六話
冬の様子がおかしいと感じたあの日から冬は、付き合いが悪くなったように思えた。
今まで見ていた冬と言う人間に仮面が張り付いたそんな感覚を覚えた。
「冬?お前何かあったのか?向こうで虐められでもしたのか?」
全国大会先で虐められることなど無いだろうと、たかをくくりつつ話を引き出そうしてみる。
でも帰ってくる答えは「なんでもないよ」ただそれだけだった。
違う、そうじゃない。お前に求める答えはそうじゃない。本当の事を喋れよ!
そう言いたい気持ちは頭まで上がっている。でも声が出ない。
怯えてることを自覚した。仮面を被っていてもそれは冬だということを、冬を言葉で傷つけてしまうことを俺は言うことが出来なかった。
美谷と集まって冬の事を二人で話し合う事にした。美谷自信も冬と会ったとき違和感を感じたそうだ。
「あんたの家ではどんな感じ?」
どんな感じもこんな感じもあったものではないのだが、そんなことを言ったときには殴られる恐れがあるため慎重に言葉を選びながら喋る。
「家帰ってから暗くなったとかそういうのじゃないんだ。ただ冬なんだけど冬じゃないっていうか少し大人びたとでも言えば良いのかな?でもそれだけじゃない感じが拭いきれない。」
美谷は鋭い目でこっちを見て「あんたの勘違いじゃないんだね?」とドスを効かせた声で確認してくる。
美谷は昔からこういったトラブルには慎重に動く。俺がひとまず動いて対象するのに対してひたすら冷静に無駄な事はしないように確実に動く。
美谷の変わらないこの態度が頼もしく思える。こいつと一緒ならなんでも出来る。女ながらにそんなことを感じさせるやつだった。
「違う。間違いない」
俺のこの言葉に分かったと言い今後の本格的な打ち合わせが始まった。
冬が変わったのは全国大会より後、ということは何かあったのは全国大会ということで間違いないはず。
次に全国大会の事をしるためにはどうする必要があるかそれが問題だった。
「確実なのは顧問に聞くこと何か事件に巻き込まれたなら顧問が親御さんに連絡を入れてるから顧問か親御さんには連絡が入ってるけどどうせあんたのことだから親との関わりはそんなにないだろうから知らされてない可能性が高い。」
「じゃあ顧問に聞きに行けば良いんだな?」
美谷は頭を振って違うと言った。
「それは最後。それよりも部活の仲間とか応援に行ってたクラスメイトにそれとなく聞く方が大事。あんたほとんど学校も行ってないから急にそんなことを探ったら冬にまで何か影響が出ないとは限らないだろ。」
一つ疑問に思う。
「でもそれ、クラスメイトでも同じだろ?俺があまり良くないのはどこも知っている事なんだからそれでも影響が出るだろ?」
美谷は悪い笑顔をたっぷりと引き伸ばしてこう言った。それは残酷な死刑宣告だった。
「うん。バカのわりには頭を働かせたね。だからお前は今回一切動くな。」
美谷からの連絡を待つこと早2日。あれから俺も何一つ動かなかった訳ではなかった。
美谷に命令されたからと言ってそれをただ聞くほど真面目ちゃんならグレてはないのだ。
俺は冬の外出時に冬の部屋に忍び込み何かあったかどうか物的証拠がないか探ったり、冬が持っている帽子の一つを拝借してあいつの友達に冬のフリをして話を聞いてみた物の対して情報を得ることは出来なかった。
双子というのも存外役にたたないものである。
ひとまず、美谷から中間報告もないのは少し頭に来ていたので、待ちきれなくなった俺は美谷の家に押し掛けた 。
美谷の家庭は父が警察官、母親は教師というエリート家庭である。
美谷からこの二つは働いてる人口が多いから試験も簡単そうに見えるがそうではないと良く言われたものである。
試験が難しい職業はやはりそれなりに収入も多いのか公務員ながらそれなりに大きな家を心なしか緊張しつつインターホンを押す。
はーい。と間延びした柔らかい声が返ってきた。
夏休みもお盆に差し掛かろうとしてるなか家に家族がいるのはやはり公務員家庭の強みなんだと感じながら声の主が出てくるのを待った。
「久しぶり春くん!最近学校で見ないけど大丈夫?元気にしてる?」
久しぶりに会った俺を心配して色々聞いてくれる。この事実に少し暖かい気持ちになるのを感じながら返事を返した。
「お久しぶりです。おばさん。先生って呼んだ方が良いですかね?」
頭を振って答えるあたり美谷の母親なんだなということを感じつつ話を弾ませる。
「良いのよ。今は違う学校だし。本当は担当したかったけど一人教員が辞めて私が代わりに異動になって飛ばされたからね。今でもたまに遊びに行ってるけど春くんを見ないから心配してたわ。」
「ご迷惑おかけしてすいません、美谷いますか?」
少し待っててと言い美谷を呼びに行く。
少し待つこと五分美谷が出てきた。何故だかおばさんもセットだ。
「冬の事何か分かった?」
この言葉に美谷は声を詰まらせながら返した。
「冬が向こうで犯罪現場に居合わせたそうだ。」
「は?」
そんな間抜けな言葉がこぼれる。
「どういうことだ?それは置いとくにしても。それ何時分かった!どうして早く連絡を寄越さない!」
この言葉におばさんがストップをかける。
「春くん待って。ゆっくり美谷から話を聞いて。」
「話を聞くとかそういう問題じゃ」
「知ったらどうにか出来るのか?」
美谷が俺の言葉を遮って小さく呟く。
「知ったからどうしろって言うんだ。お前は知ったらどうにか出来たのか?冬が何で変わったのかそれすらも分からないのに。一時の感情の昂りに任せて冬から根掘り葉掘り聞く?そんなことして何の意味があるんだ?どうするのが正解なんだよ?」
決して声を荒げた訳でもなかった。それでも美谷の声がこんなにも不快に思ったのは始めてだった。
日常が冬を中心に崩れる。その音が耳には聞こえないけど確かに俺たちに響いた。