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黒雲の剱(旧ブログ版ベース)  作者: サッソウ
第2部 時空間の神殿篇
22/91

第21章 新月の塔 前篇

 風が強く冷たくなる。未明から空を覆っていた厚い雲は、いつの間にか薄い雲になり、その隙間から夜空の星々が覗き始めた。そして、新月も。時空間の神殿は、クーリック村の山奥に位置する。各地の神殿とは異なり、(そび)え立つ塔のようである。よく見ると、一部に赤い鉄骨が見えるが、これは光明劔隊が補強工事したものである。その原因は、風化や老朽化によるものか、将又、黒き鳥によるものか……。ドーグ村の火災は鎮火し、新月のため星々の輝きのみで、明かりは乏しい。

 時空間の神殿へ向けて、暗い森の中を突き進む者がいた。情報屋から聞いたことが、本当かどうか確かめるため。時空間の神殿にて、光明劔隊が途轍(とてつ)もない計画を実行している、と。詳細は分からないが、いても立っていられなくなり、頭よりも先に体が動いていた。


 時空間の神殿。選択肢は2つ。下層でローズリーと戦闘か、上層で黒き鳥の鎮圧か。後者は、カクゴウとの話を聞いて迷いがあれば足手まといになる。その迷いを払拭できるかというと、できなかったし、できそうにも無い。努力でどうなることでもなく、精神的な問題である。特にケンは、カクゴウとの一騎打ちで知っていた。自分の心の弱さを。結局、自分が最初に考えていた、光明劔隊を倒すという目的は、実現不可であると分かってしまった。道場で考えたけど、自分には力が無いと知ってしまった。ただ、今は自分の力をさらに強めるという伝説の剱がある。過信では無い。ポルラッツに負け、ジンとの戦いも劣勢であった。勝ててない。おそらく、ハガネかヤイバが一二を争い、アキラは自分よりも強い。それらを重々分かった上で、ケンの判断は

「僕は先へ進む」

 アキラは自分の心の中で矛盾を拭い去ろうと藻掻(もが)いていた。クーリック村の騒動、その本当の原因を知った。自分の両親と妹は、黒き鳥の騒動に巻き込まれ、屋根の下敷きになった。当時の幼き記憶を幾度となく思い出す。この払い切れないもやもやは、どうすればいい。何処に向ければ良い。黒き鳥と対峙したとき、自分はどう決断する。黒き鳥を倒せば変わるのか。真実を知った自分は倒せるのか、倒そうとするのか。今迷ってる時点で、そのときになっても判断できないだろう。結局、

「……結局のところ、上に行ったとしてもローズリーと対峙するのは変わらないだろうし」

「寧ろ、上層の方が苦しい戦いになるか」

 と、ハガネもケンとアキラに同調した。黒き鳥と戦闘中にローズリーが登ってきて混戦になる可能性がある。というか、そうなるのは確実だ。ならば、黒き鳥への時間稼ぎにもなり、限りなくゼロに近いが戦闘を回避することもできるかもしれない。

 鉢合わせだけは避けて、待ち伏せ前提で下層を目指すことにしたアキラ達は、階段を下る。

「ローズリーについて、聞いてもいい?」

 ローズリーと対面したことの無いケンは、道中に対峙する相手のことをハガネとアキラに聞いた。

「ローズリーは、光明の管理官だ。残念ながら、戦闘は見たこと無い。どちらかというと話術による交渉、心理戦だな」

 と、ハガネ。アキラは、先刻の出来事にて、ポルラッツの反応から

「ポルラッツ達には煙たがられているみたいだがな」

「アキラ、それどういうこと?」

「ポルラッツやヤミナは、黒き鳥の……、いや、そもそも時空間の神殿にローズリーが来ることを予定外って言っていた」

「予定外……、でも、それだけで……」

 ケンの言うとおり、それだけでは理由としてまだ弱い。それを聞いたアキラは、自分の中で引っかかっていた話を出す。

「ポルラッツが『最悪だ』って言っていた。それに、ヤミナは『ローズリーの乱入は想定になかった』」

 ケンはアキラの考えに一理あると思った。しかし、問題がある。その問題については、ハガネがやや強めの口調で

「前提として、余裕があればの話だがな。まず、俺たちが脱出できるかどうか分からない時点で」

「脱出できるか分からないこそ、時間を稼ぐのも1つかな」

 ケンが出した案にピンとこない2人。ケンは、自分の考えを続けて話した。


*


 ポルラッツはローズリーと同行せず、ドーグ村から帰還する隊員を待っていた。待つ理由は、拘束した扃鎖軍の2名を本部へ送るためである。入り口を見張っているため、隊員の出入りをチェック可能。無論、隊員以外も目に付くわけで

