50話 それぞれの未来へ
ドゥーベ王国からの一方的な戦線布告から約一年、当初こそ奇襲により領内に攻め入れられたりはしたが、王国騎士団の奮戦により奪われた地域を取り戻し、イーブンの状態までもどしていた。
もともとレガリアにドゥーベの国土を占領する意志はなく、自国内から敵軍を追い出すことに成功した後は、国境沿いに徹底した防壁とレガリアの一翼である黒騎士団を配置し、侵入をにを阻止することに徹底した。
その後小さな衝突を繰り返したが、産業や貿易が盛んなレガリアに比べ、財政状況や食糧難が厳しいドゥーベは次第に自己崩壊していった。
そして数日前、共に隣国であるレグルス王国の仲裁により、賠償金無し、両国の捕虜を無条件解放、今後両国共一切の請求や要求をしない事を条件に、ようやくドゥーベ国軍との停戦協定が結ばれることとなった。
レガリアとしては領内を荒らされた上、最終的に優勢に立っていた立場なので、賠償金請求や捕虜の強制労働等を課してもよかったのだが、ドゥーベからの理不尽な人道的支援を要求されたら困るのと、あちらの国内情勢の面子を考慮した上で、『今後両国共一切の請求や要求をしない事』を条約に入れ、同盟国であるレグルスに仲裁の依頼をしたのだ。
結果、内部崩壊寸前だったドゥーベはこの条件を受け入れ、無意味だった戦争が終結することとなったのだ。
ただドゥーベ国側では停戦の条件が平等だったのを勝手に解釈を変え、レガリア軍が攻めきれなかったと国民に発表し、勝利の喜びに湧き上がったとされていた。
「ココリナちゃんおめでとう、来年からはお城勤めのだね。」
「ありがとうアリスちゃん。」
あれから一年、私達はスチュワートで学び成長した。
ココリナちゃんは王妃であるお母様からの要望もあり、お城の宮廷侍女になる事が決まりました。
ただ要望があったとはいえ、宮廷侍女の試験は見事主席で合格しているので、ココリナちゃん自身の実力といえるんです。
「これからはお城で会うかもしれないね。」
「ん~どうかなぁ、一年間は見習い扱いだしお城の敷地ってすごく広いから、それにアリスちゃんがいるのって王様たちがいるプライベートエリアでしょ?あのエリアだけは決められた人しか入れないそうだから難しいんじゃないかなぁ。」
たしかにお城にはたくさんの侍女さんがいらっしゃいますからね、お会いしたことが無い人だってたくさんおられるんです。
「リリアナさんはライラック家でお勤めされるんですよね。」
「はい、エスターニア様付きの侍女になる事が決まっております。」
もともとご両親がライラック家にお仕えされているので、お勤め先は決まっていたんです。
それに実は、戦時中だった為先延ばしになっていたのですが、エスターニア様とエリクお兄様との婚約が決まっており、間もなく一般に公表される予定になっているんです。
「カトレアさんはルテアちゃん家に行くんですよね。」
「アリスさん、そんな友達の家に行くような感覚で言わないでくださいよ。」
カトレアさんはエンジウム伯爵家にお仕えする事になっているんです。
私の知らない間にルテアちゃんと仲良くなっていたそうで、ちょっと嫉妬しちゃいましたよ。
「それにしても驚きましたわ、プリムラさんがご婚約されたなんて。」
イリアも知らなかった衝撃の事実、プリムラさんのご実家がお商売をされている関係で、好意にされている商家の方との婚約が決まったそうなんです。
「婚約といいましても親が決めた政略結婚なんですよ。」
そうおっしゃっていますが、プリムラさんも満更ではないご様子、なんでも仲が良かった幼馴染なんだそうです。
「ユリネさんはイリアのご実家にお勤めされるんですよね。」
「はい、イリアさんのご厚意でクリスタータ家にお仕えする事ができました。」
イリアの一番上のお兄さんラクティア様からご要望があり、ユリネさんはクリスタータ男爵家にお仕えされることが決まったんです。
一年半ほど前の事件でイリアがスチュワートに通っていた事実を知った男爵様は、貴族の権限を使いイリアを母親から男爵家に引き取られたそうです、なんでも元々ヴィクトリアに通う為に用意していた入学金を、母親達が無断で使い切ってしまい、何も知らされないままスチュワートに入れられたそうなんです。
