第10章 禦ぐ鎧
一通り治療を施して程なくした頃、"銃"についてケンが悩んでいた。
「対峙するには、どうしたらいいんだろう…?」
「剱では到底無理だ」
他の策を考えるが、ハガネも案は出ず。
「あ、思い付いた」
アキラが、言いかけた途端
「鎧は?」
と、ニンが言った。
「……先に言われた」
アキラ、残念。ハガネは鎧の案に対し、
「確かに、鎧なら対抗できるかもしれない。だが」
「鎧と言えば、重い、暑い、動きにくい代物だな……」
ヤイバの言うように、鎧作戦案は見送りかと思われたが、ニンは
「じゃあ、軽くて、涼しくて、身軽な鎧ならいいの?」
「あるの? そんな都合のいいものが」
セーミャは期待しているが、正直他の皆はあまり期待してないようだ。
「それなら、オーガックじいちゃんに頼めば、簡単に作ってもらえるよ」
と、ニンが言った。
「でも、大丈夫なのか?」
"頼んで"と"費用"と"機能性"など、複数の意味を持ったケンの質問だったが、ニンは笑顔で「うん」と返事した。
「そのオーガックさんって、どんな人?」
「……怒ったら怖くて、礼儀知らずな人だと追い返されるかな」
オーガック製鉄所。製鉄所というものの、穏やかな丘に煙突付きの小屋があるのみ。所内には、鉄の甲冑や先端が尖った柵、戦闘衣装など、戦闘系のものもあれば、パン屋のつり下げ看板やガラス細工といった、日常でよくみるようなものもあった。どうやら、顧客層は幅広いようだ。
「オーガックさん、お願いします!!」
「お願いします!」
ケン達はオーガックに交渉をしていた。しかし、オーガックは荒っぽい口調で
「お前らに作るものなどない! 帰れ!」
と拒否するだけだった。一行は粘るも敢え無く立ち去ることに。小屋を出てすぐ、アキラは
「ハガネが原因だな」
「俺か? もともと言えばだな」
言い争う2人。こうなった原因は、製作に時間がかかることをハガネとアキラが「もう少し早く、お願いします」としつこく言ったのが原因だ。ケンが時間は急ぎませんとフォローしたが遅すぎた。
小屋から青年が走りながら
「みなさん、待ってください!」
オーガックの弟子であるワークが追いかけていた。
「ニン君、大きくなったね」
「ワークさん! やっと、弟子になれたの!?」
と、ニン。
「師匠は認めてないけどね。一応というか、自称というか。……って、ちょっと! "やっと"ってどういうことだい!?」
ワークは後半笑いながらそう言った。
「"弟子にしてください"って、2年ぐらい……」
「ニン、それ以上言わないでくれ。……師匠は、ああ見えても」
ワークが言い切る前に、
「分かってます。仕事に熱心な人ですし、その仕事に誇りをもってる。だから、余所者に簡単に言われたくないみたいですし、また明日も交渉しに来ますので」
と、ケンは丁寧口調で言った。
「ええ。頑固で口うるさくても内心は」
「ワークさん、オーガックじいちゃんは、地獄耳……」
「おっと、ヤバいな。また、怒られるわ」
と、ワークは笑いながら言った。
「あれニン君、どうしたのその絆創膏?」
鼻の絆創膏についてワークとニンが話す中、ケンたちは今晩どうするか相談している。小屋から近くの村へは距離がある。野宿するか往復するか。
その夜の小屋。食事をした後、ワークが今日の件を言おうとしたが、先にオーガックが溜め息をついた。ワークは口を開けたまま固まった。逃した、言うタイミングを。オーガックは熔鉱炉の調子を見ながら、
「あの子達が持っていた剱は……」
「あっ、えっと、それが、それがどうしたんですか?」
ワークが恐る恐る訊くと、オーガックは
「私の師のモノだ。こうなることは想像出来たのじゃがな……」
「一体、どういうことですか?」
「聞かないでくれんか……。熔鉱炉の様子を見ていてくれ。少し外の空気でも吸ってくる」
オーガックはそう言って外へ。予想と違う展開に、ワークは首を傾げた。「どういうこと……?」
小屋を出て夜風に当たるオーガックはただ一言、
「スディム師匠、あなたならどうしますか……」
星は雲に遮られ、月の明かりさえもあまり届かない夜だった。まるで、返答は得られそうにも無いような空だった。
翌日。ニンが先に製鉄所を訪れた。
「おっ、ニン。また来たのか?」
「うん。……あれ? オーガックじいちゃんは?」
ニンがそれを訊くと、ワークは
「昨夜から外に出てから、帰ってこないんだ」
「えっ?」
「俺、この熔鉱炉を見とかないといけないからさ……」
ワークは鼻を掻いた。タイミング良く、見方によればタイミング悪くケン達が訪問する。
「お邪魔します」
ケンやアキラ達もオーガックがいないことに気付いたのは早かった。突如、
「お前ら、熔鉱炉を見ててくれないか!?」
ワークはそう言って飛び出す。
「ワークさん!」
ニンはすぐにケンの方を向いて、
「ケン兄ちゃん、オーガックじいちゃんが、昨日の夜に外に出てから帰ってこないんだって!」
ニンがワークを追う!