「茂みに隠れているつもりだろうが、素人だな。危ないから神殿から離れろ」

 ポルラッツは、人の気配がする茂みに向かって喋った。

 茂みから顔を出したのは、セーミャである。

「悪いことは言わない。戻れ」

 ポルラッツは相手するつもりがなく、面倒くさそうに言った。セーミャは、首を横に振る。

「なぜ戻らない」

「仲間がそこにいるから」

 セーミャ声は辛うじてポルラッツに届いた。

「仲間を待つなら、村で待て。戦いの場に来たところで、貴様の生命が危機に見舞われるだけだぞ」

「でもっ」

「最悪の事態が発生したとき、光明劔隊は事態の鎮圧を優先して、保護が後手に回る。そうなった場合、生命の保証はできないぞ。果たして、護りきれるかどうか……」

「なんで私を護るなんて……」

 ケンやアキラ達と敵対する光明劔隊。それが仲間であるセーミャを護るという。

「貴様、誤解していないか? 確かに、光明劔隊は貴様らと対峙している。それは、こちらが行っている伝説の剱を回収する妨げをするからだ。それ以外は、一般人と変わらん。一般人を護るための組織。邪魔しない限りは、こちらから手を出すことはない。とは言いつつも、いずれは伝説の剱を回収するために、全面対決となるかもしれないがな……。そちらが手を引かなければ……」


*


 ローズリーは大広間にて対峙した。相手は、ハガネである。

「おや、ひとりだけか? 連れはどうした?」

「さぁな」

 ハガネの後方、壁際にはケンとアキラが身を潜める。時間を稼ぐため、一度に3人ではなく、まず1人。

「ポルラッツから話は聞いている。光明劔隊の特殊調査潜入隊所属だったそうだね」

 予想通り、ローズリーは戦闘ではなく、会話で進めていく。

「今はどこに潜入しているのかな? 伝説の剱を持つ彼らのところかな?」

 ローズリーからは、煽るような言葉が。ハガネは冷静に

「俺は光明劔隊から足を洗った」

「まるで、光明劔隊が悪い組織みたいな言い方だな。心外だよ」

 ローズリーの話し方は、先刻の騒動で聞いているが、喋り方が違う。相手によって、言葉遣いを選ぶのだろうか。

「光明劔隊にいて、居心地が良いなんて言ってたやつは一人もいなかったけどな」

 ハガネは攻撃的な発言を続ける。一方、ローズリーは、

「調歩隊は、任務上一匹狼が多いから、組織が(しがらみ)に感じていくのかもしれないが、光明劔隊に所属する者は(みな)志願者だ。嫌々継続する必要はないだろう」

 淡々とハガネに反論する。特殊調査潜入隊、通称調歩隊は調査や潜入が多いが、密偵として動くことは無い。あくまでも任務中はソロで秘密裡(ひみつり)に動く。

 ハガネは攻撃的、批判的な発言を繰り返し時間を延ばす。ローズリーはなおもその反論を続ける。その様子は、(はた)から見れば口げんかに見えるかもしれない状況である。


*


 少女クロバーは、夢の世界へと旅だった。しかし、残酷な現実は、すぐに訪れる。新月の今宵、時空間の神殿に再び怪物が咆哮する。クーリック村の襲撃事件は、この怪物が起因であった。怪物はクロバーに()み着く。引き離す方法や封じる方法を調べるも、結局確実な方法は見つからなかった。

 カクゴウは自身の剱を2本扱う二刀流の構え。ヤミナは後退し、ナードとともに身を隠す。黒き鳥の正体がクロバーであることは、儀式に立ち会う数名しか知らない。ローズリーをはじめ、一部の隊員には黒き鳥の正体がヤミナであると伝えている。残りは、黒き鳥についての詳細をそもそも知らない。

