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黒雲の剱(旧ブログ版ベース)  作者: サッソウ
第1部 再出発の旅篇
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第1章 錆れた剱

 神託の国の南西に位置する小さな村がある。そこはクーリック村といい、村民は(わず)か十数人である。誰も住んでいない半壊した家が多く、実際は数件の民家と民宿ぐらいしかない。少し離れたところには水飲み場があり、かつて憩いの場であった広場がある。その付近に、民家ではない建物がある。その建物は、(つるぎ)の稽古を行う道場である。

 この国では(つるぎ)を持つことが許されている。しかし、その先端や両端は鋭くなく、人を殺傷する能力はない。ただ、ここ最近では殺傷能力がある剱を保持するものが現れ、国がこれを厳しく取り締まっている。

 快晴。雲一つなく晴れ渡る昼下がり、少年アキラは道場に向かって駆けていく。自分たちの手で建てた道場に戻ってくるどころか、村自体に帰ってきたのは実に久しぶりである。さらに、親友のケンとも会うのも久しぶりだ。笑顔で会おう。そう思っていた。でも道場の扉を開けた直後、その笑顔が消えた。

 入り口の目の前には、(さび)れて何週間も手入れされていない剱が無造作に転がっていた。奥には背を向けたまま座り込んだケンがいた。何も発しない。

 アキラの第一声は「何やってんだよっ!」という怒りの言葉だった。本当は久しぶりだねとか、ありふれた再会の言葉だと思っていたが、あまりの光景に怒りの言葉を放った。こんな言葉を発する自分自身が嫌いになりそうだった。でも、怒りは収まらない。自分たちの手で建てたこの道場は、剱使(つるぎつか)いとして精進するためのものだ。こんな引きこもりのためじゃない。

 重い空気の中、アキラはさらに言葉をぶつける。

「そんなお前に会いたくてここに来たわけじゃない! 今すぐ出て行け! 村のみんなが手伝って、みんなの思い出の詰まったこの道場に、今のお前がいる資格なんてない!」

 何も反応を示さないケンに嫌気がさした。道場の扉を開けたまま、アキラは広場に戻った。


 ベンチに座って村の景色を眺める。皮肉にも、村の光景は変わっていない。アキラの頭が冷えるまで、そのまま数十分が経過した。道場の方に動きはない。

「あれ、もしかしてアキラ君?」

 声が聞こえた。アキラと同い年の少女、セーミャである。クーリック村の村民であり、ケンとアキラとは仲が良い。セーミャのおばは民宿を営んでいるため、よく手伝いをしていた。

「セーミャか……」

「いつ帰ってきたの? 言ってくれれば準備してたのに」

「連絡方法ないじゃん」

「あっ、それもそうか……」

 民宿には電話があるが、個人で持つ携帯電話のようなものは高すぎてほとんどの人が持っていない。公衆電話のようなものもなく、家庭や店に1台あるかどうかといった国である。つまり、電話が鳴ることもあまり無いのだ。

「ケンはいつから?」

「3週間前に帰ってきてから、ずっと村民ホールであの調子なの。何があったか知らない?」

「そうか……。理由はなんとなく分かるけど……」

 嘘だ。僕はケンが何故そうなったのか知っている。でも、何故かこのときは言えなかった。

「ん? 村民ホール?」

 アキラは、呆れたような表情でセーミャを見た。道場として作ったが、2人がいない時はバラエティーに富んだ使い方がされているようで、村民ホールとか村民会館とか言われている。

 アキラはそのままの表情で、セーミャの顔から手元に目線が落ちた。お盆におにぎりとお茶が載っている。

「で、そのおにぎりは?」

「あ、これ? ケンに」

 アキラは手を差し出し

「じゃぁ、僕が届けるよ。ちょっと話したいこともあるし」

 セーミャからお盆ごと受け取って、道場へ戻る。


 ケンの様子は変わりなし。アキラは、ケンの隣にお盆ごと置いて

「ケン、返事しなくても良いから聞いてくれ……。お前と別れてから、光明劔隊(こうみょうつるぎたい)に入隊したんだ。ある情報を探りにだけど。そしたらさ、思わぬお得な情報を入手したんだ。伝説の剱について」

「それで……?」

 "それで?"。気力の無い返答だが、久しぶりにケンの声を聞いた。アキラは、少し間を置いて。いや、どちらかというと間が空いて、

「伝説の剱があれば強くなれる。光明劔隊もそれを探してるみたいなんだが、先に手に入れればこっちのもんだろ。強くなろうぜ、誰よりも」

 少し間が空いた。ケンは

「アキラ、知ってるよね? ……カクゴウとの一騎討ちのこと」

 光明劔隊は過去に、クーリック村を襲撃していた。これほど村民が減った理由がそれだ。そして、ケンは3週間前に、隊長であるカクゴウとの一騎討ちで敗北した。光明劔隊に所属していたなら、アキラも知っているはずだと思っているのだろう。でも、アキラは何も言わなかった。少なくとも、()()に関しては。

 長い沈黙を破ってアキラは、

「その錆れた剱じゃ、どうせ戦えないだろ? ならさ、伝説の剱で強くなろうぜ」

 迷うケン。アキラとケンの会話に若干のズレがあることは、どっちも知っている。もしかしたらわざとかもしれない。言葉足らず、あるいは断言できない理由があるのかもしれない。

 再び、間が空いた。今度は、ケンが

「勝てると思う?」

「そりゃ、勝てるさ。クーリック村で一二を争う僕らの実力と、伝説の剱が持つ神秘の力を掛け合わせたら無限大だろ」

 かなり盛りすぎたかなと思うアキラだが、ケンは

「勝つよ……。次は」

 小さな一歩だが、大きな一歩でもある。


To be continued…

本編では「つるぎ」としか読まないので、ブログに投稿していた時と変わらず、名前を「ケン」で変更せずに始めました。他の名前が出なかったのと、どちらかというと変更が大変なので……。これから始まる『黒雲の剱』をどうぞよろしくお願いします。

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