「ケン、追うぞ!!」
アキラがニンを追い、ケンも一瞬躊躇ったが
「熔鉱炉を頼む」
それに続いて、ヤイバが
「任せた」
ハガネの肩を叩く。
「はぁ!? 俺は」
ハガネが言い切る前に、
「いってらっしゃい」とミケロラが手を振る。
「私もお留守番するから」とセーミャ。
「付き合ってらんねぇ……」
ハガネも已む無くヤイバを追う。
オーガックは何処へ。
残った2人は、互いに確認するが、
「ミケロラは、溶鉱炉をどうやって見て管理するか分かるの?」
「正確には知らないけど、オーブンを見るのと変わらないかな?」
*
湖畔。オーガックはカクゴウと出会っていた。
「……あなたの考えは間違っていないと思いますよ」
カクゴウはオーガックにそう言った。それに対してオーガックは、
「しかし、彼らの旅を……」
「構いません。いざというときは、私達が彼らを止めますから」
「……真実を知る者の苦悩か。大変だな」
「ただ、私達が考えていることが"実の真相"である可能性は極めて低いでしょう。あまりにも不特定要素が多すぎます。ですが」
カクゴウは何かを察して
「あなたのお迎えが来たようなので、私はこれで」
カクゴウはその場を去った。少しして、ワークが息を切らして
「どこに、行ってたん、ですか!?」
「年寄りの散歩だ」
そう言って、オーガックは帰路につく。少しして、ニン達と合流した。
「鎧を作ってやるから、代わりに庭の雑草を抜いてくれ」
オーガックが笑いながら言った。ただ、ワークはそれがオーガックの作り笑いであることはすぐに分かった。ニンを心配させないためだと、このときは思った。
それから数日後の朝方、
「鎧が完成したぞ」
オーガックが言った。
「ありがとうございます!!」
待望の鎧完成。子供達の笑顔にオーガックは満足そうだ。
「そうかそうか……。今の技術でできる限りのことはした。軽量化とともに耐久性にも優れている。あと、汗を吸う素材で作ってある」
オーガックが喜んでいる。見た目はよくあるスポーツ用のインナー。色は黒。誰がどう見たって、鎧だとは分からないだろう。胸部は少し素材が違うようで、他は伸縮性が高い。これは、もはや文中で"鎧"と表現しても差し支えないのだろうか? 誤解を生みそうだな。
「剱や弾丸がその鎧を突き破ることは、想定範囲内なら大丈夫だ。余程のことがない限りは擦り傷もないだろう。衝撃については、ある程度までは緩和するが痛いことに変わりはない。無茶はくれぐれもせぬように」
「ありがとうございます」と各々お礼を言った。そのときのオーガックの笑顔は本物だった。
ちなみに、100パーセントなどと言えば、何かあったときの責任問題になるだろう。99.99パーセントとか言えば、非常に稀なケースがあると言える。断定できないのは、販売者や技術者と消費者との難しいところだろうか。
鎧を衣の下に着て、目指すは次なる神殿へ。
To be continued…?
ケンは、あれについて恐る恐る確認する。
「ところで、これは1着……、いくらですか……?」
「普通ならば、今回の全部で車が1台買える値段だな」
分かりやすく換算すると、ざっと1着10~15万円とかだろうか。少なくとも、この国の貨幣価値に換算しようとしまいが、ケン達のお財布事情で買えるわけがない。
「試作品。テストということで、フィードバックをもらえれば、良かろう」
「しかし……」
ケンはそれで、"はい"とは言えない。
「その鎧は、近いうちにあるお客さんに売る予定で、その予算内の試作費用で十分に賄えるから、心配するな」
ただ、それでもケン表情がはっきりしないため、
「では、条件をもうひとつ。ニンのことをよろしく頼む」
オーガックは、ニンに聞こえないように続けて「兄のことを含めてな」と言った。
To be continued…




