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正しい聖女さまのつくりかた  作者: みるくてぃー
第2章
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12話 神の器

8年前の事件の日、私が駄々を捏ねて姉様が遠くに咲いているピンク色の花を摘みに行った時、不意に現れた刺客に襲われた。

姉様を助けてくれたのはセリカさん。しかし自身を盾に庇った為深い傷を負ってしまった……。




「セリカ! しっかりしてアリスを置いていくつもり!」

アリスの父親はすでに事切れていたが、幸いにもセリカさんの傷は致命傷を外れていた為、まだ意識があったのだ。


あの時ほど必死の母様を見た事がない。

セリカさんは母様が結婚する前からの付き合いで、唯一友達を言える人物だったらしい。

今の私とアリスのような関係……。

私が今、アリスを失ったとしたらどうなるだろうか。恐らく怒り狂い、刺客はおろか敵国まで乗り込んで、自らの命が尽きる間で敵兵を切り刻み続けるかもしれない。己が王女という立場を忘れて……


セリカさんはすぐに駆けつけた医師により治療を受けさせることができたのだが、父親を亡くし母親まで傷つき倒れた姿を間近で見てしまったせいで、アリスは精霊を暴走させてしまった。


風が荒れ狂い、雷雲を呼び、いかづちを降らせた。

そんな力を当時6歳の子供の体に耐えられるわけもなく、アリス自身も深く傷ついてしまった。

泣き叫ぶアリスは医師が用意した薬品でノエルが眠らせたが、その後三日間眠り続けた。


アリスが眠り続ける中セリカさんの治療が進められたが、刺された短剣に猛毒が塗られており、手の施しようがなかったらしい。

辛うじて巫女たちによる癒しの奇跡で命を止めることが出来たが、それはセリカさんをただ苦しめ続けるだけだった。


全てを受け入れ、苦しみ続けるセリカさんは母様に語ったそうだ。


聖女とは神の力をその身に一時的に宿す為の器。儀式の際、神が聖女に乗り移り大地に掛けられた呪いを中和する。

その過程で聖女は自らの力を解放し、白銀のオーラを纏い神を迎い入れるのだと。


しかし体が未成熟の場合、聖女の力を解放する際に纏う、白銀のオーラの力に耐え切れず、最悪の場合死をもたらしてしまう可能性があるのだという。


その事を不安に感じた神は、聖女が儀式に耐えられる年齢まで力を抑えるある特殊な鍵を掛けた。

もしその鍵が解けた場合、聖女はの真の力に目覚め自らの意思で白銀のオーラを纏えるのだという。


これは何代も聖女を生み出す事が出来なかったレガリアでは、失われてしまった伝承である。




「ちょっと待て、じゃアリスその神が掛けた鍵が外れている事にならないか?」

アストリアが言った事は先ほどの光景を見れば誰もが思う事。

あれは誰が見てもアリスは白銀のオーラを纏っていた。


「ですが、セリカ様はアリス様が16歳になるまで儀式をさせるなと言い残されたのではないですか?」

「リリスの言う通りよ。アリスの体は真の聖女の力を宿すにはまだ未成熟なの。」

リリスとルテアに伝えてあるセリカさんとの約束。

アリスはまだ14歳、真の聖女の力を具現化させるにはまだ2年足りないのだ。


「じゃなんで鍵が外れてるんだよ。」

「外れてないのよ、あれで。」

神が掛けたとされる鍵は確かに外れていない。

これはセリカさんも確認されているし、巫女たちの見聞も同じだった。


セリカさんが言うには神が掛けた鍵は、一時的な感情によりある一定の力まで外す事が出来るのだという。

これは誰かを助けたい、自分を守りたい等の自己防衛の手段で、その時その時の感情で解く事が出来るそうだ。

ただこれもある種のセーフティが掛かっており、自身の命が関わるような力までは引き出す事は出来ないし、その後は再び鍵が掛かるようになっているらしい。


だけどアリスの場合、もともと持っていた力が余りにも巨大すぎたのだ。

あの日、精霊を暴走させた事でアリスの力はセリカさんの、いや歴代の聖女の力を大きく上回っている可能性があった。

そもそもいくら聖女であっても、その力を具現化出来るのは10歳前後だと言われているのだ。

それをアリスは生まれてすぐ発現させて見せた。

私が知っている限りでも4、5歳の頃にはすでに花を咲かせたり、傷を治したりしていたのだから。



「つまりは、神様が掛けた鍵では抑えきれないという事ですか?」

「ええ、特に感情が高ぶった時なんて完全な聖女の力が具現化されてしまうのよ。さっきのようにね。」

リリスの言う通り神が掛けた鍵ではアリスの力が抑えきれない。

普段の生活にはなんら支障はないが、先ほどのように怒りが高ぶったりした場合はその力が表面上に出てしまうのだ。


「だからアリスの体を心配していたと言うわけか。」

「分かっていると思うけど、アリスの力はこの国の運命を左右するわ。あの子にもしも何かあれば……」

「あぁ、分かっている。」

アストリアとジークは共に騎士としてこの国と国民を守る使命を帯びている。

その中には当然アリスの存在も。


セリカさんはこうも言っていた。

アリスの力は歴代の聖女よりも遥かに大きいだろう。

もしこの子の力が真の意味で覚醒したのならば、その時はこの国に掛けられた呪いを完全に浄化出来るのではないかと。


全てを話し終えたセリカさんはアリスに最後の言葉を残して、笑顔のまま息を引き取った。


そして傷ついたアリスが目を覚ましたのは、セリカさんが亡くなった二日後だった……。


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