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黒雲の剱(旧ブログ版ベース)  作者: サッソウ
第2部 時空間の神殿篇
17/91

第16章 狗吠の剱

 トニックが吠える。トニックの犬種は大型犬。ドーベルマン・ピンシャーに似ていて、性格はいつも神経を張りつめ、警戒を緩めず生涯主人に対して忠誠を尽くし、他人になつくことは殆どないという。しっかりとした訓練が必要で、元々攻撃性があるので喧嘩や噛み付き癖を防ぐためにも、幼犬期から徹底してしっかりと行う必要があるらしい。元々利口で注意深いので、訓練を楽にマスターする能力は極めて優れているようだ。体高は61~71cmほどで体重は30~40kgぐらい。

トニックはニンに懐いていた。ちなみに、ヤイバは嫌われているみたいで、近づくと(ことごと)く吠えられた。

 なお、トニックはメスであり、音楽用語で主音を意味する。

 ニンとヤイバはトニックの後を追い、ドーグ村へ向かう。アキラとハガネは、この騒動によって時空間の神殿へ侵入を試みる。予想その1としては炎帝釖軍がスパイの情報を元に、光明劔隊へ攻撃を仕掛けた。もしくは、ドーグ村での不審火か。後者なら、アキラとハガネは突入を見送り援護へ向かう。

 だが真相は、そのどちらでも無かった。

 到着してすぐ、アキラは時空間の神殿の入り口付近を観察する。

(光明に慌ただしいような動きはないのか……?)

 入り口の監視体制に変更はない。人の出入りもほとんどない。

(もう少し様子を見るか?)

 だが、変化はない。数分経過し、この場を離れることを決断するか迷う。そんなときだった。

 ドーグ村の方から光明劔隊の隊員が走ってくる。

「ドーグ村で村長が重体、休憩中の隊員も数名が何者かに襲撃され、民家に火の手が上がっています!」

 入り口の監視員は、もう1人の監視員を報告に向かわせ、

「炎帝釖軍か? それとも雷霆銃族か?」

 どちらの組織かと問うと

「どちらでもありません。全て1人の大柄な男です」

 大柄な男が1人で村長の殺害未遂ならびに、隊員への暴行、民家への放火を行ったようだ。

「その男の名は分かるか?」

「村長の奥さんによると、ザンクと名乗ったそうです」

「ザンク……? 聞き慣れない名だな」

 監視員同様、アキラ達もザンクのことは知らない。アキラは声を殺して、

「ハガネ、ここは一度引いて」

 ヤイバ達と合流した方がいい。アキラの考えはそうだった。しかし、ハガネは

「いや、光明の動きによっては、絶好の突入機会になるかもしれない」


   ***


 7年後の未来。時空間の神殿。塔のようなこの神殿は、現在と同様に大半を足場と防音シートで囲まれ、補修を行っている。

 入り口でカクゴウは誰かを待っているようだ。

「カクゴウ、いつまで待つつもりだ?」

 ポルラッツはやや苛立ちを見せつつそう言った。

 その質問に、カクゴウは答えない。神殿の奥から走る足音が響く。

「隊長! 現代のドーグ村にて、大柄な男が暴れているとの情報が入ってきました。これにより、休憩中の補修班1名と救護班2名が負傷。民家数軒が火災。さらに、ドーグ村の村長が重傷とのことです」

 ポルラッツは報告に来た隊員に

「男の名と武器は?」

「報告によりますと、名はザンク。武器は剱と音のしない鐡砲のような物とのことです」

「異国のサイレンサーってやつだな。現物なんぞ、どこから手に入れたのやら。確か、雷霆銃族が欲しがってたな、そういうの。……さて、カクゴウ、どうする?中途半端に部隊を向かわしても、犠牲が増えるだけだ。だが、大勢を派遣すれば神殿の守りが薄くなる」

 カクゴウの判断は、

「ドーグ村へは、部隊の8割を向かわせろ」

 これには報告に来た隊員は驚き、

「8割もですか!? しかし」

「ポルラッツ、お前は現代へ戻って警備に当たれ。空いた8割分を埋めろとは言わないが、今夜を逃すと、ヤミナは助からない恐れがある。荒療治だろうと、もう時間も手段もない。25年前の呪いを解く機会は……」

「カクゴウ。あまりそっちに注視すると、他がどうなるか分かっているよな?」

 ポルラッツの言葉は忠告するようだった。それに対し、カクゴウは落ち着いたトーンで

「編成を変えたんだ。問題はないだろう。それに、お前管轄の部隊も含めて監察部隊がいる。報告は上がってくる」

「緩いな。炎帝のヤツや雷霆のヤツが情報を与えているのは分かっているはずだが」

「密偵のことは、襲撃隊に一任している」

 ポルラッツはその返答に呆れたようで、そのまま黙って神殿の奥へ歩き出す。

 カクゴウはどこか遠くを見ているようだった。


 同刻。ケンは天地の遺跡へとたどり着いた。だが、あのときと同様に、神殿への道はない。上空の神殿へどのようにしていけばよいのか。

 考えていると、遠方から一匹の犬が走ってくる。ケンは知らないが、トニックに似ている。その後方、リヤカーを引っ張ってくる少年は、ニンだ。

「ケンさん、これを使ってください」

 リヤカーに載っていたのは、ペンキ缶だった。

「これを?」

「7年前と状況が違い、遺跡からガラスのような階段が上まで通じているそうです」

 そんなことがありえるのかという疑問よりも、遥か上空にある神殿へ階段を上りきるのは、危険だし体力的にも厳しい。

「といっても、ペンキはもしものときに使う物で、基本的にはこれを使ってください」

 そう言って、ニンはリヤカーの箱からランプのような物を取り出した。

「数年前に天地の遺跡から発見されたもので、これで階段が分かるそうです」

 ランプには明かりが灯っていない。

「詳しいことは聞けずじまいで、これについて聞かれても分からないとしか答えられないんですが……。とにかく、時間がないとかで……」

 ケンはランプを持ち、ランプの横や底を見るが開閉できそうなところもなく、密封状態。ランプの横は曇りガラスのような見た目で、青銅のような見た目の底と笠。持ち手も青銅のようであるが、単に錆びているだけかもしれない。

