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黒雲の剱(旧ブログ版ベース)  作者: サッソウ
第2部 時空間の神殿篇
14/91

第13章 星霜の剱

ここから2部に入ります。

 崩壊した世界。ケンは成長したヤイバ達から現状を尋ねたが、それは信じがたいことだった。

「この世界は7年後!?」

 ケンは風山から7年間気を失っていたのか。それにしては疑問点がある。ニンやヤイバの成長に比べて、自分はさほど背も伸びてないし、経過しても1年だと思っていた。

 ヤイバは、混乱するケンに

「ただ、それは俺たちの尺度での話だ」

 さらに、ケンは話が見えない。

「ケンさんは、過去から来たんだよ」

 ニンの言う意味が分からなかった。でも、自分には知っている情報(こと)がある。

「まさか、時空間の神殿……?」

 クーリック村の近くにある神殿である。時空間の神殿内は時空が乱れて、至る所に時空の裂け目がある。これを使えば、時渡りができると聞いたことがある。子供の頃にそう聞いた。剱を教えてくれたマグネという師匠から。

「一先ず、何も言わず俺の言うことを聞いてくれるか?」

 ヤイバは普段見せない真剣な顔だった。

「ここの現状を話す。まず、この世界ではハガネが敵だ。アキラとセーミャ、そしてお前はこの世界にいない。過去からポルラッツやカクゴウ、光明劔隊がこちらに来ている。俺がこれを話した時点で、こことお前の世界は少しずつ本来の道筋から外れるはずだ。過去からの干渉とその逆、未来からの干渉で時の繋がりが不安定になる。要は、これはお前の世界の未来ではない。今から天地の神殿に向かえ」

 "何も言わず"。ケンは何も言えなかったし、言わなかった。落ち着いてはいても、この世界に来て軽いパニック状態でいる。そこに、こんなこと言われても理解が追いつかない。

「ケンさん、ここから北へ向かえばリャク村があります」

 ニンは北の方角を指さしてそう言った。ミケロラも、パフェのスプーンで北を指し、

「残念だけど、私たちは一緒に行けないの。敵の進行を止めないといけないから」

 半ば強引にケンはヤイバ達から分かれた。今はヤイバの言うとおりに行動するしかない。


 リャク村を目指しながら、ケンは自分なりに現状を整理する。大半は推測ではあるが。 

(事実としては、ここは風山で戦ってから、7年後の世界であること。ただ、僕自身が7年間意識を失っていたわけではなく、時空間の神殿で時を渡ったに過ぎない。だから、僕自身は、風山から経って数週間もないと思うけど……)

 自分に感じる違和感。考え込んでいると、石に躓いて思いっ切り転ける。

(イテェ……)

 そのとき、カランと何か外れて、落ちる音がした。

(これは? ……)

 砂埃を払いつつ拾うと、小さなチップみたいで、蚊ぐらいの細い針が付いていた。ケンは実際これが何なのか分からないが、これが取れた途端に、時間が経過した気がしていたという違和感がなくなった。


 この世界でケンが目を覚ました部屋に、ある人物が入ってきた。

「お目当てのものは見つかったか?」

 ポルラッツは、モニターの前に座るカクゴウに問いかけた。

「やはり、記憶が混合していた」

「そうか……。しかし、そもそもお前の息子の名前、ケンじゃなかっただろ? どうして分かったんだ?」

「何でだろうな。親だからかな」

 カクゴウは、ケンの記憶を探るためにこの未来に来た。風山でカクゴウとヤミナがいなかったのは、時空間の神殿から移動するためだったのだ。そのあと、ポルラッツがケンを連れて未来へ来た。合流後、ヤミナは時空間の神殿にて、邪魔が入らないように進入を規制する。そういう手筈だった。見事に上手くいき、結果カクゴウが調べたかったケンの記憶を調査できたのだ。


   *


 時は未来から7年前の現在へ。時空間の神殿では、光明劔隊が厳重警備に当たっていた。ここから最寄りの村はクーリック村である。クーリック村では光明劔隊が良からぬことを企んでいるのではないかという噂だけが流れていた。村の道場で、ヤイバがニンの稽古を付けている。

「ヤイバさん、本当に大丈夫なんですか?」

「監視は少人数の方が気付かれにくし、ハガネとアキラに任せてあるから大丈夫だろ」

 ミケロラが二人の姿を見ながら

「怪我しないようにね」

 というと、ニンが「はーい」と返事をした。ここだけ見るとすごく平和だ。

 村の民宿。夜の雨に備えて外から箱を中へ搬入するのはセーミャと

「これはこっちでいいの?」

「大丈夫。それより、エナちゃん、本当に良かったの?」

 エナは、食料の入った箱をテーブルの上に置くと

「村の子ども達は、みんなのおかげで無事だったし、お礼をしないと気が済まないから」

 風山の騒動で行方不明だった子どもたちは、みな無事に帰宅できたようだ。ケガもなく、黒い腕輪は本当に飾り物だった。

 セーミャの伯母は、流し台で食器を洗いながら2人の会話を聞いていた。民宿は光明劔隊の隊員が宿泊し、満室である。ケンや子どもたちを攫った組織だが、今はお客さんである。それとこれとは別なのだ。

「おばさんは、なんとなくエナちゃんが一緒にいる理由、分かっちゃうな。どの子だい?」

「え? そうなの?」

 と、セーミャ。エナは必死に否定したが、セーミャにはそれが肯定に聞こえた。ここも平和だ。


 時空間の神殿付近。アキラとハガネは、同じ木に登って、生い茂る葉の隙間から監視を続けている。手元には単眼鏡と小型の携帯無線通信機を持ち、片耳にイヤホン。元光明劔隊の2人は、光明劔隊の通信周波数と暗号を知っており、会話内容はよく分かった。

