8話
夕方親父さんに俺は食事をご馳走になりながら話を聞くことになった。
「悪いね。ファミレスで。本当はもっと良いものを奢りたいが生憎とポケットマネーは少なくてね。」
「いえ、話を聞かせてもらえるだけで本当は十分ですから。」
俺の返しに親父さんは肩をすくめてそう言ってくれると助かると言葉を漏らした。
「それで、冬の話ですが。」
「恐らく、君は美谷から話を聞いて僕のところに来た。それで間違いないね?」
親父さんの問いに頷いて答える。
「まず始めに本来これは保護者に伝えるべきであってあくまで一家族であり未成年の君は本来保護者から話を聞かなきゃいけない。これは分かってるね?」
「はい。」
「改めて保護者の方と向き合いなさい。そろそろ大人びた考えも必要だよ。さて、本題に入ろうか。僕はこの件は東京の方の警察組織から連絡があって知ったんだが冬君は女性の拉致現場に出くわしたそうだ。」
冬を犯罪から遠ざけて空手に打ち込むようにしてきたのによりにもよって拉致現場に遭遇するなんて。
「冬君は警察に連絡しながら一人でその犯罪グループに向かって行って女性を助けようとした。ここまでは良いかい?」
「大丈夫です。グループというこたは複数犯だったんですね。」
俺の問いに答えながら話を続けていく。
「その通りだ。相手は四人。そのうちの三人は捕まっているけど一人は逃走中。残り三人の証言から空手をやっていたことが分かっている。けどそれが鬼門でね。恐らく君が一番懸念してることだ。」
俺は話の続きを促す。
「相手は空手をやっていたんだが冬君はその相手に負けたそうだ。幸い怪我も大したことはなかった。ただショックだっただろうね。」
そこから先親父さんが何を言おうとしてるかは想像がついた。
話を聞くと事件が起きたのは冬が大会で優勝したその後。
一番自分に自信が持てた時だろう。それが路上の喧嘩空手に負けたとすれば落ち込むなんてものじゃないだろう。
「今まで本人は気づいてないだろうが、君やうちの子の影ならの努力によって冬君は空手に打ち込めていたんだ。でも、今回はそれが仇となった。他の世界を知らなかったために自分が積み上げた物が信じられなくなったんだろうね。」
美谷の言葉が心に食い込む。「お前に何が出来るの?」本人が意図したかは分からない。でも、俺に何が出来るだろう。今まで喧嘩ばかりで冬を守ってきた俺が。それしかない俺が冬に何をしてあげることが出来るだろう。
俺は冬を守ってるつもりで、冬の事を知ることが出来ていない。知らないうちにすれ違っていたんだ。
「実はね。美谷は君に知らせないようにしていたんだ。美谷から冬君の事がおかしいと聞いたとき僕は美谷に今回の事を話したけど美谷は君が聞いたら君を傷つけかもしれないから教えないようにって僕にしつこくお願いしてたんだ。」
彼女が俺を傷つけるような言葉を、何よりも自分自身を傷つける言葉を吐いたその事実が罪悪感を刺激する。
「でもね、僕は例えどれだけ口止めされても僕は君に伝えるつもりでいた。」
「どうしてです?」
「良いかい?春君。はっきり言って君は今まで辛いことから逃げて来た。自分の両親と向き合わずに、それに冬君を巻き込んだようにしかはっきり言って僕には見えなかった。あげくの果てに今回の事件だ。君は冬君にすがっていたんだよ。」
親父さんの言葉は続く。
「結果として冬君と一緒に君たちは崖に近づいていたんだ。君はもっと自分の周りと向き合いなさい。」
親父さんの言葉には芯があった。だからこそこんなにも腹が立って、でも何も言い返せないのだと思う。
親父さんの言葉は正しいでも、それでもそこしか俺には居場所がないことにこの人も気づいてない。その事実が言葉となって口に出ることはなかった。