47話 ワルツに導かれて
「ごきげんようルテアさん。」
「ごきげんようミリアリア様」
控え室にある一つのテーブルを確保しルテアを迎える、前回同様リコリスはもう少し時間が掛かりそうね。
ヴィクトリアに入学した三人のうち運悪くルテアだけ別のクラスになってしまった、ただせさえアリスと離れ離れになった事で一番落ち込んでいたと言うのに、相変わらずなんて運が悪い子なんだろう。
最初の頃は心配で何かと気を使っていたけれど、今で自分で努力してずいぶん成長したと思う。もっとも離れたと言ってもすぐ隣の校舎にいるんだけどね。
「カトレアもお久しぶり。」
後ろに控える友達に挨拶をしてココリナの出すお茶を楽しむ、むむ、ずいぶん入れ方も上手くなったわね。
「リコリスさんはまだ来られていないのですか?」
「今はまだ支度している頃じゃないかしら、もうすぐ来ると思うわよ。」
アリスのいない学園では三人でよくお茶をする事が多くなった、別に三人掛けのテーブルという訳ではないけれど王女、侯爵、伯爵の三人の令嬢に近づく物好きは中々いないから助かっている。
「そう言えばアリスがルテアに会いたいって言ってたわよ、リリスとはこの間偶然出会ったらしいから。」
「リリスちゃん、アリスちゃんとお会いなさったんですか?」
「ええ、あの子音楽隊のピアノ伴奏を引き受けてるでしょ?その練習の為に最近ヴィクトリアの校内に来ていたのよ。その時偶然に出会ったらしいわ。」
控え室にはまだ生徒の数は少ないからついいつもの呼び名で話してしまう、正直堅苦しいのは好きじゃないのよね。
「この中で私だけアリスちゃんに会えてません!」ぶぅ~
「リリスはたまたまでしょ?」
「でもでも、ミリィ様もカトレアさんもココリナさんもいつも会ってるじゃないですか。私だって会いたいんです!」
もう、また始まったわねアリス依存症が、まぁ最近忙しかったしアリスも会いたがってるから何とかしてあげるわよ。
「わかったわよ、この退屈なパーティーが終われば学園の休校日になるから、アリスと予定を開けておくわ。」
「本当ですか!でもミリィ様もアリスちゃんも忙しいのではないんですか?」
「たぶん午後からなら大丈夫よ、稽古はサボればいいし、剣の練習は朝にすればいいし、アリスはただ聖剣の作り方を調べてるだけだなんだから、なんとかなるわ。」
もともと稽古はアリスしかしていないしね、それに最近は誰かが止めないとずっと書庫に籠りっぱなしなのよ、本当に聖剣を作るまで続けるつもりなのかしら。
「何の話ですか、愉快な話の中にさりげなく物騒な話が混じっていましたが。」
「早かったわねリリス。」
ちょっと場を明るくしようと思って冗談半分に言った言葉を、まさかリリスに聞かれるとはちょっとマズったかな、夏にあった邪霊退治の話はしていないのよね。
「ミリィ様、アリスちゃんなにしてるんですか?今聖剣がどうのって。」
「また危ないことを考えてませんよね?」
またって何よまたって、そんな毎回危ないことばかりしてないってば。適当に誤魔化してもリリスは鋭いからなぁ、嘘がバレたら後でまたグチグチ言われるのが目に見えてるのよねぇ。
自分を落ち着かせようと紅茶を一口・・・。
「ミリィ様、誤魔化そうとか思ってませんよね?ふふふ」
ぶふっ、まてまて、何でいつも人の心を読めるのよ!
そう言えば私の癖をアリスに指摘されたんだっけ、もしかしてリリスも知ってたの?
「リ、リリスちゃん?なんか笑顔が怖いよ・・・、ひぃ!」
「コラコラ、ルテアを怯えさせたらダメでしょ、分かったから、話すから落ち着きなさい。」
あぁ、もうその笑顔はトラウマになるから、ルテア泣いちゃうでしょうが。
この後邪霊退治の事からすべて暴露させられました・・・。
「・・・という事なのよ、別に危ないことをするつもりはないわ。」
「つまりはミリィ様がまた、無謀な事しないためにアリス様が聖剣作りをしておられるんですね。」
「もう相変わらずアリスちゃんは突拍子もない事を考えるんだから。」
「それにしても、そんな重大な事件を私くし達は聞いてなかったという事なんですね。」
「ごめんてば、あの事でアリスと喧嘩してたから言い出せなかったのよ。」
仕方がないじゃない、アリスってば中々許してくれなかったし、それに仲直りした後はすっかり忘れてたのよ。
「わかりましたわ、お立場上もう危険な事はしないでとは言えませんが、無茶な事だけはなさらないでくださいね。」
「は~い、誓います。」
何だかんだと言いながらもリリスは私達の事を一番心配してくれてるのよね。
ルルルールッル、ルッル♪ルルルールッル、ルッル♪ルルルールルール、ルッルルッル・・・
庭園の方から軽やかなワルツのメロディーが聞こえてくる。
「そろそろ始まるようですわね。」
「それじゃそろそろ行きましょうか。」
「アリスちゃんのピアノが聞けるのも楽しみですね。」
退屈なパーティーだけれど、アリスの伴奏でも見に行きましょうか。
ココリナ達を残し、私達三人は庭園へと向かうのでした。
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