2話 隣国よりの編入生達 (裏)
「悪いわね、明日から学校が始まるっていうのに。」
突然降ってわいた隣国からの編入生達の話に、昨日は城に学園の理事長を呼び寄せ緊急会議を開いた、その結果をリリスとルテアには事前に話しておく必要があると思い、急遽呼び寄せたのだ。
無意味な戦争が終わり、ようやく静けさを取り戻したというのに、頭の悪い隣国は新学期が始まる二日前に編入生をビクトリア学園によこすと言ってきたのだ。
それがただの生徒なら問題なかったのだが、よりにもよって王族を送ってきた、こちらとしても編入自体に規制がない為、無下に断る事も出来ず、昨日一日緊急会議をする羽目になった。
「それで相談というのはどのような事なのでしょうか?状況から察して緊急性の高い事だとはわかりますが。」
さすがリリス、話が早くて助かるわ。
「実はね昨日ドゥーベがバカな事を言ってきたのよ、ヴィクトリアに編入生を入学させるってね。」
「はぁ?」
「えっ!?」
二人が驚くのも無理が無い、戦争が終わったとは言ってもまだ休戦の状態なのだ、そんな中敵国に自国民の学生を送るとか馬鹿としか言いようがない。
それにしてもリリスがこんなにも素を出した顔は何年振りだろう、おそらく本人は気づいてないだろうけど。
「それはスパイの可能性があると?」
「まぁ普通はそう考えるわよね、でもその可能性は少ないわ。」
「でもミリィちゃん、スパイじゃなければ向こうには何の得があるの?」
二人が迷うのも当然だ、私達だって最初はそう考えたけれど、最後には会議出席者全員一致で違う答えにたどり着いたのだ。
「ドゥーベ側の目的だけど、今あの国は先の戦争のせいで国土が著しく疲弊しているの、その為国内はひどく荒れているそうよ、そして国民の怒りは当然腐敗政治をしている王侯貴族にいくわ、あの国の汚職は広く知られているからね。」
「つまりは呑気に国の学園に通わせていたら、場合によって我が子が制裁の対象になる恐れがあるから、安全な他国に留学させる、と言うことでしょうか?」
「でもだからって、戦争をしたばかりの国を選ぶのはおかしくないですか?」
ルテアが不思議がるのも分かる、私達も昨日その事で議論を繰り返したのだげ、出た答えは馬鹿げた推測しか思い当たらなかったのだ。
「あの戦争の後ドゥーベ国内にはね、自国の勝利で戦争が終了したと発表したそうよ。」
「「 はぁ? 」」
まぁ、そうなるわよね、現実とは大きくかけ離れてるんですもの。リリスの素の顔がルテアにまで感染しているわ。
「つまり向こうは、敗戦国であるレガリアは自国の支配下、程度にしか思っていない可能性があるのよ」
「まさか、そんな馬鹿げた結論を我が国の上層部が認めたわけではありませんよね?」
「私達だって信じられないわよ、けれど諜報部の連絡では軍部が度重なる敗戦を隠す為、国への報告にレガリアがドゥーベを攻めきれなかった、なんてバカな報告書を上げ、上層部はそれを疑いもなく容認したらしいわ。」
「・・・バカなんですか?」
だよね〜、私だって自分で言っといて何だけど今だに信じられないし、子供の使いじゃあるまいし馬鹿げた事を言ってるとすら思うもの。
けれど他に理由が見当たらないのが昨日の会議者全員の結論だった。
「それで一体どのバカな貴族が来るのですか?」
リリスは頭を抱えながら納得させているようだ、私は大きなため息を付いてその後を続ける。
「ドゥーベからの編入生は全部で5人、一人は侍女らしいから除外、もう一人はただの伯爵の令嬢だからこれも問題ないと思うわ、それで残り3人が問題なのよ。」
私は再び深くため息をついてリリスの問いに答えた・・・
・・・・。
「大体は分かりましたが、いったい何を考えているのでしょうか、仮にも自国の聖女をよこすとか。」
やってくる編入生メンバーを説明し、リリスが最初に反応したのがドゥーベ王国の王女であるロベリア、現在あの国の聖女は王妃であるマグノリアが名乗っている、その為娘であるロベリア王女が次期聖女と言う事になるのだ。
「正確には聖女の娘ね、もっともどこまで力があるのかは知らないけれど。」
「だからアリスちゃんはこの場にいないんだね。」
「ええ、適当な用事を付けてティターニア公爵家に使いに出してるわ。」
明日になれば編入生の事は分かってしまうんだけれど、今からする話はアリスに聞かせられないからね、しばらく戻ってこれないように王都にある母様の実家に使いに出し、しばらく屋敷に留まらせるよう公爵家に言ってあるのだ。
