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黒雲の剱(旧ブログ版ベース)  作者: サッソウ
第1部 再出発の旅篇
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第2章 伝説の剱

 クーリック村を南向きに出発して、早3日。水冰(すいひょう)の神殿に到着した。神殿と言っても壁や屋根の一部が残るだけで、10人に聞けば8人はここが神殿だと思わないだろう。残った壁は、白を基調とし、水をイメージするアクアブルーの不規則の波形が描かれている。ただ、長年の風化と汚れにより、所々色が落ちていた。

「最初の、少なくとも僕らにとって、最初の伝説の剱は、ここにある”ゴッドソード”だな」

 アキラが説明口調で言ったが、それを

「水の神殿なのに、なんで神様なの?」

 ごもっともな意見だ。普通はそう考える。言った人物に対して、アキラは

「なんでついてきたんだ、セーミャ?」

 セーミャがケンとアキラのあとを追って、旅のメンバーに加入した。ケンは特に何も言わないけど、アキラとしては足手纏いでしかないと思っている。

「もし戦闘になったら、僕らはお前のことを守れないかもしれないんだぞ」

「守られなくても大丈夫だよ」

 あっさり返された。

「おい、ケンも何とか言ってくれよ」

 アキラはセーミャみたいなタイプが苦手らしい。言っても分からず、いっそのことなんて思うけど、そんなことになったらクーリック村に帰れなくなる。民宿のおばさんは、実質クーリック村のトップなのだから。

 ケンは黙ったまま自分の剱の柄に手をかざす。いつでも戦闘態勢になれるように。ケンの剱は、錆は落ちたが耐久性は下がっていた。

「やめておけ。怪我するぞ」

 ケンの向く方から声がした。男性の声だった。しかも、アキラは聞いたことがある。ケンとセーミャが知っているかは分からない。

「久しぶりだな。クーリック村の諸君」

「ポルラッツ・ディナイト……」

 アキラは、奴の名を言い、柄を握る力がさらに強くなる。姿を現したのは、光明劔隊の幹部であるひとり、そしてクーリック村を襲撃した張本人、ポルラッツ。

「ハンス、辞表を出したらしいな。俺様が首謀者だと知ったからか?」

「ハンス?」

 セーミャは察してないが、ハンスはアキラの偽名である。多分、ケンも知らないだろうから、初耳か。

「仲間や家族を殺した組織に、長居はしたくなかったからだ」

 そう言うと、アキラはケンの左手首をつかみ

「ここは僕が引き受ける。ケンはセーミャを」

「でも」

「その剱じゃ長くはもたないし、三日で旅終了なんてさせないからな」

 アキラは鞘から剱を抜き、構える。ポルラッツの挑発は続く。

「威勢だけは良いことよ。無駄死にになるぞ」

「ならねーよ」

 先に仕掛けたのはアキラだ。ポルラッツは居合い切りでこれを防ぐ。

「本当かどうか信用ならんが、”神の力”とやらに勝てるかな?」

 ポルラッツの所持する剱は、アキラ達が探していたゴッドソードであった。


   *


 ライトタウンにある光明劔隊本部では、慌ただしく動いていた。カクゴウの命令に背くポルラッツが原因ではあったが、この事態は別のことも危惧していた。

「カクゴウ隊長、第二支部が壊滅寸前との知らせを受けました」

 報告するのは幹部の女性、ヤミナである。

「状況は?」

炎帝釖軍(えんていかたなぐん)が攻め入ったとのことです」

「炎帝釖軍……。陽光の国に拠点を置く組織だな」

 現在、この近辺の国々には三つの組織が存在する。1つは光明劔隊であり、次に炎帝釖軍。そして雷霆銃族(らいていじゅうぞく)である。それぞれ結成時の状況や運営、主要武器が異なる。光明劔隊はカクゴウとヤミナ、ポルラッツの3人が平和維持を目的として結成した。しかし、ポルラッツの暴走により、光明劔隊は現在二極化が進んでいる。主要武器は剱。炎帝釖軍は、主要武器を刀とし、ある時期に勢力がガタ落ちしたのち、再び勢力を昔以上に引き戻した。組織内については不明な点が多い。最後に雷霆銃族は、元々盗賊団であり表向きは社会貢献、裏ではよからぬ噂が絶えない。

 ヤミナからの戦況報告を受けたカクゴウの判断は速かった。

「やむを得ない、第二支部を放棄する。すぐに通達し、第二支部の者は最小限の戦闘で進行を遅め、付近の支部から救護へ迎え。援軍の戦闘は避けことが望ましい。それと、第二支部内のデータを遠隔で完全に消去しろ。以上だ」

 カクゴウは唇を噛みしめた。戦力を第二支部に送れば勝てる見込みはある。だが、それには大勢の犠牲が伴う。すでに亡くなっている者もいるだろう。懸命に死守する者に逃げろと命令するのだ。自分がその場にいれば、おそらくその命令に背く覚悟で命を落としても死守しようとするだろう。矛盾してる自分が許せない。だが、仲間を失うことはもっと許せない。結局、

「本部から数人、私とともに第二支部へ向かうぞ」

 最少人数かつ、自身が出る判断を下した。


   * 


 伝説の剱の力は想像以上だった。アキラの攻撃は一度もポルラッツに当たらなかった。殺傷を禁止するこの国でなければ、アキラどころか3人とも死んでいただろう。

 アキラが目覚めたとき、ベッドの近くにいたのはセーミャだった。椅子に座ったまま寝ている。ひとり部屋らしい。どこかの民宿か。少なくとも、クーリック村ではない。

 扉が開くと、ケンが果物を持ってきた。

「ケン、ここは?」

「ここはギリシエ村。水冰の神殿から南にある村だよ」

 ケンの答えよりも、気がかりなことがあった。

「その頭の包帯は?」

 ケンは黙った。代わりに、笑顔で頷いた。心配いらないという意味らしい。アキラが倒れてから、ケンもポルラッツと戦闘したのだろう。腰には鞘さえもつけていなかった。

 剱が大破したのか。そう聞けば良いのだろうけど、ケンは答えないだろう。アキラを心配させたくないと思って。包み隠さず話すことは、再会してからない。アキラもケンも何かを言わず、それが分かっていても聞かない。むしろ、聞けないのか。

「お連れさんは元気になったかい?」

 部屋に入ってきたのはなぜかパフェを片手に持った女性だ。

「この人は、ミケロラさん。僕らを助けてくれた人のひとり」

「ありがとうございます」

 アキラはお礼と同時に、ケンの言葉に疑問を持った。どうやら助けてくれたのは複数人らしい。パフェについては、どう触れて良いのか分からず、とりあえずスルーすることにした。

「もしかして、他にも助けてくださった人が?」

「うん。ハガネとヤイバだって」

 ミケロラからの返答を期待していたが、答えたのはケンだった。2人は僕らと年が近いらしい。

「ヤイバ……と、ハガネ……か」


To be continued…


誤字修正ついでに、後書きを追加。

『龍淵島の財宝』連載から、後書きを書くようになったので、最初の頃は書いていませんでした。

炎帝釖軍とか雷霆銃族とかいう組織がたまに出てきてますが、実際に物語でケン達に絡むのはかなり先です。基本は、光明劔隊かと。

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