7話
進みが遅くてすいません。
美谷が俺に喋らなかった理由は簡単に想像がついた。
それでも喋って欲しくて、口にして欲しくてどうして言わなかったって怒鳴りつけたくなる。
「なんで直ぐに教えてくれなかった。」
怒りで回らなくなる頭を理性でコントロールさせながら、それでも操りきれてないことを自覚しながらも問う。
「知ったからって何が出来るの?さっきも言ったよね?何が変わったのかそれすら私たちには分からないんだよ?それが良いように変わったのか悪いように変わったのか私たちには分からないんだ。それなのにあんたに教えて何が出来るの?あんたが何か出来るの?」
そんな言い訳を喋って欲しかった訳じゃない。本音で喋って欲しい。でもこの思いは届いても無視される。
「出来る出来ないじゃない。理屈じゃないだろ。こういうのは理屈じゃないだろ。家族がおかしいと思ったから危ないと思ったから気にかけてどうにかしてあげたくてそんな感情で動くことがいけないのか?」
思いが爆発する前に美谷の家から出た。
これ以上彼女の前にいると言っちゃいけない言葉が出てきそうで、何より彼女のあの気遣いが、俺を根本から崩して行きそうで自分の価値観が信じれなくなりそうで出ていった。
美谷の言うことも正しかった。冬が犯罪現場に居合わせた。あったのはその事実だけだった。それで冬に何があったのかなんてことは俺にはなにも分からなかった。
でも、きっと冬を変えることが、何か良くない方向に変えることがどことなく分かった。
それは所詮直感という曖昧な物だけど家族に理屈なんて物が必要だとはどうしても思えない。
でも冬に聞いても誤魔化されることは明白だった。
犯罪現場に居合わせた以上警察が動いてることは間違いがなかった 。
美谷の親父さんは署で勤めてる。当時の情報を開示してくれるとは、とても思わなかったがそれでも知りたくて、迷惑をかけることを承知で署まで走った。
署で問い合わせた所美谷の親父さんはすぐに出て来てくれた。
「お久しぶりです。」
「やぁ久しぶり。君が来た理由は想像がついてるよ。冬君のことだね?」
親父さんの言葉に頷きながら頭を下げてお願いする。
「当時の情報を教えてはくれませんでしょうか?個人情報の取り扱いが厳しいのは分かっています。でも冬が絡んだ以上うちの両親に連絡が行ってることは分かってます。本来なら両親から話を聞くのが筋です。それでも親父さんの口から聞かせて貰えないでしょうか?」
親父さんは俺と両親の仲が良くないのも知ってる。そこを利用してのお願いだった。
卑怯なのは分かっていた。親父さんもそれは気づいているだろう。それでも親父さんは真っ直ぐな目で「仕事が終わるまで待ってくれ」とただ一言こぼし仕事に戻って行った。