第24章 崩落のカウントダウン
弾はカクゴウの足を掠った。ズボンに血が滲む。
「哀れだな。今ので、戦えないだろう。これで邪魔者は、ただの負傷者だ」
先ほどの銃声に、黒き鳥と戦闘中だった第1班と第3班の隊員が戦闘の手を止めた。
ローズリーは、銃口をカクゴウに向け、
「ヤミナ、こちらに出てこい。さもなくば、この引き金を引くぞ」
ローズリーは、鐡砲の引き金に手をかける。
「待ってください!」
ヤミナが物陰から飛び出す。
黒き鳥の本来の真相を知らない第1班と第3班の隊員は、状況が理解できていないようだ。黒き鳥は、ヤミナであると教えられていたのだから。
*
"刹那の歯車"により生成された、時空の狭間を通って、ポルラッツとケン、アキラ、ハガネがこの時間に到着した。
「ここからは、個別に行動する。話す時間が惜しい。以上、解散」
ポルラッツはそれだけ言って、上層階を目指す。
「僕らも行こうか」
そうは言いつつも、ケンはポルラッツが行った上層の方と下層への階段を見比べる。アキラはハガネがついてきた事に関して、
「てっきり、ハガネは拒否すると思ったけどな」
「仲間なら、見捨てないだろ」
ハガネのクールな言葉に、アキラは「今夜は雨だな」と。
「時間的に、セーミャは下かな」
ケンの勘を聞いたアキラは、
「二手に分かれるか?」
「なら、俺が上層に行く。その方が、何かと都合が良いだろ」
ハガネの提案だった。確かに、その方が都合が良いだろう。ハガネがセーミャの前に現れて、現状を説明する時間が必要になる。誤解を生みそうだし……。一方、ケンとアキラなら、仲が良い者同士で話が早い。
二手に分かれ、アキラとケンは階段を駆け下りる。この先、通路は直角に左へ折れる。右側の壁が少しずつ崩れゆく。この状況下での戦闘は無いが、時間が少ない中、会えるまで嘸かし時間がかかるだろう。そう思っていた矢先のことだった。アキラが通路を左に曲がった瞬間、足を止めた。ケンがそれに反応できずに、アキラの背中にぶつかった。
「セーミャ? いた?」
鼻を押さえて目を瞑るケンは、痛さよりもそっちが先に言葉に出た。
「いたけど……」
「けど?」
ケンの視界が戻ると、セーミャが壁側に倒れており、誰かに介護されている。
介護している人物がこちらに気付いた。こっちを見て誰だか分かった。ジンだ。
「えっと、どこから言えば……」
アキラがいろんな湧き出る疑問に整理できず、ケンはまずセーミャの容体を確認した。右足に包帯が巻かれている。
「ジン、セーミャのこと ありがとう」
ケンはジンにお礼を言った。
「いや、こちらこそ、ニンがお世話になり、お礼を言わねば」
「ニンは、ジンのことをかなり心配していたけど……」
「それは申し訳ないことをしているとは思うが、仕方ないんだ……」
どうやら、ジンにも事情があるようだ。
一方、状況整理に苦労するアキラは、
「順番に聞いて良いか? まず、ジンは上層階で戦ってたよな?」
「戦闘中に、離れたところに人がいるのが視界に入った。班のメンバーには伝えて、単独で動いた。そしたら、迷い込んだのは君たちの仲間だった。彼女は、疲労によりその場に倒れて、今に至る。右足の怪我は、道中に負ったらしい。ひとまず、包帯を巻いたがどのくらいの怪我かは分からない。切り傷程度で済んでいるとは思うが……」
「セーミャのことは、僕からもお礼を言う。で、ここはもしかして上か?」
「ん? 僕ら、下に降りたよね?」
ケンも少し気になっていた。上層で戦闘中のジンが、なぜ下層にいるのか。その答えは簡単である。
「上というよりも、同じ階層だ。おそらく、時空間の神殿の特性で、上層と下層がループしているのかもな」
「しかし、そんなことが……」
「あり得るんだろうな、この神殿だと……」
と、アキラも納得した。時空間の神殿が崩壊を始め、入口が崩落した。外との唯一の出入り口を失ったこの異空間は、上層と下層という常識が完全に無くなり、最下層を最上層が結合した出口の無いループとなった。しかし、崩落は継続する。やがて、この異空間が消滅するのか、残るのかは誰にも分からない。"刹那の歯車"により意図的に生成した狭間からの脱出。これが失敗した時は、もはや最期を迎えるしかないのだろうか。
崩落へのタイムリミットは不明。予断を許さない。