 一先ず、ケンはニンにお礼を言い、そばにいる犬についても聞かず、遺跡の中へ。遺跡に入ると、突然ランプが緑色に発光した。さらに、正面に天へと続く階段が出現した。

「これを登れば……」

 左手にはランプ。右手にはニンが持ってきたペンキ缶を1つ持ち、階段を上っていく。

 何段あるとか、下がどうなってるかとか考えたくもない。一般的な建物の10階に相当する高さに到達した時点で、ケンはペンキを少し垂らした。ランプで階段が現れるも、唯々辛い。しかも、どうやら螺旋状みたいで、半径は広くとも、何周も回って踏み外さないか気の抜けない時間が続く。

 無我夢中で、少しずつ足早になり、気付いたときには天地の神殿に走り込んでいた。

 ケンは倒れるように、安定した床に倒れ込んだ。安定と言っても、空中に浮いているから本当に安定かは定かではない。

「よく着いたのぉ~」

 奥から白いお髭を生やしたおじいさんが話し掛けてきた。

「あなたは……」

 ケンは息切れで、中腰になった。

「この神殿の(あるじ)。ハクリョとでも呼んでくれ。さて、神殿内の気圧と空気量は地上と変わらんが、高山病になったやつもいる。辛かったら言うんじゃぞ」

 と、ハクリョが言うが、ケンは既に体力が大幅に削られて既に辛い状態である。

「一先ず、奥の客間で横になりなさい」

 ケンは、疲れで客間に入ると眠気に襲われそのまま寝てしまった。


***


 どこかの建物だろうか。自分は剱を持って通路を走る。音が聞こえない。感覚器官が全て曖昧である。まるで夢の中である。自分は(しき)りに後ろを振り向く。逃げてる。何かから。通路に響く足音が聞こえる気がする。何発か銃声がする。通路を曲がって、階段がある。上り階段と下り階段。息を切らしながら上り階段を走る。前方に誰かがいる。顔が見えない。何か言っているが、聞こえない。後方で黒い怪物、形をなさない異物が迫ってくる。

 階段を上る。何階分登ったか分からない。自分の他に、誰かいる。黒い怪物から只管(ひたすら)逃げている。階段の壁にフロアの階数が書いてある。1階。いままでは地下だったようだ。1階では、入口方面で白い服の人が武器を構え、怪物に応戦するようだ。

 自分達もその人達の隣に並び、怪物が来るであろう方を向く。しかし、階段の方は静かだ。額から汗が流れる。

 少しして、床下から衝撃が伝わり、地下一階から天井と床を破壊して怪物が姿を現した。

 同時に、遠距離武器を持つ人々が発砲し、弾丸が怪物に当たるも、怪物に影響がない。効果がない。

 怪物は素早い動きで、突進してくる。自分達は剱で向かうも、歯が立たず、頭から血を流し、出血により苦しい。この苦しさが伝わってくる。

 これは、まるで悪夢だ。


 目覚めると、ケンは汗だくで飛び起きた。

「今のは……」

 悪夢は、妙にリアルだった。客間を出て、周りを見渡しつつ手洗い場行き、顔を洗うも悪夢の感覚にまだ体が震えていた。

「客間のタンスに服があるから」

 ケンはハクリョの声に驚き、驚いた自分にもまた驚いた。

「それに着替えなさい。サイズは合うものを探せばあるばずじゃ」

「……ありがとう、ございます」

 お礼がワンテンポ遅れた。ケンがこの悪夢を見たのは、今回が初めてではない。忘れる頃に現れる。

「落ち着いたら、昔話をしよう」

 ハクリョはそう言って、戻っていった。


   *


 一方、現代のドーグ村。ヤイバとニンが到着すると、民家が燃え上がり、トニックの飼い主の家も火の手が上がっていた。

 家の前でトニックが吠え続ける。

「まさか、家の中に取り残されてるのか!?」

 ヤイバの疑問に、まるでトニックが答えるかのように吠え方が変わった。

「流石に、もう……」

 ヤイバは言いたくないが、燃えさかる家を見て、突入は不可能だし手の出しようがない。

 吠え続けるトニック。ニンはそんなトニックに抱きつき、頭を撫でるしかできなかった。

「避難場所を見に行こう……」

 ヤイバは呆然と立ち尽くしたまま、口ではそう言ったが、トニックの様子から、おそらく……。

 立ち尽くしていると、そう遠くないところから悲鳴が上がる。その悲鳴で我に返ったヤイバは、周りを見渡して悲鳴のした方を探す。

「ヤイバさん、あっち!」

 ニンが指さした方を見ると、誰かが襲われている。ヤイバは急いで助けに向かう。

 状況は一刻を争うようだ。女性の人が、大柄な男に銃口を向けられ、男は今にも引き金を引きそうだ。

(間に合え!)

 ヤイバは剱を鞘から出して、駆ける。


To be continued…


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