一話
スポ根は初めて書きますので暖かい目で見てくださると助かります。
他の作品も完結しろよ?作者ぁ?という読者様の声は受け取りつつなるべく年内には完結させますのでもう少しお待ち下さい。
7月30日武道館
拍手が皮膚を刺すほど大きくなったのと比例しながら僕の感情は昂り始めた。
「全日本」その文字が増え続ける拍手と比例しながら確かにトロフィーの重さに加わっている。
周りを伺うと敗れて泣く人、僕が勝って喜ぶ先生とクラスメイトと部員の仲間たちの涙。
同じ泣くということでもこれだけの違いのある涙を特等席で見て作り上げたことにどこか喜び以外の違う感情を確かに感じながらトロフィーを握りしめた。
8月1日
「暑い…」ぼやけば余計に暑くなるという言葉をよく聞くがあれは間違いである。
人間は暑いのを紛らわすためにぼやいているのではなく、暑さによって貯まったストレスをせめて声に出すことによって放出しようとしているのであってそれは暑さのためではないのである。
余計な考察をしながら地面、空からの熱、そして口元に含む3つの熱に焼かれながらメンソールの風味を味わいつつ肺を膨らませる。
脇腹の痛みが肺に貯まっていた貴重な煙を全て吐き出させた。
「痛ったいなぁ…」不機嫌を感じさせる目付きで相手を見る。知らない相手なら大概これでどうにかなっていた。
そう知らない相手なら。
人に煙草と脇腹の痛みという損害を与えただけでは満足できないのか新聞紙を投げ捨てながらそいつは俺より数段凶悪な目付きで睨み返してきた。
「煙草吸うなって言ったよな?聞こえてんのかあぁ?頭に蛆沸いてんのか?」
ヤンキーの俺よりヤンキーらしい言葉使いをしながらそいつは隣に座り込んだ。
「お前かよ。どうした?らしくない新聞紙なんか持って?煙草をふいにしたことは黙っといてやるから喋れ。」
「お前が私に対して偉そうに言える立場だったことが一度でもあったか?まぁそれは良い。一面読みな。」
痛いところを突かれて何も言えないので黙って新聞に目を落とした。
「天才少年、中学に引き続き高校でもその頭角を表す。」
写真を見ると家でよく見る最近可愛げが減って少しずつ男らしさが性格にもにじむようになった弟の姿が目に写る。
「情けないな~兄貴はヤンキーで弟は新聞に載るような天才少年に。一体何が間違いだったのかね?」
「うるさい!良いんだよ!こいつが結果出してるから家という枠で見ればプラスマイナス0だ!」
自分でも情けない言い訳をしていることを認識しながらも精一杯の反抗をする。
呆れられながらも美谷は会話を続けようとする。こんなダメダメな会話を続けられる、素の自分を出せる相手がいることは貴重だ。
「何時帰ってくんの?弟君?」
「さぁ聞いてないけど来週には戻ってくるだろう。」折角東京に行ってるんだ。さぞこの田舎にお土産を持ってくるに違いないことは想像しながら返事を返す。
「大会終わったら直ぐ帰る訳ではないんだね?」
「そりゃあ向こうにだって大会終わったついでに合宿したりとか色々あるだろうからな。」
二人でそんな意味のない会話をしながらも可愛い弟談義に花を咲かしていた。
いつも美谷には世話になっていた。両親とは俺がヤンキーになってから口も聞かなくなった。
美谷はそんなときいつもストレスのはけ口として俺の話を聞いてくれた。
同時に弟である冬も美谷にはベッタリだった。美谷を中心に回る生活が俺たちの変わることのない日常だった。