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依存  作者: ハルカ
5/8

五話

今日は冬が帰ってくる日だ。夏の暑い日差しのなか家に帰るまで質問責めにされることが容易に予想できる。そのため朝からアイスとジュースを買いに街に出ているのにどこにも売ってない。

 いや売ってはいるが冬が好きなアイスは売ってないというのが正しい。

 怪しく思った俺は事情を知ってそうな奴に電話をかけた。

 「美谷さんですか?春です。少し聞きたいことがあるのですが?」

 「死ね」

 電話をかけた瞬間これである。気を取り直してもう一度かける。

 「はい。」

 明らかに怒っていることを感じさせる声音で声が返ってきた。

 「人が丁寧な物言いで聞いたら死ねですか?失礼な人間だな?」

 「いきなり丁寧な物言いで喋ってこられたら気持ち悪いけど?」

 おっしゃる通りである。

 「そんなことはどうでも良いけどさ冬のアイスとジュースを買いに来てるんだけど、何処にも冬の好きなアイスがないんだ?何か知らない?」

 聞いた瞬間電話が切れてかけ直す前にURLが送られてきた。

 開くとあの日美谷に読まされた新聞だった。

 追加でメールが届く。「一面の左端読め」

 「我々の取材に対して彼はこのように答えている。僕が優勝できたのは何時も支えてくれる家族のお陰です。特に兄が時折買ってきてくれるアイスが美味しくてこれを食べると次の日も頑張るぞという気持ちになれます。」

 新聞にはアイスの銘柄まで細かく書かれていた。美谷にお礼のメールを送って俺は家に帰るために足取りを進めた。

 この町の田舎感はただ事ではない。過去に有名アイドルが解散してそのアイドルのCDが全て売り切れるという事件が東京で起きたらしいがこの町はそれが高校生レベルで起きてしまう。

 やれ、地元の学生が東大行ったら3日3晩街をあげて祭りや、やれ、プロ野球選手が出たら旗を作るわ、テレビ局の取材のために過去のエピソードを探し集めたり。

 今回はたまたま冬の方に矛先が向いたに過ぎなかった。

 恐らくもう何処のスーパーにも売ってないことは明白だった。残念だがここは帰って思いっきりお祝いしてあげる方が冬のためになる。

 一度向いた心の向き先は体に速やかに命令を与え冬を喜ばせるための事を足りない頭で考えさせた。

 町が騒がしくなり始めた。冬が搭乗する飛行機まであと2時間。所々出店も出てきている。

 美谷からメールが来た。「出店巡り手伝え。冬が帰ってくるまで時間あるだろ?」家の飾り付けもほとんど終わっていたからメールに従って家を出ることにした。幸い冬と違って俺に対して家族は放任主義なので家にいなくても文句は言われない。

 

 「ういっす」

 「ういっす」

 相変わらずの挨拶を交わす。美谷とはこれぐらい気軽なくらいがちょうど良い。

 「去年も凄かったけど今年も大概だね?」

 「そりゃあ可愛い弟の初の高校優勝ですから。中学とは訳が違うよ。」

 それもそうだと良いながら二人で出店を回る。

 「そういえばまた喧嘩吹っ掛けられたって聞いたよ?」

 一体何処の馬鹿がこいつに漏らしたのか問い詰めたいとこだがそこは黙って話を続ける。

 「あぁいまだに冬に良い思いしてる奴はそこそこいるな。」

 「まぁ町が小さいぶん妬みも大きいからね。冬にバレないように手は回した?」

 勿論と答えてフランクフルトを頬張る。

 こいつとつるみ始めてもう8年になる。同年代の奴は冬の能力に嫉妬はすれど認める奴は決して多くなかった。

 それでも少なくても俺を筆頭に冬を守る集団が出来た。美谷はその最古参のメンバーだ。高校に入って敵は減ったもののやはり一定数いるあたり人の業の深さを感じる。

 「冬もいい加減成長したんだしそろそろあんたも自分のしたいことすれば?」

 美谷言われた言葉が頭を打つ。

 自分のしたいことをしてないという訳ではない。ただ止め時が分からない。

 少なからず今の状況を気持ちよく思ってる自分がいることも事実だった。冬を守るという名目があれば好きに暴れられる。しばらくはグレていられる。

 その思いを表に出さないようにして「なんの話だ?」と美谷の言葉を誤魔化した。

 

 18時35分空港には人が集まっている。ここから部活動のグループが順番に出店と商店街を回り学校に帰還。その後各自家に帰ることになっている。

 俺はクラッカーを持って家に待機する。美谷は俺の事をいまだに気にかけてくれるが商店街ではロクデナシの兄として見られることが多いからだ。

 それでも冬の前では良い兄でいてやりたい気持ちは昔から変わることはない。

 町の歓声が大きくなる。もうじき帰ってくる。そのことが俺の心臓を強く動かす。歓声が少しずつ大きくなる。近づいて来てる。両親もこの時だけは俺の事を認めてくれてる。家族が一体になっていることがたまらなく気持ちいい。

 扉が開いた。パンッ!という音ともに冬にクラッカーを浴びせる。

 「おめでとう!」

 「ありがとう。」

 冬のその笑顔が少し曇っていることに俺は気づいた。


 

 

 

 

ようやく話が動き始めました。

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