「セーミャをここから避難させよう」
ケンが提案したものの、アキラは
「下手に動かして、問題ないのか?」
少なくとも、3人には判断できない。ジンは、選択肢として、医療班のナードに聞くことを考えたが、それは避けた方がよいと直感的に、避けた。理由はない。あくまでも直感である。
答えが出ぬまま、アキラは次の話をする。
「ジンは戻るのか?」
「そうだな。持ち場をいつまでも離れているわけにはいかないからな」
「ケンは、セーミャを」
アキラはその後の言葉を言わなかった。自身が何をするのか。ケンは、それを聞こうにも、聞ける雰囲気になく、黙って頷いた。ジンは、その光景を見て感じることはあったが、無言の会話へ割り込まず、持ち場へと戻る。
アキラは、現状を過去と重ねていた。クーリック村襲撃時、自分では何もできなかった。結果、家族を失った。行動できずに失うのは、もう二度としたくない。アキラの瞳が、一層濃くなった気がした。
奇襲をかける。アキラとジンは、黒き鳥がこちらを認知する前、死角から同時に討つ手筈を決め、現地へ駆ける。想定どおり、黒き鳥はこちらに背を向けている。高さも低く、攻撃は当たる。
ジンとアキラは剱を構え、そのまま背中へ向けて直進し、同時に大きく斬る! 黒き鳥は咆哮するが、まだこちらを見ていない。ジンは右翼、アキラは左翼へ追撃! 攻撃のチャンスだが、正面から攻撃が無い。
黒き鳥は、高く飛び上がる。黒き鳥が視界から離れ、アキラとジンは現状を目の当たりにした。
カクゴウとヤミナが負傷しており、隊員は全員、両手を上げている。理解が追いつく前に、ローズリーが黒き鳥へ発砲。黒き鳥の頭部、次に右翼、バランスを崩したところ、左翼を狙い、飛べなくなった黒き鳥は床に墜ちた。かなり衰弱し、ローズリーはさらに腹部へ発砲。
「なぜ、悲観する。君たちと同じ事をしているだけだ。黒き鳥を弱体化させ、抑える。そうしなければ、あの時と同じ事になる」
ローズリーの言うことは、確かにそうだろうが、あまりにも惨い。ある程度の攻撃はやむを得ないだろうが、度を超えていた。
「もうやめて!」
ヤミナが叫ぶと、ローズリーはヤミナに銃口を向ける。
「この神殿は崩落する。時間が無い現状、最適解であろう。ナード、黒き鳥に鎮静剤を打て。再び起き上がるのも時間の問題だ」
ローズリーに言われるがまま、ナードは黒き鳥へ近づき、首元へ鎮静剤を注射する。暴れる黒き鳥が、ナードを攻撃する前に、ローズリーが黒き鳥の足を撃つ。咆哮というより、悲鳴が響く。鎮静剤を打ち終わると、黒き鳥は飛べなくなった。
「さて、アレは光明劔隊が引き取る。君たち結成隊には引き渡さない」
ローズリーはそう言い、鐡砲に弾を充填する。その隙を狙い、第3班のロドラ、ヴォスキャー、ニャセルがローズリーに斬りかかる。第1班のシーグ、アミュレはカクゴウとヤミナの方へ駆ける。ジンもシーグのあとに続き、走る。アキラは視界に入った、ナードの不穏な動きを見て、ナードに剱を向ける。
「それ、鎮静剤じゃないな。医療のことはあまり知らないけど、劇薬だろ?」
「老人に刃物を向けるとは。教育がなっておらんな」
ナードはその劇薬をアキラに向かってガラス容器ごと投げる! アキラは、自分に当たらないように正面に向かって叩き割る。
一方、ローズリーは、充填が間に合わないため、扃鎖軍から奪い返したスィールソードを鞘から抜き、3人の攻撃を防ぐ。
双子のヴォスキャーとニャセルが、左右から絶妙なタイミングでローズリーへ斬りかかるも、スィールソードと体術、身のこなしで避ける。ロドラの正面からの攻撃は、スィールソードで弾かれ、隙があれば、鐡砲の充填をしようとする。その隙を与えまいと、連続で攻撃する。足を負傷したカクゴウは、シーグの肩を借りて立ち上がる。アミュレはヤミナをサポートする。ヤミナは、カクゴウのもとへ駆けつけた後、ローズリーの鐡砲により、右肩を負傷していた。
状況は、結成隊VSローズリーの構図に。アキラは、ナードに剱を向けたまま、静観する。
時空間の神殿、完全崩落まで、僅かな時間しか残されていない。いや、その僅かな時間さえ、残ってはいなかった……。
To be continued…
1カ所、剣表記になっていたので、剱に修正しました。(1/19)




