11話 聖女の器
私は許せなかった。
私の大好きなミリィに対しての嫌味、私の両親が愛したレガリアに対しての侮辱の全てが。
正直戦争の事は分からない。でもレガリアの人たちが頑張って築き上げた領土を踏みにじるなんて、誰であってもやってはいけない事だ。
ミリィとロベリアさん戦いは、誰が見てもミリィの勝ちであることは分かった。
それなのにロベリアさんは負けを認めない。あれだけ言いたい放題言っておいて、最後の責任を放棄した。そんなちっぽけなプライドなんてどうだっていい。
こんな人が一国の王女? ましてや国の運命を司る次期聖女だって?
ふざけないで、お兄様が、お姉様がどんなに国のことを思っているか。ミリィはたしかに精霊さんとの相性はそれほど高くない。でもそれが何? ミリィは聖女じゃなくても精一杯王女としての役割を果たそうと努力しているのに。
もう一度言う、試合は終わった。
そう、これ一対一の試合なのだ。喧嘩でも殺し合いでもない。
部外者が乱入? ありえない、今後国の中枢を担う人がこんな簡単なルールすら守れないなんて。
今の私は心の中で深く怒っている、その感情に合わせて一気に精霊達が集まって来た。
ごめんミリィ、約束守れないや。
「いい加減にして!」
ジーク様とアストリア様が一瞬ミリィを助けようと行動に移しかけたが、ほんの僅かだけ私の方が早かった。
卑怯な横やりをしようとしたシオンさんが吹っ飛んだが、どうでもいい。
今の私は多分思っただけで精霊達が動いてくれる、そんな気がするのだ。
「約束しましたよね。ミリィに謝るって。」
「ひ、ひ、ひ……」
私は一歩づつロベリアさんに近づく。
「た、たすけて……」
なんだか私に怯えてるは分かるけど、今聞きたい言葉はそんなんじゃない。
今の私は彼女にどのように映っているんだろう。仮にも聖女を名乗るなら今の私の背後にいる、無数の精霊達のによ怒りの歌が聞こえるはずだ。
「落ち着きなさいアリス。」
「ミリィは黙ってて。」
私は低い声で答える。私だって怒る時は怒るんだから。
「あぁもう、ちょっとロベリア。あのバカ達を連れてとっと逃げなさい。アリスがキレたら私でも止められないんだから。」
ちょ、何言ってるのよミリィ。見境なしに暴れたりしないわよ。
私の前にミリィが立ちふさがり、ロベリアさん達を逃す。って、これじゃ完全に私が悪役じゃない!
ロベリアさん達は辛うじて侍女のライムさんとフィーナさんに連れられて出て行った。
心配しなくて背後から襲ったりしないってば。
「アリス、もういいから精霊達を帰らせなさい。ルテア達が怯えてるわよ。」
ルテアちゃんとリリスちゃんが?
ミリィに言われて見てみると、建物内に吹き荒れる暴風に、怯える二人の姿があった。
「わ、わたしは……。」
「はいはい、落ち着いて。」
自分では冷静だと思っていたのに、心のどこかで暴走させていたのだ。
友達を怯えさせてしまった。
その事実に耐え切れず、その場で崩れる私をミリィが支えてくれた。
「ごめんなさい。」
「初めて見たが、さっきの力ってあれか?」
アストリア様が言ってるのは無意識に精霊さん達を呼んでしまった私の力。
あの後、建物に異変を感じた生徒会長さんが駆けつけてきた。
ミリィと何かを話していたみたいだけど、取り敢えずゆっくり話せる場所にと言うことで、生徒会室へ移動したのだ。
「ごめんなさい。」しゅん
開口一番この部屋にいる皆んなに謝罪する。先ほどと違い今は至って冷静だ。
私にもよく分からないけど、時々感情の起伏に反応して精霊達が寄ってくるのだ。
「アリス、体は大丈夫なのよね。さっき倒れかけた時にどこも打ってないでしょうね。」
「大丈夫です。ちょっと自分がやらかした実情に耐えられなかっただけです。」しゅん。
丁寧な口調になるのは仕方がない。反省しております。
「まぁ、私も助かったんだし怒るつもりはないけど。ちょっとマズイわね。」
「あいつらに見られたのは厄介だな。しかも偽物とはいえ、聖女に見られちまうとは。」
「偽物?」
ミリィと生徒会長が話しているけど、偽物ってどういうこと?
「アリスは気にしなくていいのよ。それより、ちゃんと二人には謝っておきなさいよ。」
うぅ、そうでした。まだルテアちゃん達にちゃんと謝っていなかった。
「大丈夫ですわ、私たちの方こそ怯えたりしてごめんなさい。」
「そうだよ、アリスちゃんは悪くないんだから。」
「ごめんね二人とも。」
私たちが肩を寄せ合いながら話をしていると、入り口のドアがノックされ、扉から入ってきたのは……。
「お姉さま!?」
「私が呼んでおいたのよ、まさか姉様が来るとは思ってなかったけどね。」
「アリス体は大丈夫? どこか痛いところはないの?」
痛いところ? 体を試しに動かしてみるけど別になんともない。
「大丈夫みたいですが。」
「ならいいわ。ミリィ、貴方はどうする?」
「私はもう少しここに残ります。姉様、アリスをお願いします。」
「えっ、私だけ先に帰るの?」
私の知らないところでどんどん話が進んでいる。
「私もすぐに帰るから、先に戻って休んでいなさい。」
「うぅ、わかりました。」
大失態を犯してしまった私は素直に帰ることにした。
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「おい、どう言うことだ。ミリアリアもティアラ様もアリスの体を心配していたようだが。」
アリスが帰った後、今後のことを話し合うために私は残った。
まったくアストリア妙なところで鋭いんだから。
「さっき、アリスが白銀の光を放っていたのは見たでしょ? あれが正真正銘の聖女の力よ」
「正真正銘ってどういう事だ? 今までだって癒しの奇跡や、汚れの洗浄なんかで見てきたのは違うって言うのか?」
「あれは只、精霊の力を具現化させているだけ。少なくとも人間として《・・・・・》『言葉』で会話をしているのよ。」
「ですが聖女の力は16歳になるまで使えないのでは?」
確かにリリスとルテアにはそう説明したが、ある意味間違いである。
「セリカさんから言われているのは16歳まで儀式をさせないことよ。それは聖女の力にアリスの体が耐えられないから、別に使えないわけじゃないのよ。」
ここまで関わらせてしまったからには話さなきゃいけないだろう。
ここにいるメンバーにはこれからも助けてもらわなければならない。
そして私は語り出す……8年前、亡くなる間際にセリカさんが残した言葉を……。