「それより問題なのはシオンとか言う子息ですね、よりにもよってモンジュイック家とは。」
「それってアリスちゃんの・・・、お母さんの実家って事だよね。」
二人ともアリスの事情を知っているから、私が一番悩んでいる事を的確に理解してくれたらしい。
「アリス様はやはりまだ、知らないのですよね?」
「ええ、今はまだ話す時ではないからね。」
「すると困りましたわね、嫌でもシオンとか言う輩のフルネームが、どこかで必ずアリス様の耳に入ってしまいますわ。」
そうなのだ、アリスの名前はアリス・アンテーゼ、そしてセリカさんの本名はセリカ・アンテーゼ・モンジュイック。
セリカさんはモンジュイックの名前を隠し、ミドルネームをファミリーネームのように名乗っていたから、アリスもそのままアンテーゼがファミリーネームだと信じているのだ。
セリカさんも素性を隠すならアンテーゼを名乗らなければよかったのに、一般市民にファミリーネームが無い事を知らなかったらしい、その辺りはさすがアリスのお母さんだとは思うけど。
「取りあえず向こうにアリスの出生がバレないよう、アンテーゼの名前は適当な事を吹き込んで、学校では名乗らないように言うつもりよ。」
「適当な事って・・・いえ、アリス様なら大丈夫ですわね。」
リリスは少し考えた末納得してくれたようだ。
アリスってかなりちょろい・・・コホン、純粋だから簡単に信じてしまう癖があるのだ。
「それで相手の名前、えっとジオン・・・でしたっけ?」
「シオンよ、シオン・アンテーゼ・モンジュイック。」
「そう、そのシなんとかの名前をアリス様にどう誤魔化すおつもりなので?」
名前すら覚えたくないんだね、リリスが嫌がってるのが手に取るようにわかるわ。
「そっちはアリスはアンテーゼがファミリーネームだと信じてるし、母親が他国から来たことも知っているわ、だからセリカさんは商業都市ラフィテルからレガリアに来たという言う事にして、ファミリーネームだと信じこますのよ。」
「そっか、ラフィテルはお金持ちさんとか多いから、ファミリーネームを持っているがたくさんいるもんね。」
「しかしいくら何でもその程度の事で・・・・・いえ、行けますわ、アリス様なら必ず信じ込むはず。」
考えた私が言うのもなんだけど、リリスの中でのアリスはどんな扱いなのか気になるわね。
「後はクラス編成なんだけど、ユリ組に私とアリスそれにジークを入れたわ、ドゥーベ側は王女とシオンを迎える予定よ。」
「ジーク様がおられるのなら万が一は大丈夫でしょう。」
「ええ、それにシオンの名前は後で気づかれるより、先に聞かせて対応したほうが安全だからね。」
「私もその方がよろしいかと思いますわ。」
「それで二人にはバラ組で伯爵娘の方をお願いしたの、監視の意味も込めてね。」
「分かりましたわ、それで残り一人はどうされるおつもりで?」
残り一人、これがまた厄介な人物なんだ、なんでこうも頭の痛い連中ばかりを送り付けるのか、もしや新手の嫌がらせなのかと疑いたくなるわ。
「そっちはキク組でアストリアに任せる予定よ。」
「そうですね、アストリア様なら大丈夫でしょう・・・。あと今回パフィオさんはどうなさるおつもりで?」
リリスが気になるのも仕方がない、パフィオはもともとアリスの護衛を秘密裏に頼んでいた事は二人に伝えてある。
「今回あの子に関わらすつもりはないわ、契約も切れているし、伯爵家の息女なのに二年間もスチュワートに通ってくれたのよ、これからは普通の学園生活を送らせてあげたいのよ」
そしてその上でアリスとも本当の意味で友達になってくれればと思っているんだ。
「ミリィ様はパフィオさんの事を甘く見られているんですね、あの方は頼まれたからと言ってアリス様の傍に居たわけではないと思いますわ。(あの方の近くに居れば、誰でも気づかないうちに魅かれてしまうんですよ。ミリィ様も意外とにぶちんなんですから。)」
「リリスの言う通りなのかもしれないけれど、本来私一人で解決できるのが・・・」
「ストップですわ、これ以上言ったら本気で怒りますわよ。」
「ミリィちゃんの気持ちもわかるけど、アリスちゃんは私達の友達でもあるんだよ、置いてきぼりはもうヤダよ。」
そうだったわね、二人の気持ちに感謝しながら私はこう言ったのだ。
「ありがとう。」
最後までお読みいただきありがとうございます。
次回 第3話 「嵐の予兆」
金曜日更新予定です。