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正しい聖女さまのつくりかた  作者: みるくてぃー
第1章
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48話 それぞれの気持ち

「エスニア、そろそろ行こうか。」

「はい、エリク様。」

ワルツの音楽が鳴り響く庭園へとエスニアをエスコートしながら向かう。

今日は僕たち四年生にとっては卒業試験ともいえる最後のパーティー、この催しが終わり年が明けると、まもなく卒業を迎える。

その後は各々の領地や親の後を継ぐため、バラバラに散らばっていくことになるだろう。


そして僕はレガリアの王子として父上の元、国の公務を学んでいかなければならない。幸い内政はライラック公爵、外交はティターニア公爵、国内軍部はサイネリア公爵、防衛軍部はハルジオン公爵と主要な柱はレガリア四大公爵家が見事に掌握しており、王家との信頼も厚い。


更に不安が残る大地の衰退も、姉上や巫女達の努力もあり、あと3年間は十分対応できるとの見解だ。



「アリス様の演奏、お兄様としては鼻が高いのではありませんか?」

「そうだね、習い事の中でピアノは特にがんばっているから、音楽を奏でていると精霊が喜ぶんだそうだよ。」

「あら、それじゃ今頃アリス様の近くには精霊達が寄り添っているのかもしれませんね。」


僕には残念ながら聖女の力はないからね、精霊の存在を感じる事はできない。

今僕たち兄妹の中では姉上が弱いながらも聖女の力を継承し、そしてミリィは聖女を守り切った初代国王レガリアの役割を担っている、本人は自覚がないみたいだけど。


夏にあった小さな村の出来事を聞いた僕と父上はある事を考えていた、この国の建国者であるレガリアは祈り続ける一人の少女、レーネスを100日の間襲ってくる邪霊から守り切ったとされている。

やがて祈りを終え穏やかになりつつある大地で、二人は街を作り、国を作り、子供を作った。レガリア王家には聖女レーネスの血と聖騎士レガリアの血が受け継がれているのだ。


伝承ではレガリア王がどのようにして邪霊と戦ったかは記されていない、しかしミリィは見事姉上とアリスを守り切ってみせた、規模は比べるまでもなく小さな物だけれど、聖騎士レガリアの血は確実にミリィに受け継がれている。


「僕には姉上のような聖女の力や、ミリィのように聖騎士になれる力はないけれど、この国の民を思う心は誰にも負けていないつもりだ。だけど、時には道を間違えたり、現実の光景に挫けそうになるかもしれない、そんな時・・・」

「あら、私くしの事を過小評価しておりませんか?これでもエリク様より度胸も覚悟もありましてよ?それに尊敬できる方と可愛い妹が二人もできるんですから、悪い事ばかりではありませんわ。」

「そうだったね、これからもよろしく頼むよ副会長。」

「ふふふ、お任せください生徒会長。」


********************


「いいメロディーね、精霊達が喜んでるわ。」

あの夏の一件より私にも精霊の歌声が聞こえるようになった、まぁ聞こえると言ってもある程度精霊が集まってこないと聞こえないし、私の呼びかけにも応じてくれない、それに・・・。


「ミリアリア様、精霊の声が聞こえるのですか?」

「まぁね、ただしアリスが近くにいる時だけなんだけど」

これが私の力なのか、アリスの力が向上した為なのかは分からないけれど、今も歌声が聞こえるんだ。


「そう言えば、ミリアリア様も幼少の頃ピアノを習っていませんでしたか?」

「リコリス、それ分かってて聴いてるでしょ。」

「ミリアリア様、いつもお稽古事サボってましたもんね、その分アリスちゃんが一人で頑張ってたもの。」

わるかったわね、そもそも私に細かな作業は向いてないだって。


「ミリアリア様、お久しぶりでございます。」

「お久しぶりイリア。」

三人で会話を楽しんでいる所、話しかけてきたのは、今ではアリスの友達であるイリアだった。

リリスが先ほど話していた内容を思い出し、ちらっと顔を覗いたけれど、取り敢えずは静観するつもりみたいね。


「お話し中申し訳ございません。」

「別にいいわよ。」

「・・・私くしお父様のご好意により一人男爵家に戻る事となりました。」

「そう、よかったわね。」

アリスが近くにいない今、私の中で今現在のイリアに対する気持ちは、大切な人に危害を加えた人物以外の何者でもない、例えアリスの友達であったとしてもだ。

この辺りの思いはリリスも同じ考えだだろう、あの子は私以上に貴族階級の中で自身の立場を理解し行動している、過去の過ちを払拭するには言葉だけではなく己の行動で示さねばならないのだ。イリアが何の為に話しかけてきたのかは知らないが、場合によっては・・・。


「今は兄や姉を見習い、一から人の上に立つ立場の意味を改めて考える事ができました。私くしが今までしてきた事は無駄に領民の苦労をないがしろにしただけで、民への貢献など考えたことすらありませんでした、貴族として、いえ人として失格です。

・・・そんな私にアリス様は道を与えてくださいました、何度も嫌な思いをさせたのに、罪を許し心配さえもしてくださった。

今のままではあの方は眩しすぎて、近くにいることさえ許されません。」


「何が言いたいのかしら?」

取り留めのない言葉、イリアが言っている事は謝罪の意味ではなく、ただ刃で己を傷つけているだけ、そこにアリスの気持ちが一切入っていない事に私は苛立った、結局何を学んだのだと。


「今までのお詫びと、お別れを申し上げに参りました。」

「お別れ?」

「私くし、本年限りで学園を去るつもりです。」

辞める?やはりこの子は何もわかっていない。私が今怒っている意味を分からせようと思った時、隣からリリスが前に出た。


「それは、贖罪ということかしら?

あなたが行った行為は貴族として決して褒められたことではないけれど、今のこの判断は、罪を許し受け入れられたアリス様の事を考えた結果かしら?もしそであるならばただの偽善ね、あなたは自ら身を遠のける事で自分を納得させたいだけ、そこには他人の気持ちを一切考えていない自己満足よ。

贖罪しょくざいの望むなら、まずは己の行動で示しなさい、逃げる事は罪を償う事ではないわ。

それに・・・貴族の前に友達なんでしょ、自身の償いで友達を悲しませてはいけないわ。


ただ、あなたの決意は十分に分かりました、ですが、それは今でなくてもいいはずよ。もう一度ゆっくり考え直してみなさい。」


まったく相変わらず自身で考え努力する子には優しいんだから、イリアもリリスが言った意味をしっかり考えてくれればいいんだけれど。


「申し訳ございませんでした、私くし、また過ちを犯そうとしていたのですね。」

そう言ってイリアは深々と頭を下げたのだ、その瞳に涙を溜めながら。


「そう自分を責めていては前に進めないわ、もし自分が許せなければ、全てを許したアリスの事を思い出しなさい、そうすれば一歩前に進めるはずだから。」

イリアは無言のまま再び頭を下げ、零れるしずくをそのままにしばらく動くことがなかった。やがてルテアが肩を抱き、再び上げた顔には涙の跡と迷いが晴れた笑顔が輝いていた。


こうして少女達はいろんな感情の胸に秘め成長していく、庭園には心地よい音楽隊のメロディー、見上げる空は輝きを増しながら、学園のパーティーは終幕していった。



それから数日後レガリア全土を震撼させる出来事が起こる。

隣国のドゥーベが宣戦布告をしてきたのだった。


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