現在イリアは一人男爵家に戻り、一番上のお姉さんの元、日々淑女の教育を受けているとか、最近ではよく会話の中にお姉さんの自慢話が出てくるぐらい仲がいいそうです。
「パフィオ様はヴィクトリアへ編入されるのですよね。」
「イリアさん、その様付けはよしてください、学園にいる私はただの一生徒ですから。」
パフィオさんが伯爵家の令嬢と知ったイリアは、それ以来ご令嬢として言葉を選ばれているんです。これもお姉さんの教えだそうで、パフィオさんの言い分を取り扱ってくれないとか、私に対しても結局いつの間にか様付けになっているんだから、イリアって意外と頭が固いだよね。
もともと伯爵家のご令嬢だったパフィオさんはヴィクトリアへの編入が決まっていたそうなんです、ご本人は女性騎士を目指しているから、卒業後騎士団に入るのを望まれたそうなんですが、ご両親やお兄さんお姉さん達から説得され編入を受け入れたそうです。なんだかんだと兄妹で一番末っ子のパフィオさんが可愛いんだそうですよ。
それにしてもなぜスチュワートに通われていたかは最後まで笑って教えてくれなかったんです。
「イリアは本当にヴィクトリアに行かないの?」
「はい、男爵家に負担は掛けられませんし、別の学園でも十分学べますから。」
イリアはヴィクトリアではない別の学園に編入する事を望まれたんです。なんでも領地の農業開発技術を一から学びたいそうで、最近では週末に領民の声を聴くために王都と領地を行き来しておられるんです、本人が決めた事なので私からは何も言えないんだよね。
「学校は別になりますが、私くしアリス様や皆様と出会えた事、スチュワートで一緒に学べたことは生涯忘れません。それに必ず領民に慕われる人間になり、再び皆様に会いに来ると誓いますわ。(アリス様に出会えたことは私にとって幸運でした、今のままではお近くにいる事さえふさわしくありませんが、次にお会いできる時には必ずお力になれるよう、日々精進してまいります。)」
そして私はと言うと・・・。
「アリスちゃんもパフィオさんと一緒にヴィクトリアに編入するんだよね。」
ヴィクトリアへの編入が決まっているんです。
お母様がおっしゃるには、立派な侍女になる為に一般教養はもちろん、大勢のご令嬢の中で淑女の理を学ぶ必要があるそうなんです。
そんな事スチュワートでは習わなかったんだけど、なんだか最近騙されているんじゃないかと疑ってしまいます。
「ねぇ、立派な侍女になるの為に、ヴィクトリアに行く必要ってあるのかなぁ、なんだか最近お母様に騙されてるんじゃないかって思うんだよねぇ。」
(さすがのアリスちゃんも気づき始めてるよ。)
(気づかれては行けませんわ、何としても誤魔化すのです。)
(私達の命が掛かっているんですから。)
(ユリネさん、それは言い過ぎです。)
「何皆でこそこそしてるの?」
「な、何でもございませんわ、アリス様の目指す侍女はセリカ様なんでしょ?でしたらヴィクトリアに通われるのが一番の近道ですわ。」
「そうそう、王妃様がアリスちゃんを騙す訳なじゃない。」
「それにヴィクトリアにはお友達もいらっしゃるんでしょ。」
「そうなんだけど・・・、自信もってもいいのかなぁ。」
「「「「「「「 もちろんです(わ)。 」」」」」」」」
(さすがアリスちゃん、あっさり信じた。)
(こんなにちょろい、いえ、純粋だと助かりますわ。)
(だからアリスちゃんの事は嫌いになれないのよね。)
(((((((( ふふふ ))))))))
かくして少女達の一つの物語が終わりを告げ、そして新たなるページが刻まれていくのです。
今回で第一章終了となります。
次回より第二章 ヴィクトリア編になります、今まで1日1話を続けていましたが、しばらくは少し執筆間隔が空いてしまいます。楽しみにしておられたらすみません。
二章は舞台をヴィクトリアに変え、メインのサブキャラもごっそり変わります。
(出ないわけではありません。)
また新た登場人物が出てき、ムカムカ、ザマァ成分が増量されます。
次話
第二章 『隣国よりの編入生達 表』
来週月曜日に更新予定です。よろしくお願いします。