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黒雲の剱(旧ブログ版ベース)  作者: サッソウ
第2部 時空間の神殿篇
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第19章 逢魔が時

 時刻はまもなく夕暮れであろう。黄昏の後、闇夜が訪れる。セーミャは、民宿の窓から刻々と変わりゆく空を見て、胸騒ぎがする。アキラ達が外に飛び出したのは暗い未明だった。もう半日以上経過する。セーミャとエナは、民宿の夕食作りで慌ただしく動いているが、彼らのことが心配で仕方なかった。

 明け方から昼下がりまで曇天が太陽を遮り、時計を見なければ朝とか昼とか分からないほどであった。

 ヤイバとニンがトニックを追ってドーグ村に着いたのは、午前8時頃。まだ夜が明けていないと勘違いしそうな暗さではあった。何より、炎の明かりで周囲が照らされていると勘違いしただろう。アキラとハガネが時空間の神殿内に突入したのは、午後2時頃である。

 現在時刻は午後5時前。ザンクの騒動で、民宿は光明劔隊のキャンセルが相次いだ。新たに客として、ドーグ村から避難してきた人以外に、妙な少年がいた。宿泊者名簿には、モイス。何故セーミャが妙だと感じたのかというと、お昼前のことだ。


*


 セーミャとエナは、お昼の買い出しへ。クーリック村には、人が少ないこともあり、お店はない。畑を持つ人や猟師の人と商談により購入する。商談といっても、顔見知りのためいつも同じ値段で購入し、残りは日常会話である。

 エナとセーミャはそれぞれ分担し、民家を訪ねる。セーミャが2軒目へ向かうとき、民家の物陰から会話が聞こえてきた。物陰には、少年と男性、女性の姿も見える。少年は、

「村長は裏で契約を結んでいます」

「はぁ?そんなバカなことがあるか」

 大人の男性は笑いながら、隣の女性が渡したスケジュール帳を見る。

「だが、お前の情報は大体が本当だから恐ろしいな。今度の日曜日にそいつに会うから、そのときに洗い浚い話してもらう。これはいいネタを貰った」

「しかし、その村長ですが、今朝の騒動で絶命したそうです」

 それを聞いた男の目つきが変わった。

「予定変更だ」

 セーミャは部分的にしか聞き取れなかったが、男は女にこう言った。「神殿内への潜入を繰り上げて、隠密に済ませる」


*


「ねぇ?」

 少年から声をかけられて、セーミャは我に返った。

「何?僕の顔に何か付いてる?」

「ううん。何でもない。ただ、一人旅なのかなぁって」

 セーミャは、首を振って誤魔化した。けど、

「僕は情報屋だからね。もしかしたら、君が知りたい情報を持っているかもよ」



 時空間の神殿内。アキラとハガネは物陰から、ポルラッツと密偵である女との会話に耳を傾ける。二人とも集中して、背後から近づく男に気付かない。男は音を立てぬように近づき、

「こんなところで、何をしているのかな?」

 二人は驚き、振り向くと男が持つ剱が視界に入るが、よける暇もなく吹っ飛ばされる。

 幸いにも、男は剱を鞘に収めたままであった。吹っ飛ばされた二人は壁にぶつかり、吐血。さらに、衝撃で壁に罅が入り崩れる!

「何事だ!?」

 ポルラッツが音のした方を見ると、女がポルラッツへ発砲! 反射的によける動作になったものの、ポルラッツの左肩を弾丸が掠り、そこから血が流れる。

 アキラ達を背後から襲った男と、ポルラッツから密偵と言われた女は、モイスから情報を受け取っていた人物である。

「スィールソードは手に入った。引き上げるぞ」

 男がそう言うと、女は銃口をポルラッツに向けたまま男の方へ下がる。

 銃では歯が立たない。ポルラッツは、左肩を押さえたまま何もできない。

 男と女は伝説の剱であるスィールソードを手に、時空間の神殿の入り口へ向かう。アキラとハガネは、体に覆い被さった瓦礫を払いのけ、立ち上がる。だが、ポルラッツと交互に銃口を向けられ、立ち上がるだけで何もできない。

 アキラは頭の埃を払いながら

「ヤツが持ってる剱は……」

「確かスィールソードって言ってたな。おそらく、伝説の剱だろう。普通の剱で、こんなに吹っ飛ばされるような腕力を持ってそうには見えない」

「伝説の剱か……、威力が桁外れだな」

 アキラはその威力に恐怖を感じた。ケンに勧めた本人が驚くのだから、想像以上の威力だ。ただ、これまでヤイバやケンが使った伝説の剱でもこれほどの威力はなかった。同じ伝説の剱の1本とは思えない。