 黒き鳥に挑むのは、光明劔隊の精鋭部隊である。ドーグ村の騒動により、部隊の8割が離れており、時空間の神殿には精鋭部隊のみである。精鋭部隊は基本3人1隊体制であり、光明劔隊には精鋭部隊が5班存在する。本部の防衛のため、第2班と第4班がライトタウンにて警備に当たっており、第5班は別の任務中。そのため、時空間の神殿には第1班と第3班の2部隊のみ。カクゴウを含めて7人での持久戦となる。光明劔隊の隊長であるカクゴウが指揮を執る。

「目標は黒き鳥。持久戦になる。明け方まで戦闘継続か、黒き鳥の体力が尽きるまで戦闘になる。気を抜くなよ!」

 黒き鳥が咆哮する。各班のリーダーが班内のメンバーに指令を出す。時刻は午前0時過ぎ。明け方まで5時間半の持久戦が幕を開けた。

 第1班は、冷静さを長所に持つ少年シーグがリーダーを務め、幼い頃から男児と同じ厳しい試練を耐え、体術に自信を持つボーイッシュな少女アミュレ、ニンの兄であるジンの3名。第3班は、生まれてすぐ盗賊生活をしていたが、あるとき光明劔隊から改心のキッカケを得たことで、その恩返しをしたいと入隊した少年、ロドラがリーダー。ある村で差別的な扱いを受けてきたが、光明劔隊に救われた少年、ヴォスキャー。同じく、ヴォスキャーの双子の妹、ニャセル。

 黒き鳥は、その大きな翼により突風を操り、自身の羽根を鋭く飛ばす、咆哮による聴覚麻痺、足先の爪による攻撃など多種多彩である。


 黒き鳥の咆哮は、ケンとアキラの耳にも届いた。

 ハガネとローズリーの口喧嘩、もとい心理戦による話術交渉は15分を経過した。

 ハガネは、さりげなく右手を背中の後ろに回し、アキラとケンにサインを送る。ネタ、もとい弾切れである。元調歩隊所属とあってか、ハガネは嘘も本当のことのように平然と喋っていた。

「次、行くわ」

 アキラはケンにそう言って、あたかも今まさに上から駆け下りてきたかのように装うため、少し逆方向に歩いた後、やや駆け足でローズリーの視界へ飛び出す。ローズリーは当然ながら、アキラに視線が行く。アキラはローズリーと目が合う。アキラは芝居と分からぬように、駆け足からの急ブレーキで後ろに半歩ほど下がった。表情は、"しまった"とか"まずい"といった印象を与えるように。

「君も元光明劔隊かな」

 ローズリーは、隊員全員の顔を知っているのだろうか。アキラはそれを疑問に感じたが、嘘をつく必要も無く、肯定を意味するように

「それが何か関係あるのか?」

 アキラの開き直りに、ハガネは

「強腰だな」

 とだけ言った。

 ケンは、2人の普段見せない姿、おそらく光明劔隊の所属時はそうだったのだろうかと思わせる振る舞いに、益々自分の無力さを感じていた。 頼もしい2人に対して、自分が不甲斐ないと思う。カクゴウに破れた後、如何に無駄にしていたか。ただ、それが今は起爆剤として自分を動かす。自分は……

『こんなはずじゃなかった!』

 突如、ケンを激しい頭痛が襲う。自分のようで他人のような……。でも確かに自分の口が言っている。

 頭の中で、怪物と戦う自分。何度見ただろうか。最初は夢の中だった。夢だと自覚していても、明晰夢(めいせきむ)のように、自分の意識で自由に動ける夢ではない。決まった順番で、決まった場所へ向かっている。いや、表現としては逃げている。怪物から遠くへ逃げる。しかし、逃げ切れることはなく、視界がブラックアウトするとともに激しい痛みを伴う。まるで自分が死んだような臨死体験であった。

 そして、その夢は突如として終わり、目が覚めて頭痛が治まる。

 痛みが治まると、ケンに向かってアキラがサインを出していた。


To be continued…

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