 未来と今を往来していいることと、カクゴウとポルラッツが未来にいること。そこにケンもいること。さらに、偶然にも別の周波数をキャッチした。暗号により内容は分からないが、

「確か、この暗号形式は炎帝釖軍じゃなかったか……?」

 アキラは小声でそう呟いた。ハガネも

「多分、潜入捜査員かもな」

 光明劔隊に炎帝釖軍のスパイがいるかもしれない。

「厄介なことにならなきゃいいけど……」

 アキラが危惧していることは、スパイからの情報により炎帝釖軍が近辺に来ることだ。ただでさえ、時空間の神殿への突入に手を焼いているのに、そんなことになれば一層突入が困難になる。寧ろ混乱に乗じて突入しやすくなるかもしれないが、ここから近いクーリック村まで巻き添えになる恐れがある。そうなると、突入よりクーリック村の防衛で手一杯になるだろう。

「分かってて泳がせているか、あるいは……」

 ハガネの推測が当たっているかの確認は取れない。

「今更だけど、ハガネはどこ所属だったんだ?」

「調歩隊にいたよ」

「調歩隊ってあの?」

「他に、何があるっていうんだよ」

 特殊調査潜入隊。内部の一部の人々は調歩隊と呼んでいる。歩いてあちこち調査・潜入することから、誰かがそう言い始めた。

「アキラは?」

「第2独立特務小隊にいたよ。(もっと)も、今は新襲撃隊第2班とかいう名称に変わったけどな」

「特務ってことは、最前線か?」

「うーん、中ボスの一個手前みたいな立ち位置だな」

「何だその例え」

「いいだろ、別に。さて、そろそろ引き上げるか」

「引き上げには早いだろ。まだ日没前じゃねぇか」

 夕焼けだが、まだ高さはある。

「クーリック村の天気予報士によると、日没前後に一雨来るらしいからな」

「セーミャか?」

「あいつ、天気だけは妙に当てるんだよな」

 アキラとハガネは、ロープを使って木から静かに下りた。もちろんロープは回収した。帰り道、だんだん空を雲が覆い被さり、クーリック村に帰ってくると滴が空から落ちてきた。日没前から強い雨が降り続いた。

 セーミャは雨粒が流れる窓を見る。目線の先は、外の雨雲ではなく、窓に映る自分の顔だった。まるで、雨粒が自分の涙のように感じたのだった。ケンを心配するのは、セーミャだけではない。アキラたちは毎晩作戦会議を開くも、突破口が見つからず焦る気持ちと苛立ちが募るだけだった。


   *


 未来の世界。こちらも雨。ケンがリャク村に到着すると小雨から本降りへと変わりつつあった。崩壊した家々。村長の家は辛うじて残っていた。雨に濡れつつ、ドアをノックしようとしたが、

(ダルク長老は、あのとき……)

 頭の中でフラッシュバックした。リャク村を雷霆銃族が襲撃して、長老の家から銃声を聞いた。もしも……、と思いたくもない現実を考えてしまう。さらに、7年の歳月で、何が起こったか全く想像できない。雨に濡れたまま、ノックしようとした左手を下ろし、後ろに2歩下がった。

 どの窓も、カーテンの隙間から明かりは漏れていない。勝手にいないという結論にして、ケンは別の雨宿りを考える。

 背後の瓦礫から崩れる音が聞こえ、振り向くと背後に……、ハガネがいた。

 ケンはぞっとした。全身に鳥肌が立ち、剱の柄に手をかけることもできず棒立ちだ。ヤイバが話した、この世界ではハガネが敵であること。できれば、会いたくなかった。仲間が敵となって戦うことは、ケン自身、躊躇してしまうと分かっている。自分は強くない。昔からそう感じていたが、カクゴウとの一戦でよりその呪縛が強くなった。実際、ケンはブランクがあったことも含めようが含めまいが、アキラより実力が劣っている。アキラより強い、ヤイバと互角のハガネに、しかも7年の星霜(せいそう)を重ねて勝てるのか。戦いたくない。

 雨雲の隙間から星が見える。だが、それも一瞬。すぐに雨雲が覆ってしまう。月明かりの届かぬこの雨の中、暗闇が支配している。ケンは、このまま無言でいた。視線は外せないものの、自分から関わりたくない。

 長い長い60秒が経過し、ハガネはゆっくりと剱を鞘から出して、構えもせずにそのまま先端は下を向けている。雲の中で光を発し雷鳴が聞こえるようになると、雨の勢いは増すばかりだ。俗に言う、バケツをひっくり返したような雨というやつだ。

 ケンは雨粒よりも心が痛かった。戦わざるを得ないのか。逃げ切れるのか。答えはどちらも、正解ではないし、不正解でもないだろう。どちらもそう簡単なことでは決してない。無謀かもしれない。ケンは鞘からやむなく剱を出す。自分の剱ではない分、()の長さと重さに慣れない。この世界のヤイバ達と敵対する者達が持っていた剱である。

 どちらも仕掛けることはしない。長い沈黙のようだが、まだ2分とて経過していなかった。

 どうして、ハガネは単独で来たのか。単独行動が多かったとヤイバから聞いていたから、それは不思議だとは思わなかった。

 空中で途切れる稲光。その光で、ケンは見た。ハガネの左顔に大きな傷があることを……


To be continued…


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