14話 ドゥーベからの手紙
更新が遅くなりすみません、今後の展開で行き詰まっておりましたm(_ _)m
「なんですって! 父様、まさか受けた訳じゃないですよね!」
「当たり前だ、早馬で断りの手紙を送り返したわ。」
先日の試合の一件で、アリスの力がバカ王子たちに見られてしまった。
その原因の一端が私の油断が招いてしまった為、誰もアリスを責める事が出来ずにいる。
結局良い案が浮かばないままアリスには暫く学園を休ませるようにしていたのだが、どうもバカ王子達は国へ報告していた様で、今日ドゥーベ王国からアリスへの縁談の話が送られてきた。
その内容がハッキリ言って馬鹿げていた。
『今後、両国の関係改善のため、二国の代表をそれぞれ決め婚姻を結ぶ事を決定した。当国は第一王子ケーレス・シフィリテカ・ドゥーベを、貴国はアリスと言う名の少女を求めるものとする。
これは、今後両国間の和平を維持するた為に重要な婚姻となる事を理解されたし。』
早い話アリスをドゥーベに人質として差し出せ、もし拒否するなら再びレガリアの地が戦火にまみれるだろうと言っているのだ。
あの国は本気で前の戦争に勝ったつもりでいるのだろうか。大した戦果もあげれず、食料不足で撤退するしかなかっただけなのに。
しかしアリスを部屋に残してきて本当によかった。こんな事を聞けばあの子の事だから自分を犠牲にしてでも戦争を回避しようと動くだろう。
父様達も事前に予想をしていたのか、ここにはアリスを除いた私たち家族しかいない。
「それでお父様、会議の結果はどうなったのでしょうか?」
ティア姉様が父様に尋ねられる。今日、ドゥーベ側から送られてきた密書の件で緊急会議が行われた、父様はその結果を今私たち家族に報告してくれているのだ。
「恐らく開戦となる可能性があるだろう。先刻の戦いでは初戦で大敗させたが、その後それほど大きな被害は双方共でていないし、捕虜も全て解放している。
ドゥーベ側としても結局領地を奪えず無駄に軍資金と食料を消費しただけで、未だ国土が荒れたまま国民の食料難は解消されておらんからな。そんな時に出てきたのが次期聖女より強い力を持ったアリスが現れたのだ、ドゥーベ側からしたら喉から手がでるほど欲しい存在なはず。しかもアリスは王族ではなくメイドか何かと勘違いしているのだろう? まさか断られるはずもない内容を断れば、あの国の王の事だ、頭に血が上って宣戦布告をしてくるに決まっておるわ。」
「開戦ですか、会議に出られていた家臣の反応はどうだったのですか?」
開戦と聞いて兄様が敏感に反応される。学園を卒業されてからは次期国王としてのいろいろ公務を任せられているが、まだ会議に参加出来るほどには認められていない。
「心配せずと家臣全員一致での答えだ。」
「全員一致ですか? アリスの存在はまだ全員には伝えていないのではないですか?」
「今回の件で家臣全員に教えられたそうよ。」
兄様の疑問に母様が答えてくださる。確かにいかに理不尽な内容であれ、何も知らない家臣からすれば王族でも貴族でもないアリス一人で戦争が回避できるなら、それに越した事はないと考えるのが筋だろう。
いざ命のやり取りをするにはそれなりの理由が必要なのだ、一人でも戦争に疑問を持ってしまったらそこから歪みが生まれてしまう可能性がある。先刻の戦争は攻められたから反撃したという理由があったが、今回は回避出来る可能性があるため、開戦せざるを得ない理由を家臣一同に知らしめる必要があったのだろう。
「知らぬ者は大そう驚いておったが、四大公爵が揃って力説すれば揃って納得しおったわ。
もっともドゥーベのバカ共には全員いい加減頭にきておったからな。先刻の戦争では血を流さぬよう消耗戦に持ち込んでやったというのに、それを自国が勝ったかのように勘違いしておる。それに今回の婚姻の件にしろ上からの物言いに、家臣達が会議で大そう荒れとったわ。」
何処となく機嫌がいい父様、余程ドゥーベから届く書状に頭にきていたのだろう、戦争が休戦になってからも向こうから食料援助や資金援助……いやこの場合賠償責任と言った方がいいのかもしれないが、バカみたいない内容の書状が届いていると聞いている。
当然レガリアとしてはそんな物を用意する責任もないし、戦争を吹っ掛けてくる相手には義理すらない。
「戦の準備はどうなっているのでしょう?」
「その点は抜かりない、元々休戦状態だったため兵達には交代で休暇は与えたが、未だ警戒態勢は解除しておらん、すでにディオンが軍の強化に当たっておるわ。それに万が一国境を越えられたとしてもセネジオが国境付近の街や村に騎士団を展開させる手配になっているから、民達に被害がでるような事はないだろう。」
私が思っていた事を先に兄様に言われてしまった。
父様の話に出てきたディオン様はジークの父親であり、この国の防衛軍部の騎士団長を務めるハルジオン公爵、そしてセネジオ様はアストリアの父親でこの国の国内軍部の騎士団長を務めるサイネリア公爵家。
お二人共父様と大変仲が良く、またセネジオ様はアリスの父親であるカリスさんの上司にあたり、セリカさん達が亡くなった現場にいた方。あの日二人を守れなかった事を悔やんでおられ、セネジオ様は未だにアリスの事を気遣って下さっている。
「それでアリスは今後どうなるのでしょうか?」
戦争が回避出来るのは難しいかもしれない、だけど今後アリスはどう過ごしていくのか、私にはそれだけが気がかりで仕方がなかった。
「アリスにはしばらく城で過ごしてもらう事になるわね、場合によっては学園を辞めてもらう事になるわ。」
「待ってください母様、学園を辞めさせるって……」
母様が言ってる意味は当然の事かもしれない、だけど学園をやめさせるって……
「ミリィ、貴方も一国の王女ならわかるでしょ。お母様達を困らせてはいけないわ。」
私が母様に反論すると姉様が少しキツい口調で止めてくる。姉様もアリスの学園生活の事を喜んでくれていたのを知っているから、きっと私と同じぐらいに辛いだろうに王女としての責務を精一杯果たしている。それが分かるだけにもう何も言えなくなってしまった。
その後は今後私たち王族がどう動くかや、豊穣の儀式をどうしていくかが話された。
二つの国がまともにぶつかり合えば多くの血が流れる事になる、それは今の状況では大地に好ましくないのだ。最悪邪霊を生み出す事だって考えられるという。そうなれば普通の武器では対処出来ずに両軍とも戦争どころではなくなってしまい、近隣の街や村まで被害は広がるだろう。それを回避するために姉様や巫女達が軍に同行し、適切に儀式や精霊による浄化を施すのだと言う。
そして肝心の豊穣の儀式はというと……
「……アリスにはこの際自分の出生の事を話そうと思う。」
会議の報告と今後の段取りを話し終えた父様が最後に躊躇いながらそう呟いたのだった。