 入り口の方へ歩く男と女だが、進む先にある人物が立ちふさがる。その人物は、

「扃鎖軍は、伝説の剱にでも興味があるのか?」

「誰だ!?」

 スィールソードを持つ男は、女に銃口を向けるように顎で指す。女はポルラッツやアキラ、ハガネに向けていた銃口を立ちふさがる人物へ向ける。

「撃つと、光明劔隊は扃鎖軍を徹底的に追い詰める。よく考えてから、引き金に手をかけることだな」

 扃鎖軍と思われる男と女は、立ちふさがる男との会話でアキラ達には目もくれない。この場を離れるには、このタイミングしかない。

「ハガネ、今のうちにこの場を離れよう」

 ポルラッツが見逃してくれないだろうが、考えてる暇はない。アキラとハガネは、それを承知で移動する。

 ポルラッツは、2人を一瞬見たが、視線を戻す。その様子に違和感はあったが、アキラとハガネはポルラッツの後方を静かに駆け抜ける。

 そのとき、

「ローズリー……、最悪だ」

 ポルラッツがそう呟いたように聞こえた。


 場所を離れ、アキラとハガネは足を止めた。

「ポルラッツがローズリーって呟いてたんだが、ローズリーって誰だ?」

 アキラが聞くと、ハガネは

「元光明劔隊なのに、知らないのか?」

 知っていて当然のような反応だった。

「ローズリーは、光明劔隊の管理官だ。早い話が、隊長のカクゴウより上の人物だ」

 光明劔隊の管理官。文字通り、隊長を含めて、光明劔隊の全体を管理する代表者である。そうなると、ポルラッツが呟いた"最悪"という言葉は、何を意味するのか。

「ローズリーが来たことに"最悪"……。何で……?」

 アキラがそう呟いたので、ハガネは自分の考えも含めて

「光明劔隊は元々、少人数精鋭部隊だった。そこに、ローズリーが管理官として加入し、部隊が数倍に膨れ上がった。ポルラッツはそれを良く思っていない。つまり、ポルラッツはローズリーを良く思っていない。どうせ、そんなところだろ」

 アキラは疑問が残りつつも、ハガネに無理矢理丸め込まれて、何も言えなかった。反論できる事柄があるわけもなく、この疑問はこのまま自然消滅しそうだ。

 階段を上り、しばらく歩くと広間に出た。広間の至る所に時空の狭間が存在する。広間の奥から声がする。

「ヤミナの声だな」

 と、ハガネ。ヤミナの声しか聞こえないため、電話だろうか。

「少し近づこう」

 アキラは、ケンの居場所を突き止める手掛かりが少しでも得られないかと、壁寄りに進む。ハガネは後方を確認して、アキラに続く。

 ヤミナの声が聞き取れる位置に来ると、

「計画に変更があっては……。しかし、ローズリーの乱入は想定になかったことで……。それに、扃鎖軍のことや近隣の騒動も……」

 アキラは小声で

「ローズリー管理官の存在は計画になかったってことか」

 沈みかけていた先ほどの疑問が、早くも浮上してきた。扃鎖軍は、男女2名のことだろう。さらに、近隣の騒動とは、ドーグ村の騒動のことだろう。

 ヤミナの電話は未だ続いている。

(くだん)は、まだそのときではないかと……」

 唐突に出てきた"件"とは、アキラが思いつくことを考えるが、答えはヤミナの言葉で出てきた。

「黒き鳥……、その儀式は次の機会を窺うことも……」

「黒き鳥だと?」

 アキラ達は黒き鳥の真相を知らない。知らないからこそ、考えは自然と違う方へと向く。光明劔隊は、風山に封印された黒き鳥を復活させようとしているのではないか、と。

「アキラ、奥の方を見ろ」

 ハガネに言われて、アキラはヤミナに遮られた奥の方を見る。

「時空の狭間……」

 アキラは自然と体が前へ。

「あまり体を前に出すな。防衛部隊が後ろにいる。見つかるぞ」

 防衛部隊がいるということは、おそらく目的の狭間だろうか。

「事態が深刻になる前に」

「アキラ、落ち着け」

 ハガネがアキラに声をかけるが、アキラの思考は止まらない。光明劔隊が黒き鳥を復活させようとしている。それは何故か。クーリック村の襲撃時のように、どこかに仕掛けるのではないか。アキラは妹と両親を失った。あの悲劇を繰り返してはいけない。

 そう考えるアキラの思考は、もはや暴走していた。背景を知らないハガネは、アキラが何故ここまでヒートアップするのか分からない。ついには、ハガネのストップを振り切り、アキラは剱を手に強行!

 アキラはヤミナに向かうが、それをある人物が立ちふさがり、剱が交錯する。

 アキラは剱を弾かれ、反動で一歩下がった。相手の顔を見ると

「ジン……」

 無言の相手は、ニンの兄、ジンだった。

 アキラは剱を握り直し、ジンと沈黙の戦いが始まった。剱が交錯する音だけが響く。

「アキラ、戦う相手が違うぞ」

 ここにいない人物の声が聞こえ、アキラは周囲を見渡す。すると、時空の狭間から、カクゴウが出てきた。

「どうやら、時空の狭間を介しても声は届くようだな。どういう原理かは、未だに分からないが」

 カクゴウは頬の擦り傷を(さす)っている。さらに、カクゴウの後ろには、ケンがいる。

 狭間の向こうの世界にて、時空間の神殿にケンが到着すると、そこにはカクゴウがいた。ケンは剱を構えてカクゴウに向かうが、カクゴウは動くことはなかった。ケンは避けるであろうと思い、少し外すように剱を振ると、カクゴウの頬を(かす)った。カクゴウの擦り傷は、このときにできたものだった。カクゴウは無言で時空間の神殿の奥へと歩き、やっと口を開いたかと思えば、時空の狭間をくぐって現代に戻った。

 カクゴウは、ヤミナに現状の確認を取る。

「ドーグ村での騒動は聞いているが、他には?」

「ローズリー管理官が下に。それと、扃鎖軍が2名いるそうです」

 ケンはアキラと合流したが、再会の言葉もなく、

「僕ら、蚊帳の外だね」

「そうだな……」

 と、無力感に襲われるアキラ。拍子抜けの再会をしてまもなく、一発の銃声が下層から轟く。さらに、遠方で大きな爆発音。事態は急速に展開する。

 逢魔が時から闇夜へと時刻は(うつ)ろう。今宵は新月である。


To be continued…


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