだろうが、それが剱によるものかは分からない。そもそも、殺傷とか言いつつ、傷ついているし、最近は剱に限らず、銃による殺傷が発生している。国王側の対応が遅れているのだろうか。


 ジンは、市庁舎へ向かう。途中の騒動は極力関わらず、一直線に向かう。市庁舎の玄関口は、通常なら警備で人がいるのだが、無人で無防備だった。観葉植物が倒れていることも、ガラスが割れてることもなく、無傷で荒れた様子は無い。ジンは、無人の玄関を駆け抜ける。

 さらに、左右に複数ある窓口にも人気が無い。休日でも無ければ、窓口の営業時間が終わっているわけでもるない。階段を駆け上がり、市長室へと向かう。大方、市長室かその隣の応接室、それか同じ階の会議室に集まっているだろう。ジンはそう考え、市長室がある階まで駆け上る。

 声が廊下まで響く。怒鳴り声ではなさそうだ。ジンは、声がする応接室の前へ。中の様子は分からない。ドアには、細い縦長の磨りガラスがあり、扉の前を横切れば分かってしまう。ノブに手をかけても向きによっては分かってしまうだろう。

「中に入りたまえ」

 市長の声だ。ジンは、廊下の上を見たが、カメラは見当たらない。

「いないのかね?気配を感じたのだが」

 誰かまでは分からないようだ。ジンは、扉をノックして応接室に入る。部屋には、市長と秘書、シルトクと若そうな男性がいた。おそらく、若そうな男性がヒューサーという人物だろうか。シルトの頬に氷を当てて、冷やしていた。

 状況がすぐには理解出来なかった。おそらく、氷はシルト達が用意した物ではないだろう。それに、応接室は椅子や机が綺麗なままだった。揉め事があれば、こんな綺麗なままのはずがない。つまり、これは……


 ニンとロンが路地裏へ駆けつけたとき、不思議なことに負傷者がいなかった。ただ、子ども達は怯えているようで、ニン達はみんなを元気づけるために声を掛け合う。

 半時間もしない間に、あることが告示された。(半時間とは30分のことです)

 消費などの一部税率の大幅な引き下げと、微量ではあるが店舗側への新規雇用補助である。この決定に、ファクトリーシティ内では、シルト側の勝利として歓喜に沸いた。


To be continued…

12/1から、『黒雲の剱』と『紅頭巾』のキャラが繰り広げる『路地裏の圏外 ~龍淵島の財宝~』が連載開始です。こちらもよろしくお願いします。

1/19 追記。シルトの名前が間違っていたので修正しました。

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